今日のデートは「過去」がテーマです。
というわけで池袋。
見慣れた池袋の西口界隈の風景は、まもなく再開発で一新されてしまう。つまり、今の街並みは、もう戻ることのできない過去になる。
どうせ未来の我々は「そういえば昔の池袋の西口ってさぁ」みたいな感じで、昔に思いを馳せたがると思うので、そのときのネタにするため、今の池袋西口の街角風景を目に焼き付けておくか、と。エルボーに刺激を与えたくないオレは一人訪れてみたのだ。
でね、池袋西口公園だけど、こちらはもう再開発後の新しい“池袋”。ごらんのとおり、都会のオアシスともいうべき公園として、すでに整備されている。
でもね、この公園から池袋駅西口方面に歩いて行くと、戦後の闇市をルーツとする街並みが風景が広がる。終戦直後からの闇市を経て、その歴史を刻んできた池袋の西口界隈。
ここがどどーんと再開発されるのだ。
西口公園のフェスと連動する形で西口駅前の広場にも特設ステージがあった。そのステージの後ろ側から、まもなく姿を消であろう再開発エリアを見ておいた。
「近所に墓地があります」。気にしますか?
さて、エルボーと地下鉄有楽町線の護国寺駅で待ち合わせて、護国寺を背に散歩スタート。
「そうそう、『東京散歩地図』の新版には銭湯の話題も特集してあるよね」
「そうだね。行ってみたい魅力的な銭湯がいっぱい載ってたよね!」
そんな話をしながら、雑司ケ谷霊園に着いた。
「オレ、永井荷風が好きだからさ」
「じゃあお墓参りしておこうか」
季節は5月。
気持ちいい風を感じながら「今日ってお墓参り日和だね」とついついわけのわかんないことを言う。
「ここって有名人のお墓が多いのね」
案内板を見ると、永井荷風のほか、有名人の方々がちらほら。
「ここって、霊園なんだろうけど公園っぽい感じもするね」
「そうだね、巨木もいっぱいあるし」
ところで、取引したい物件の近所に墓地があったら、どうですか?
人それぞれだけど、気になりますか?
不動産の取引にあたり、業者側は契約前にその物件についての「重要事項の説明」というのお客さん側にするわけだが、重要事項として「墓地」をどう説明するのでしょうか。
「家から墓が見える」、というと気になってしまう人は多いのではないでしょうか。しかし、たとえばですよ、横浜の山手にある一種の観光地となっている外人墓地だったらどうでしょうか。いまエルボーといるのは雑司ケ谷霊園だけど、こちらもどちらかというと公園ぽい。「嫌だな」と感じる人は少ないような気がしますよね。
まぁそんなわけで、心理的に影響されるもんだから基準を決めにくい。なのでこのあたりのことはしっかりした決まりがあるわけではなくて、宅建試験でも出題されない内容なんだ。
じゃあ実際の取引の場では、どんな運用がされてるのか? 一般的な話にはなるけど、借りようとしている家と墓地が隣接しているなら説明する(っていうが現地を見に行けばわかることだけど)。ちょっと離れているなら、まぁいちおう言っておくか、みたいな感じです。墓地の情報を絶対教えてくれる、というわけではないので、もし気になる人は、取引をするときにちゃんと現地周辺を見たほうが良いね。
「墓地」「霊園」、違いは何?
あ、そうそう。
雑司ケ谷霊園は「霊園」となっていますが、世の中、墓地とか墓園とか、いろんな言い方をしています。
ではここで問題。「墓地」「墓園」「霊園」。この違いってなんでしょう?
【墓地】
「墓地、埋葬等に関する法律(墓地埋葬法)」に基づくもので「死体を埋葬しまたは焼骨を埋蔵する墳墓を設けるために、都道府県知事の許可を受けた区域」をいう。
一般的なお寺(最初に訪れた「護国寺」にある墓地とか)はこちらです。
【墓園】
都市計画法に基づく「都市施設(公共施設)」としての名称で、「都市計画」で定める。まちづくりの一連の計画(都市計画)の中で定める公共施設という位置づけで、地方公共団体の管理となる。
「雑司ケ谷霊園」はこちらです。
そんでね【霊園】については法的な定義はないんです。通称というか単なる名称なんですね。
ちなみにですが、東京23区にある都立霊園は、ここ雑司ケ谷霊園のほか、青山霊園(港区)、染井霊園(豊島区)と谷中霊園(台東区)の4つです。
雑司が谷に道路計画が
雑司ケ谷霊園を出ると都電荒川線の雑司ケ谷駅がある。
そこにはなにやら看板が。「都市計画事業のお知らせ」だ。
看板にもあるとおり「都市計画事業」として、つまり「都市計画」で定めた道路を実際に建設しているわけだ。
ちなみに「都市計画」とはなにか。
宅建試験ではおなじみだが、まさに読んでのとおりで、都市を作るための計画です。
都市計画法を根拠に、都道府県や市町村などが定めます。
どういう街にしていくか。ここは住宅地にしよう。駅前のこのへんは商業地域にしよう。工場はこのあたりに工業地域として集約しておこう……などなど。それに加えて、道路や鉄道などの公共施設(法的には都市施設といいます)も整備していく必要もありますね。
ということで、ここではそういった都市計画に基づいての道路工事(都市計画事業といいます)が行われているわけだ。
そしてこの道路なんですけど、都電荒川線の線路下に潜る。
つまり地下に入る。
となると、そうです、お気づきの方もいらっしゃるかと思いますが、都電荒川線の線路下には、地下鉄副都心線が走っているじゃないか。
どうすんだおい。
……と、これがですね、さすがニッポンの土木工事力。なんと、地上の都電荒川線と副都心線の間の“土” の部分に、絶妙なトンネルを造って、そこを道路とする。
たまげた芸当です。
「人って簡単に木切っちゃうけど、私こういう古い木を大切にしたいなって思うんだよね。色々と事情はあるんだろうけど」
「そうだよね。雑司ヶ谷鬼子母神にも樹齢600年以上、樹高約30mを超える東京都指定天然記念物のイチョウがあるみたいだよ」
「いいね〜。見に行こう」
立派な古木に心洗われるような時間を過ごした後、再び大きな通りに出て、池袋の喧騒を避けようぜといいながら目白方面へ。
「見て見て!すごい!」
「崖だ。こういう擁壁(ようへき)工事ってどこからどう始めるんだろうね」
はい、土地を削ったり(切土といいます)、盛ったり(盛土といいます)する工事は、たまに見かけるかもしれません。でもこれ、ちゃんと土留め工事をしておかないと危ないですよね。
擁壁とはこういった土砂災害を防ぐための壁で、一定の基準に基づき設置しておかなければなりません。
ちなみに写真手前は「鉄板」で土を押さえてますね。仮止めぽい感じです。やはり石で積み上げられている擁壁だと安心感あり。
……お気づきですか。
そうです、この石の積み上げ方なんですが、どうやら原理はお城の石垣と一緒。わがニッポンの伝統芸、とでもいいましょうか。
なので、コンクリートで表面を固めた擁壁だと、ちょっと味気ないかな(笑)。
今回は橋の上から工事現場を見下ろしていますけど、こうした擁壁は街の随所で見かけます。
みなさんも今度、坂や高低差がある街を散歩しているとき、たまには擁壁の存在に気づいてあげてくださいね。
そうなんですよ、存在が地味なんです。でもね、地味ながらも、我々の街を守っている大事なアイテムなのであります。
都電荒川線を通常営業させながらの工事。
「ニッポンの土木技術はすごいよね」
「そうね」
絶妙に崩れない。支え合う確かなものが、そこにある。
ゆっくり振り向いたエルボーと目があう。
すると。
「私たちとは大違いね」
……なにかが崩れた。
取材・文・撮影=宅建ダイナマイト執筆人