行列の先には和テイストの落ち着いた店内
緑色の暖簾や日除けが目印で、店頭に掲げられた白い提灯に「鴨」という大きな黒文字が印象的。営業時間中はもちろんのこと、開店前から行列ができているので、行列も目印になるだろう。
店長の天土真康さんは「ありがたいことにたくさんのお客様が来店してくださっています。休日ですと開店前から40人ほどお並びいただくこともあります」と話す。
カウンター席のみで、カウンターの天板は畳敷き。「鴨」と書かれた書や一部が木目調の壁など、和の風情を感じることができる。
濃厚な鴨の旨味とアクセントになるネギ
券売機左上には「今月の葱」が書かれている。この店の特徴のひとつなのだが、月替わりで産地や食感、味わいが異なるネギを選ぶことができるのだ。今月は「国産丸太白葱」「輪切り葱鰹節のせ」「万能葱おかひじき和え」の3種類だった。スタッフに食券を渡す際にこの中から2種類を選ぶことになる。
鴨コンフィ麺1260円を購入。ネギは輪切り葱鰹節のせと万能葱おかひじき和えを選ぶ。
鴨のコンフィが麺を覆うほどのっていて、2種類のネギもたっぷり。いい香りに誘われるようにスープをひと口。鴨の香りと芳醇な旨味が口の中に広がる。飲み口はスッキリとしているので、スープだけをどんどん飲みたくなるほどの旨さだ。
天土さんによると「スープは鴨・ネギ・水だけで作っています。厳選した合鴨を丸2日間弱火でゆっくりと炊き上げます。鴨本来のコクが抽出されて、ネギの成分でさらにおいしさが増し、奥行きのある味わいになっています。化学調味料を使用していないのでこのバランスが難しいです」と教えてくれた。
鴨のコンフィも素晴らしい。コンフィとは、フランス料理の一種で低温の油でじっくりと煮た料理のこと。
ピンク色をした鴨のコンフィは、見た目にもきれいで食欲をそそる。ひと口頬張ると肉々しいしっかりとした食べごたえで、食べ進めていくとジワッと鴨の脂が口の中に広がり、幸せな気分。
ネギも忘れてはいけない。ほどよい辛さが感じられる輪切り葱鰹節のせ、香りが豊かな万能葱おかひじき和えはともにシャッキリと歯ごたえがあり、アクセントを加えている。
食べ進めて思ったのだが、適度な脂感があったスープが、ネギやかつお節、オカヒジキが相まって、スッキリとしてさらに上品な味になっていく。
卓上には辛みと香りが強い自家製の香り一味や、柔らかな辛みがある自家製柚子胡椒などがある。完成度が高いスープに加えれば、一段上の味を堪能できる。
鴨の風味をより強く感じるつけそばも人気
鴨つけそば1050円は、より強く鴨の風味を感じたい人におすすめ。つけそば(つけ麺)といえば、濃厚で強い酸味のものが多いが、この店では、どちらかというと日本そばのようなあっさり感がある。鴨の脂の旨味が広がり、角切りにした鴨のコンフィの食感と、トッピングのネギが味や食感が加わって格別。
これにニンニクが加えればパンチも生まれ、スープを刺激的な旨さにしてくれる。注文時に聞かれるが、ニンニクを1~3個まで選ぶこともでき、スライスした状態で入れられる。ニンニクは抜きにすることも可能だ。
麺は鴨コンフィ麺とは異なる中細ストレート麺。ツルツルとしてモッチリとした食感で、優しい濃厚さのあるつけ汁と相性抜群。
ラーメン店とは思えないほどの本格丼
ラーメンやつけそばとセットにできる鴨親子丼(小)とトロたく丼(小)各320円もぜひ一緒に食べたい。
鴨親子丼はトロットロの卵がご飯を覆い尽くす。甘みがある割り下で味付けされていて、柔かでしっかりとした肉質の鴨のおいしさが一体となる。多くの店では親子丼には玉ネギを使うが、この店では長ネギを使用。シャキッとした歯ざわりと、甘みがプラスされている。
トロたく丼には、静岡県・清水港で水揚げされたマグロを使用。一流料亭や寿司屋にも卸しているという厳選されたマグロだ。ネギトロの旨味とたくあんの食感が相まって、口の中が楽しくなる。
鴨とネギのおいしさを一度味わいたい
ラーメン店を開く際に「ほかとは変わったラーメンを作りたかったので、鴨汁そばをヒントにしました。鴨は下処理が大変ですが、スッキリとした脂がおいしさを増してくれると思います。
ネギはそのときおいしいものを選んでいいます。旬や季節を考えたアイデアネギもご用意していますので、味の変化もお楽しみ下さい」と話してくれた。
鴨とネギのおいしさを堪能できるラーメンやつけ麺はなかなか味わえない新感覚。シンプルな素材で作り上げた奥深さを感じる一杯は、一度食べればクセになるだろう。
取材・文・撮影=速志 淳 構成=アド・グリーン