週替わりカレー目当てのコアなファンも通う
エレベーターを降りると、開放された扉に貼られたハトのキャラクターがスプーン片手(片羽?)にポーズをキメて迎えてくれる。誘われるように入った店内は、さっぱりと清潔で、カウンター席ながら落ち着ける雰囲気。
なかなかにワイルドな店主の藤井世紀さんは、その見た目に反して物腰やわらか。世紀と書いて「つぐき」と読むそうで、店名の『カレバカ世紀』も「せいき」ではなく、「つぐき」と読む。カレーバカな世紀(つぐき)という意味だ。
伝統的なカレーに加えるこの店ならではのスパイスとは?
この日の週替わりカレーは、豚骨ラーメンをリスペクトしたかのようなとんこつ・豚・ニンニクのカレー。残念ながら売り切れてしまっていた。週替わりカレー目当てなら、ランチの早めの時間に行くのが安全。二郎風カレーなるものもあるらしく、ほかにはないユニークなカレーが食べられるのもここの魅力。これはルーティン必至だ。
そこで週替わりカレーを諦めて、ポークビンダルーを注文。西インド・ゴア地方の伝統的なカレーで、赤ワインとビネガー(お酢)で煮込む酸っぱ辛いあとひきな味が特徴。最近のグルメトレンド情報でも注目を集め、ジワジワ人気上昇中のスパイスカレーだ。
ひと口目からガツンとスパイシーな辛さが広がるが、酸味はやわらかい。「うちのビンダルーは、そんなに酸っぱいほうじゃないんです」と藤井さん。タマリンドを使うことで、このやわらかな酸味を引き出している。
それにしても、鼻に抜けるようなこのスパイスは何だろう。「山椒を効かせてるんです。中国の青山椒です」と教えてくれた。いわれてみれば、なるほど確かに山椒だ。さらに気になったのは、ゴロゴロと入っている緑色の実。噛むとほろ苦く、舌がしびれるような感覚で爽やかな後味がする。聞くと、「それはグリーンカルダモンです。ブラックカルダモンと2種類のカルダモンを使ってます」とのこと。
スパイスの女王ともいわれるカルダモン。とくにグリーンカルダモンは、もっとも良質とされる高価なスパイスだ。それを惜しげもなく使って作る『カレバカ世紀』のポークビンダルー。遅ればせながら、ポークビンダルーをはじめて実食した筆者。こんなにも贅沢で複雑なのに、シンプルにおいしいと思うこのポークビンダルーで初体験できたのはラッキーだ。
おいしいものは人を幸せにするのだ。カレーバカの熱い心意気をビシバシ感じながら、完食した。
取材・文・撮影=京澤洋子(アート・サプライ)