「地理人」でも道に迷うことはあるの?

吉玉 : どんなに方向オンチでも地図が読めるようになる本』、読みました。この本に書かれていることはきっと、今和泉さんにとっては当たり前のことだと思うんです。でも私にとっては、今まで気づいてなかったことばかりでした。たとえば「地図を見るとき、道の太さや間隔から風景を想像する」とか。

今和泉 : こういうことは、なんでもないときにあてもなく地図を見てる暇人しか気づかないんですよ。ふつうは地図を見るとき、目的地の周りしか見ないですから。

吉玉 : ほかにも「ゆるいY字路は間違えやすいから立ち止まって地図を確認する」とか。たしかに、ゆるいY字路ってGoogleマップのナビを見ていても間違えます。

今和泉 : でもGoogleマップは間違えやすいはずですよ。なぜってあれ、経路を示す青線しか見えないじゃないですか。経路以外は薄い灰色だから、間違えやすい道であることに気づかない。

吉玉 : まさにそれです。気づかず、だいたい違うほうに行っちゃいます。

今和泉 : それはきっと間違えたときのことだけを記憶してるからですよ。今まで、間違えずに行けたY字路もあったはずです。迷わなかったときは、そこがY字路だったことに気づいてないんじゃないですか。

吉玉 : なるほど! 記憶にバイアスがかかってるんですね。

吉玉 : 今和泉さんでも迷うことありますか?

今和泉 : 迷いやすいところはあります。たとえばこの辺は要注意ですね(日本橋あたりの地図を開く)。この道とこの道って平行じゃないですか。でもこっちへ進むと……あらららららら! 道が曲がってて、気づいたら平行じゃなくなってるわけです。

吉玉 : 少しずつゆるやかに曲がってる道って、気づかないうちに向きが変わってますよね。

今和泉 : そう。歩いてると「今10°曲がった!」とか分からないんですよ。

吉玉 : まさに私の問題点がそこで。なぜか、すべての道が直線で、90°で交わってるように感じるんです……。

点や線ではなく、街を「面」で把握する

吉玉 : 前回、歩いたところを地図に描き起こしてみたんです。これなんですけど……。

御茶ノ水駅を起点に神保町をぐるりとさんぽ。その歩いた道を後から地図に書き起こしてみたのですが……。

今和泉 : あれあれれれれれれ! 途中がハテナだ!

吉玉 : 途中から地図を見ずに歩いたんですが、その部分がまったく描けませんでした。

今和泉 : でも、かなりちゃんと記憶されてるほうだと思いますよ。

サラサラと御茶ノ水~神保町の地図を描き始めた今和泉さん。

吉玉 : 御茶ノ水の地図、よく描かれるんですか?

今和泉 : はじめて描きました。

吉玉 : なんでそんなにスラスラ描けるんですか!?

今和泉 : でも、私はざっくりとしか把握してないですよ。建物の名前とかは、近くに行ってから地図を見ればいいので。俯瞰の視点でおおまかにとらえるのが大切です。

吉玉 : 目印ばかり気にしてました……。

ものの数十秒で地図が!

今和泉 : 大事なのは、街を面でとらえることなんです。点や線ではなく。
ひとつの通りを線とします。御茶ノ水、神保町周辺には何本か大通りがあって、縦横に交わってますよね。縦横いろんな線が3本以上あると面になるんですよ。

吉玉 : 面になる……?

今和泉 : たとえばこの辺は坂道が多いですけど、坂って1本だと「この坂きついな~」って記憶しか残らないですよね。でも、2本3本と坂を行き来すると、どこの道を上っても御茶ノ水からさらに上る経験をしないから、ここが台地の一番上だと気づく。
点をつないで線にして、線を集めて面にする。そうして全体像を把握するんです。

街をストーリーで覚える

吉玉 : やっぱり地形や歴史に興味がないと、土地勘って育たないものですか?

今和泉 : 実は、私は地形や歴史にはそんなに強くなくて。「地図好きは全員地形や歴史が好き」と思われてるんですけど、それって『ブラタモリ』の影響ですよ。
私は、人の流れに興味があるんです。

吉玉 : 人の流れ?

今和泉 : 「御茶ノ水や神保町は、なんでこんなにもスポーツ用品店と古本屋と楽器店があるのか?」そう考えたとき、「ここは日本最古の学生街なんだ!」と答えが見えてくる。戦前の暇を持て余した学生が、読書やスポーツをしていた名残なんですね。
そういう、人の流れや街のなりたちを考えるのが好きで、そっちに重点を置いています。

吉玉 : それなら興味を持てそうです。歴史はまだしも、地形になるとスケールが大きくて興味を持てないので……。

今和泉 : 地形って、数万年単位の話じゃないですか。山が噴火して、水が湧いて、大地が削られて、水が低いところに流れて川ができて……それが数万年かけて起こる。スケールも100キロ、200キロ単位の話だから、想像しにくいですよね。

吉玉 : でも、地図好きの中には、地形マニアの方もいらっしゃるんですよね?

今和泉 : そうですね。でも「みんながそうじゃないよ」っていうのは言いたい。私にとって地形はメインディッシュではなくサラダです。

吉玉 : サラダ……!

今和泉 : 地形も沼にハマるとなかなか抜け出せない面白さがありますけどね。
ところで、川がある場所って本来は平らですよね。じゃあここ(地図を指す)を神田川が流れてるのは不思議ですよね? 坂なので。

吉玉 : そう言われれば……。

今和泉 : もともとの川はこっちを流れてたんですよ(地図上に指で示す)。江戸時代、火事と洪水に激困りの民がここをエッサホイサと手で掘って、神田川を無理やり曲げたんです。
こういう面白エピソードを記憶するときは、ざっくりした脳内マップを用意していただいて、地図と照らし合わせて覚えてほしいです。

吉玉 : 街をストーリーで覚えるんですね。

今和泉 : ストーリーは、いわば線なんですよ。でも、複数のストーリーが集まると面になるんですね。
たとえば、ひとりの戦国武将の生涯を見ても「こいつ、とんでもないやつだな」としか思わないけど、それが3人いると、「そういう時代だったんだな」って時代背景がわかるじゃないですか。

吉玉 : ストーリーも坂も、線を集めて面にするのが大事なんですね。

地図は必ず見るし、「あれ?」と思ったら調べる

吉玉 : あと、私は町田に住んでるので、よく行く町田駅周辺の地図を描いてみたんです。

今和泉 : わぁ、縦横になってる!(笑)

私が描いた町田。夫には「パラレルワールドの町田」と言われました。

吉玉 : やっぱり違いますか?

今和泉 : ここはね、図書館のほうから小田急の駅に向かって、道がゆるく開いてるんですよ……。

またもやサラサラ~っと描いてくれました。町田に5年住んでる私より、ずっと完璧に記憶されてます。

吉玉 : この記憶って、地図で見た記憶ですか?

今和泉 : それもありますね。地図を見てから行くこともあるし、行ってから地図を見て風景と重ねることもあるし。

吉玉 : 地図は必ず見ますか?

今和泉 : 見ます! 映像記憶だけだと記憶がなくなるので。

吉玉 : 見るようにします!

今和泉 : ちなみに、なんでこんなにホームから遠いところに改札があると思いますか?

そう言って今和泉さんが指したのは、商業施設「ミーナ町田」。JR横浜線の改札があるのですが、たしかに駅のホームからは遠いです。

吉玉 : そう言われれば、たしかに駅から離れてますよね。

今和泉 : 実はですね、昔は駅がここにあったんです!

吉玉 : そうなんですか!?

今和泉 : 昔はこのへんに国鉄原町田駅、こっちに新原町田駅というのがあって。だから、ふたつの駅を結ぶ通りに商店街ができたんです。

吉玉 : 何年ぐらい前のことですか?

今和泉 : 40~50年前ですね。

吉玉 : 生まれてない時代のことをどうやって調べるんですか?

今和泉 : 簡単に調べようと思ったらウィキペディアですね。歩いてたり、地図を見てると「あれ?」って思うんですよ。「なんでこうなってるんだろう? 怪しいぞ」と。そう思ったら調べます。もの好きの発想ですけど。

吉玉 : そもそも、「なんでこんな遠いところに改札があるんだろう」って疑問を持ったことがありませんでした……。

地図や街をよく見ている今和泉さん。地図を描いているときの表情がめちゃめちゃ楽しそうで、本当に地図が好きなんだなぁと感じました。

正直言うと、私はそもそも街や地図への興味が希薄な人間です(方向音痴の人ってそうじゃないですか?)

だけど、今和泉さんの「街のストーリーに興味がある」という話にはとても共感しました。ストーリーや人間と絡めれば、もっと街への関心が深まるかも……!

次回は、今和泉さんが7歳から描いていたという「空想地図」のお話や、地理人流・旅の楽しみ方についてです。

どんなに方向オンチでも地図が読めるようになる本 (だいわ文庫)

文=吉玉サキ(@saki_yoshidama