7歳から空想地図を描いていた理由

吉玉 : 今和泉さんは7歳から「空想地図」を描いていたそうですが、そのときから街のストーリーに興味があったんですか?

今和泉 : いえ、あとからですね。はじめは単純に、地図そのものに興味を持ちました。地図を見ているうちに、街のストーリーにも興味を持った感じです。都会と田舎の違いだとか。

吉玉 : それで、架空の都市の地図を描くようになったんですね。
空想地図で思い出したんですが、私は子供の頃に「架空のクラス」を作ってたことがあって。座席表に全員の名前を書いて、成績順とかクラブ活動とか書いて。

今和泉 : えぐいなぁ(笑)

吉玉 : 今和泉さんの空想地図も、私にとっての「架空のクラス」と似た発想が出発点だったのかな、と思いました。もちろんクオリティはぜんぜん違うわけですが……。

今和泉 : 非常に近いと思います。
ものごとを理解するとき、人から教えられたものを受け取るタイプと、自分で創作しながら理解するタイプがいる。私は後者なんです。アイデア料理のごとく、「この調味料を入れてみたら美味しくなるんじゃないか?」ってやってみるタイプ。

吉玉 : 地図を創作することで、より理解を深めていったんですね。

旅は準備段階から始まってる! 紙の地図と時刻表のススメ

吉玉 : 今和泉さんは、学生時代に47都道府県を旅して土地勘を得たんですよね。
旅行するとき、目的地を決めて行く派ですか? それとも、行き当たりばったり派?

今和泉 : 目的地と経路をばっちり決めていきます。むしろ経路が目的地です。
移動は基本的に、在来線普通列車と路線バスなんですけど、事前に地図や時刻表を見て、「ここからここまでは歩いて行けるな」と、歩いてまわるルートを考えるんです。その準備段階が旅の序章なんですよね。

吉玉 : たくさん予習されるんですね。

今和泉 : 着いた瞬間、地元の人になりたいんですよ。電車を下りたとき、慣れた感じで「どの出口から出て、何番乗り場でどのバスに乗るか」を知っていたいんです。

吉玉 : すごい! じゃあ、あらかじめ決めたとおりに旅をするんですか?

今和泉 : いえ、私は下調べをたくさんする代わりに、予定を崩しながら行くこともあって。どの駅なら電車1本逃しても大丈夫か、時刻表でざっくり把握しておきます。

吉玉 : 乗換案内アプリじゃなく、時刻表?

今和泉 : 意外とおすすめなのが、時刻表をポチポチと見ることでして。

JR時刻表を開く今和泉さん。お目当てのページを見つけるのがめちゃくちゃ早いです。

今和泉 : たとえばここ、大変なことになってるの知ってますか?

吉玉 : 大変なこと?

今和泉 : ここからここの区間は数字がぎっしり。本数がこんなにあります。でもこの先は……あららららら! ぜんぜんない! 3時間待ちです。しかもこの駅はまわりに何もないので、この電車を逃したら大変なことになりますよ!

吉玉 : 本当だ! 検索だと知りたい電車の情報がピンポイントで出るから、その次の電車まで調べたことなかったです。

今和泉 : 調べなくてもいいんですよ。ぱっと見て、本数が多いか少ないか。密度と前後関係を見るんです。時刻表は「模様」として見ると面白いんですよ。

吉玉 : 玄人っぽい……!

今和泉 : 時刻表の密度で、ここから家が少ないんじゃないかなとか、人が少ないだろうなとか、そういうのが見えてくるんですよね。時刻表から風景が立ち上ってくる。

吉玉 : 地図と同じなんですね。

今和泉 : はい。地図も時刻表も、検索だと探した情報しか入ってこない。けれど、紙の地図や時刻表を眺めてると、探してない情報も入ってくる。「こんなところにこんなお店が!?」とか、目的地じゃないところも見つけられるんですよ。

吉玉 : 最短で最低限の情報を得るよりも、なんだか豊かな感じがしますね。私も紙の地図買います!

今和泉 : 重いので、行くところだけコピーして持って行くといいですよ。書き込んでもいいですし。
紙の地図のメリットは、縮尺が揃っているところ。パッと開いたとき、「ここからここまで15分くらい」ってすぐ分かるのがいいですね。

風景の擬人化!? 車窓の風景を「ストーリー」として見る

吉玉 : 個人的なことですが、東北旅行の予定があるんです。旅行や街歩きのコツを教えてください!

今和泉 : おっ、いいですねぇ。交通手段は?

吉玉 : 青春18きっぷで鈍行です。

今和泉 : おぉ!

吉玉 : ちょうどお昼頃に宇都宮で餃子を食べて、夕方ごろ仙台に着く予定です。

今和泉 : 飛ばしますねぇ。

18きっぷと聞いて目を輝かせる今和泉さん。

今和泉 : 宇都宮から仙台だと、時間帯によりますけど、金谷川駅のあたりは福島大学の学生で混みますね。そのあと、福島始発の電車も意外と混むんですよ。でも、藤田駅あたりで高校生がみんな降りるから、このあたりからは座れますよ。
電車に乗ってると「県境の法則」っていうのがあって。県境で電車の便数が少なくなるんです。そして、乗客も少ない。県境って、人はなかなか越えないんですね。越境して通学してる人以外、高校生は県境の手前で降りるし。

吉玉 : 電車でも人の流れを把握してるんですね!

今和泉 : 私は移動経路が目的地なので、電車の中もずっと気にしてるんですよ。「山を越えたらしばらく景色がいいぞ」とか「この辺で人がたくさん乗ってきて、家が増えてくるんだな」とか。

吉玉 : ずっと窓の外見てるんですか?

今和泉 : はい、風景を「ストーリー」だと思って見てるので。
駅名はタグ付けみたいなもんですね。ふせん貼って見出しをつけるようなもの。タグが多いほうが記憶に残りやすいので、なるべく各駅停車に乗るんですよ。

吉玉 : 窓の外見ながら、メモとったり写真撮ったりしますか?

今和泉 : めちゃくちゃします。

吉玉 : そうやって記憶に刻むんですね。私、仙台まで本読んでるつもりでした。

今和泉 : ずっと窓の外を見てなくてもいいんですよ。たまにパッと見れば。面白いですよ。

吉玉 : 車窓の風景を眺めるのって、たとえばどういう面白さがありますか?

今和泉 : たとえば、日本で二番目に大きい県の岩手県。盛岡の南と北では「岩手感」がぜんぜん違うんです。

吉玉 : 都会と田舎の違いですか?

今和泉 : どっちも田舎です。でも、田舎はひとつじゃないんですよ。風景のコントラストがあるんです。
いかにも宮沢賢治っぽいのどかな田園風景が、盛岡を境に、真っ黒な森になっていく。「ここにひとり取り残されたらどうなるんだろう……」と恐ろしくなるような黒い森が、その先しばらく続きます。

吉玉 : それは怖いですね……。風景が変わらないとき、飽きないんですか?

今和泉 : 飽きすぎて笑っちゃいます。クアラルンプールからシンガポールの鉄道に乗ったとき、びっくりするぐらい変わらなくて。

吉玉 : どういう風景だったんですか?

今和泉 : ヤシの木のプランテーションです。実を収穫するために品種改良されたヤシなので、背が低いんですね。背の高いヤシなら壮観なんですけど、低いと目線の位置に実があるんです。それが4時間ずっと続く。

吉玉 : たしかに、4時間ずっとヤシは笑っちゃいそうです。

今和泉 : その点、日本は風景が変わりやすいですね。「集落があり畑があり、遠くに山が見え、山を越えたら県境で人の流れが途切れる」というように。

吉玉 : それが今和泉さんの言う「ストーリー」?

今和泉 : そうです。風景をストーリーに置き換えてるんです。風景の擬人化、おすすめですよ!

吉玉 : なんたるパワーワード……!

今和泉 : 自分の中で印象的だった点と点を線でつなぐんです。地名と自分なりのストーリーを結びつけてざっくり覚えておくと、その集積が面になっていくのではと思います。

illust_12.svg

地図と時刻表を見ながら、いろんな街の豆知識を楽しそうに教えてくれる今和泉さん。

取材後の雑談で、私が「実家は札幌で、○○駅が最寄りなんですが……」と言うと、「○○駅といえば、最近駅ビルのあたりが変わったそうじゃないですか! 行かなきゃと思ってたんですよ」と言われました。

○○駅はとても地味な駅で、駅ビルリニューアルは札幌市民ですら知らない人が多い話題。あらためて、今和泉さんの知識量に圧倒されます。引き出しの多さもさることながら、「風景の擬人化」など、独特な感性にも引き込まれました。

さて、次回は地元・札幌での散歩チャレンジ。地理人に感化され、街の見え方は変わったのでしょうか……?

文=吉玉サキ(@saki_yoshidama

どんなに方向オンチでも地図が読めるようになる本 (だいわ文庫)
昨年の12月、方向音痴界に激震が走るタイトルの本が発売されました。どんなに方向オンチでも地図が読めるようになる本 (だいわ文庫)本当に「どんなに方向オンチでも」大丈夫なのでしょうか。気になったので、発売日に買って読んでみました。結論から言うと、私が知りたかったことがすべてこの一冊に書かれています。どうしよう、方向音痴がなおってこの連載が終了してしまう……!慌てて担当編集の中村嬢にメールしたところ、「安心してください。本の内容を理解できても、吉玉さんがそう簡単に実践できるとは思いません」との返信。ある意味、私に絶大な信頼を置いてますね。それはさておき、この本の著者である今和泉隆行さんは「地理人」と呼ばれる地図の専門家。「7歳の頃から空想地図(実在しない都市の地図)を描く空想地図作家」として『タモリ倶楽部』『アウト×デラックス』にも出演され、話題となりました。地図が大好きな人の頭の中を見てみたい……!というわけで、実際にお会いしてきました!
こんにちは、いつも迷子のライター・吉玉サキです。突然ですが、私の出身地は北海道札幌市。ご存知の方も多いかと思いますが、札幌の中心部エリアはいわゆる碁盤の目状になっているんですね。地図を見ると、たくさんの縦の道(南北)と横の道(東西)が垂直に交差してるんです。そして住所は、南北を条、東西を丁目で表します。たとえば「南1条西4丁目」というように、南北・数字+東西・数字の組み合わせなんです。条・丁目を略して「南1西4」などと呼びます。この住所が、信号横のプレートに掲示されているんですね。なので理論上は、住所さえわかれば、地図を見なくても目的地にたどり着けるはず。でも、方向音痴の自覚がある私は、今までそういう冒険をしたことがありませんでした。そこで今回は、帰省がてら札幌の街を歩いてみました。前編では、幼なじみから指定されたカフェへ、地図を見ずに行ってみます。はたして、住所だけでたどり着けるのでしょうか……?