浅草橋・蔵前の基礎知識
浅草橋は、日光街道が通じていたことから、古くから問屋や製造業が集まり、ものづくりの街として発展してきた。人形店『久月』や『吉徳』はいずれも江戸時代の創業。街の歴史をいまに伝える証人でもある。江戸通り沿いには、文具、花火、玩具、紙製品などの店が並び、独特の街並みを形成している。
蔵前では、近年若手のクリエイターの革製品やアクセサリーなどの工房が増え、新たなものづくりの街として注目されている。街に点在する新感覚のカフェにも注目だ。
隅田川の右岸に連なる浅草橋と蔵前。新旧のものづくりの工房やショップ、関連する博物館や資料館を訪ねるのが、この街の楽しみ方といえる。
1 日本文具資料館
筆記具に学ぶ文化の歴史
筆、硯、鉛筆、万年筆などの筆記具を中心に、計算機や印章など古今の文具を展示する。国産第一号の鉛筆ともいわれる徳川家康や伊達政宗が使った鉛筆(レプリカ)の展示もある。
2 袋物参考館
煙草入れや印籠が袋物業の始まり
バッグメーカーのプリンセストラヤ内に併設された博物館。益子焼の人間国宝・濱田庄司とも親交があり、濱田の助言もあって袋物に関する各国の歴史資料約5000点を展示。
洋食 大吉
池波正太郎も愛した下町の洋食
昭和45年(1970)創業の老舗洋食店。最高級豚肉の岩中ロースを使った岩中ロースかつ2000円は、肉が柔らかく、自家製パン粉の衣もサクサク。320gあり、ボリュームも満点。
3 榊神社
六道信仰は神仏混交の名残
明治以前は神仏混交で、仏教でいう地獄界・餓鬼界・畜生界・修羅界・人間界・天界の六道を祀っていた。明治の神仏分離で榊神社と改めるが、今なお六道信仰が残る珍しい神社だ。
4 隅田川テラス
川面に姿を映す東京スカイツリー®
隅田川テラスは隅田川上流部の新神谷橋から下流部の勝鬨橋にいたる両岸約47㎞のうち、約28㎞の区間で整備が進む水辺空間。幕府の米蔵があった蔵前橋あたりには、歌川広重の「名所江戸百景」のプレートも置かれ、現在の姿と対比することができる。東京スカイツリーの眺望もよい。
5 浅草御蔵前書房
相撲ファン必見のレアコレクション
古い下見板張りの壁が目を引く古書店。古文書、和本、錦絵、版画など希少な古書類が多い。なかでも相撲関連が充実し、明治時代の番付や昔の力士のブロマイドなどもそろう。
ペリカンカフェ
食パンのおいしさを実感する
昭和17年(1942)創業の『パンのペリカン』が営むカフェ。厚さ3㎝の食パンを使う炭焼きトースト360円、5〜6種類のフルーツを生クリームとサンドしたフルーツサンド920円。オリジナルのブレンドコーヒー470円を添えて味わおう。
6 蔵前神社
落語「元犬」の舞台にもなった
元禄6年(1693)、徳川5代将軍綱吉が京都の石清水八幡宮を勧請したのが始まり。江戸時代には勧進大相撲が開催された地で、境内を囲む石玉垣には横綱・大関の名前が刻まれている。
7 MESSAGE
背負い心地抜群の街歩きリュック
昭和22年(1947)創業のバッグメーカー。看板商品の街歩きリュック2万7500円〜は、手仕事と素材の牛革にこだわり、デザインから製造まで一貫して行った自信作。
8 鳥越神社
江戸っ子の血が騒ぐ夏祭り
永承年間(1046〜53)、隅田川を渡れずに困っていた源頼義・義家親子のもとに白鳥が飛来し、浅瀬を教えたという。6月上旬の鳥越まつりでは、巨大な千貫神輿が街へ繰り出す。
9 鳥越おかず横丁
町工場の人々でにぎわった商店街
鳥越は、かつて町工場の町で、共働きが多かったため、すぐに食卓に出せるおかずを扱う店が70軒もあったという。当時の活気は昔話となったが、街並みには今なお昭和の生活感が漂う。味噌・味噌漬けの『郡司味噌漬物店』、煮豆の『入舟屋』は昔ながらの人気店。
【街探検】ものづくりの街
若手クリエイターが活躍するものづくりの現場を訪ねる
浅草橋から蔵前にかけては、古くから人形や文具、紙製品などの問屋や町工場が集まり、ものづくりが盛んだった。今も、浅草橋駅から蔵前駅へと通じる江戸通り沿いには、人形や文具、玩具、紙製品などの店が並び、独特の景観をつくっている。
周辺には革小物をはじめ、文具や玩具、服飾小物などの工房が点在し、文具や袋物など、ものづくりの歴史を知る資料館・博物館などもある。
近年は、若手クリエイターの工房も増え、これに呼応するように文具店『カキモリ』、生活雑貨の『SyuRo』、草木染めの『Maito Design Works』、革小物の『m+(エムピウ)』など、高感度のカフェやセレクトショップも続々とオープン。
こうした工房やショップが集積する御徒町~蔵前~浅草橋エリア(通称・カチクラ)では、2011年から年1回、ワークショップや工房見学、限定セールなど通じて街とものづくりの魅力に触れるイベント「モノマチ」を開催。
ハイセンスなものづくりの現場を訪ねるのがこの街のトレンドとなっている。
取材・⽂・撮影=アド・グリーン
『街がわかる 東京散歩地図』より