辛党がとりこになるビリリッとしびれるうまさ『對馬流 南インド系辛口料理店 タリカロ』

夜のタリカロカリー・プレート2470円。右からダール(豆)、海老、鶏ひき肉、チキン。
夜のタリカロカリー・プレート2470円。右からダール(豆)、海老、鶏ひき肉、チキン。

ベースにあるのは、インドでも特に辛いとされるアーンドラ・プラデーシュ州の料理法。店主の對馬啓太郎さん・里香さん夫妻は現地で覚えた味にアレンジを加え、「對馬流」として極める。多くの辛党を魅了するのは、多種多様なスパイスを組み合わせた複雑かつ洗練された辛さ。なかでも辛口のチキンカレーはチリパウダーがメインで使われ、強烈な辛味とうま味が口の中でせめぎ合う。

 

『對馬流 南インド系辛口料理店 タリカロ』店舗詳細

食材の魅力を引き出し本場の味を再現『カレーショップ フェンネル』

ポーク ビンダルー1200円。辛味や香りなど、役割の違う5種類の唐辛子を使用。
ポーク ビンダルー1200円。辛味や香りなど、役割の違う5種類の唐辛子を使用。

店主の加来翔太郎さんはインドや都内の名店で経験を積んだ。日本の食材を生かしながらも、独自のレシピで本場の味を再現する。インド・ゴア地方が発祥のポークビンダルーは、豚肉の脂を削ぎ、柔らかくなるまで蒸し煮することですっきりとさせ、フレッシュな唐辛子の香りを前面に。口に入れるとワインビネガーとアップルビネガーの酸味、タマネギの甘みが辛味を和らげ、恍惚(こうこつ)。

『カレーショップ フェンネル』店舗詳細

約40年分の想いが込められた欧風カレー『BOMBAY DUCK CURRY(ボンベイ ダック カリー)』

ポークカレー1500円。米屋に相談し、カレーによく絡む国産米をセレクト。
ポークカレー1500円。米屋に相談し、カレーによく絡む国産米をセレクト。

「実家が新潟で飲食店を営んでいます」と店主の佐々木増二郎さん。その店名と洋食畑にいた父のレシピを引き継ぎ、2022年5月に開店した。ポークカレーはスパイスを駆使しつつ、あえて辛味系を主役にはせず、大量のタマネギで甘みを出す欧風タイプ。丁寧に脂を取り除いてあるためさっぱりとしたまとまりのある味わいで、食べ進めると程よい辛味が生じ、その小さな変化がヤミツキ。

『BOMBAY DUCK CURRY』店舗詳細

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独自性が進化する、間借りカレーの世界

日中閉めているバーを借りるなどして、短時間だけ営業する間借りカレーの店。専門店で修業していない店主も多いが、どこからも影響を受けていない個性の強さは独学ならでは。我流も極めればその道は一流へと続く。とはいえ、住宅地でもある西荻窪・荻窪では地元に愛されることも重要、ただの変わり種では根付かない。ユニークなアイデアと「また食べたい」と思うカレーらしさを、この辺りの間借りカレーは併せ持っている。

スパイス香の間から和風出汁がふわり『平日昼だけ』

和だしそぼろカレー(いわし生姜煮トッピング)1130円。付け合せも大葉、梅干し、たくあんなど和風づくし。
和だしそぼろカレー(いわし生姜煮トッピング)1130円。付け合せも大葉、梅干し、たくあんなど和風づくし。

カレーをサラサラにする理由は、出汁をより際立たせるため。すするとスパイス香と共にかつお、いりこ、干しシイタケの風味が舞い、かえし醤油が全体を引き締める。和食、割烹、ラーメンなど複数のジャンルで腕を磨いた店主・小山直昭さんは、その知識を活用してカレーのレシピを考案。高円寺、目黒を経て荻窪に移転し、現在地ではこの珍しい和出汁のカレーが年配客を含めた幅広い客層に人気だ。

 

『平日昼だけ』店舗詳細

甘・辛の振り幅が奥深い味わいを生む『SUPERCALIFRAGILISTICEXPIALIDOCIOUS(スーパーカリフラジリスティックエクスピアリ ドーシャス)』

3種合いがけ1400円。右からニューポーク、ホワイトチキン、ピリピリマトン。
3種合いがけ1400円。右からニューポーク、ホワイトチキン、ピリピリマトン。

音楽の仕事をしながら独学でカレー作りを学んだ店主の塩田明典さん。何度も試作を重ね、ついにキーマカレー専門店を始めた。ビリビリマトンは、提供する直前にホールの花椒を潰して振りかけるので、辛さに紛れて柑橘に似た爽やかな香りも。クリーミーなホワイトチキン、辛さを抑えたニューポークはむしろ朗らかな野菜の甘みを感じ、3種類を混ぜて味変しつつ食べるのも楽しい。

『SUPERCALIFRAGILISTICEXPIALIDOCIOUS』店舗詳細

和風の味わいと香りスパイスの邂逅『トネノカレー』

2種あいがけカレー1400円。酸味を効かせた副菜も全て刀根さんによる手作り。
2種あいがけカレー1400円。酸味を効かせた副菜も全て刀根さんによる手作り。

あご出汁チキンカレーを頬張ると、深みのある出汁の風味がじんわり広がり、次にカルダモンの鮮やかな香りがパッと前へ。一方黒酢のポークビンダルーは、黒酢とアサリ、シナモンが意外なハーモニーを成す。一見奇抜だが、レシピは緻密に構成されているよう。店主の刀根武士さんはミュージシャンでもあり、「音の立ち上がり方や余韻の広がりを考えたりするのは、カレー作りに似ているかも」。

『トネノカレー』店舗詳細

取材・文=信藤舞子 撮影=小野広幸
『散歩の達人』2023年8月号より