古き良き銭湯が生まれ変わった
創業は昭和7年(1932)。町の銭湯として地元に親しまれてきた。
「老朽化で2020年にリニューアルしました。コンクリート打ちっ放しのつくりと、外からロビーが見える開放的な雰囲気は、建築家長坂常さんの特徴です」と話すのは、店主の新保朋子さん。
浴室内はシンプルでスタイリッシュさを感じる。しかし、不思議と温もりのある雰囲気も。「男湯と女湯を隔てる壁と脱衣所ロッカーの高さを合わせることで、男女のつながりの延長線となっています」と新保さんは教えてくれた。
銭湯にはつきものの壁絵も、主張しすぎないタッチで空間にうまく調和している。手がけたのは、『きょうの猫村さん』でおなじみの漫画家ほしよりこさん。『黄金湯』をモチーフしたストーリー仕立てになっているので、じっくり眺めてほしい。
『黄金湯』の魅力のひとつが、懐の広さ。3種類の湯温があり、誰もが自分にマッチする浴槽を見つけられる。
常連でない筆者も、それぞれの浴槽に身を預け、奥行きのある入浴体験ができた。水風呂も完備されており、「温冷交代浴」(温浴と冷水浴を交互に繰り返す入浴法)ができるのも嬉しい。
銭湯のレベルを超えたサウナがサウナーに大人気!
これまで、全国で200以上の銭湯やサウナを巡ってきた筆者が、『黄金湯』のサウナ(サウナ料金500円)を激推しする!
温度は108度とストロングな設定になっており、こだわりの強いサウナーの方も十分に満足できること請け合いだ。
新保さんも、サウナにこだわりのあるご様子。「壁は、熱反射がよい麦飯石。床のすのこの下に水を流して、湿度を保てるようになっています」とサウナのように熱く語っていた。見えない床にまでこだわっているおかげで、多くのサウナーを唸らせるサウナが完成している。
水風呂の温度は季節によるが、12~15度。深さも80cmで自然と首元まで水につかることができる。
新保さんによると「昔はここで、薪を燃やしてお湯を沸かしていました。壁に、当時の黒いススが残ってるんですよ」とのこと。水風呂で長い歴史の一端を垣間見られるのも、『黄金湯』ならでは。
水風呂をあがったら外気浴。サウナと水風呂で追い込んだ体を、デッキチェアに預けて目を瞑る。自分の心臓の鼓動と呼吸音が主役になり、そこに水音が華を添える。さらに、穏やかな外気が肌を撫で、優しく冷やしていく。
やがて、スーッと意識が浮かぶような感覚に包まれ、デッキチェアと体の境目がわからなくなってくる。これで「ととのい」の完成だ。新保さんも「サウナに外気浴は絶対に必要だと思っていたので、こだわってつくりました」と話す通り、この場所があってよかったと心から思える。
DJブースのあるロビーでゆったり
店主の新保さんご夫婦は、近隣の『大黒湯』も姉妹店として経営している。
銭湯は町のコミュニティとしての機能も持つ。お客さん同士で自然に会話が生まれるのが銭湯。ここ『黄金湯』のロビーも、そんなコミュニケーションが自然発生するような作りになっていた。
ロビーの中心に島のようにフロントが設置され、360度どこからでもお店の人に声がかけられるようになっている。
「会計作業とドリンクの提供、それに音楽もかけるので、それを1か所に集約したんです」と新保さん。お客さんだけでなく、スタッフの動きまで想定された造りだったことには驚きだ。
フロントにはDJブースが鎮座していて、ここでプレイされる音楽が、浴室やサウナ室を含めた館内に流れているのだ。「DJの方がプレイしていたら、サウナに入っていたお客さんが、『今のつなぎ良かったです!』と出てきたこともあります(笑)」と新保さん。
「リニューアル前から音楽はかけていますが、若いお客様と常連さんで、音楽を通して会話が始まっていきます。フロントを介さずにお客様同士で、コミュニケーションが始まるのに感動して、今も続けているんですよ」(新保さん)
『黄金湯』では、湯上がりにGoodMusicをお供に、こだわりのクラフトビールをいただけるのが嬉しい。季節や流行に合わせて入荷を変えているため、行くたびに違ったビールが楽しめるので通ってしまうこと請け合い。
今も、これからも目が離せない銭湯『黄金湯』。足を運んでみてはいかがだろう。
取材・文・撮影=Mr.tsubaking