古着や小物が整然と並ぶ気分のいい店内
『Suntrap』があるのは高円寺駅南口からまっすぐ南に伸びる高南通りを180メートルほど歩いたところ。店の前に置かれた自転車が目印だ。奥行きのある店内に足を踏み入れると、たくさんのシャツやジャケットがハンガーにかけられ、棚にはセーターにパンツ、ピカピカに磨かれた革靴などが整然と並んでいる。引き出しやガラスケースにはデッドストックの靴紐、洋服と同年代に作られたボタン、マグカップなどの雑貨も並ぶ。
「古着はただ買ってきて並べるだけでは見栄えも悪いですからね。買い付けてきた服は、汚れていたり、ボタンが取れていたりするものもあるので、洗濯したり、ボタンをつけるとか丁寧に直してから店に出すようにしています」と話すのは、バイヤーのアツシさんだ。
「1998年のオープン当時は、高円寺の古着屋さんも今よりも特徴のあるお店が多かったです。例えば、年代ごと、30年代、50年代、70年代のビンテージが強い専門店とか。ここ 2〜3年は若い経営者が1990年代から2000年頃の古着を扱うようなお店が増えましたね」と長く高円寺の古着文化の一端を担ってきたアツシさんは、近頃の古着屋文化の盛り上がりと変化を語る。
『Suntrap』が得意とするのは、1930年代から1960年代にアメリカで作られた洋服で、ヴィンテージというジャンルに当てはまる。主な買い付け先はニューヨークなどアメリカの東海岸だが、1930年代くらいの古い時代の服はアメリカでもめったに見つからず、年々貴重になっていく。
さらにコロナ前までは1年に6回は買い付けに赴いていたが、2021年は3~4回ほどになったという。一度買い付けに行くと、帰国後には隔離期間も必要。なかなか厄介だ。
コロナ禍はバイヤーによる買い付けだけでなく、店に古着を買いにくるお客さんたちにも影響が大きい。『Suntrap』に古着を買いにくるのは、自分が着るための古着を探している人だけではない。ファッションブランドのデザイナーたちが、これから作る洋服のアイデアを古い洋服から見つけ出そうと訪れることも少なくない。コロナ前には誰もが知るヨーロッパのハイブランドからも担当者もやってきていた。高円寺という庶民的な空気のある街で、『Suntrap』は世界の一流と言われるプロフェッショナルも相手にしているというわけだ。
アツシさんは「古いものが好きで集めていたら、ハイブランドの人も訪れる今のようなお店になった」と謙虚に話す。しかし、飛行機で片道12時間以上かかるアメリカ東海岸まで年に何度も足を運んで、一点一点古着を見ては買い集め、戻ってきて仕入れた商品をきれいにしてと考えると、好きという言葉以上の情熱があるはずだ。
インターネットが古着を認知させた。今や古着はファッションの1ジャンル
個人のお客さんは、30代から50代ぐらいが中心だが、特に50代以上の年齢層は、彼らが10代だった60年代に流行していたファッションをもう一度着たいと目当てのアイテムを探しにくる。同時にクラシカルなスタイルにおもしろさを見出した若い世代も徐々に増えている。
買い物に来るお客さんの変化も大きいが、オープンしてから今に至るまで、大きな変化はインターネットで古着の情報が流通することになったことだという。かつてなら店に赴かなければどんな商品がどんな状態で売られているのかはわからなかったが、今やほとんどの古着屋が商品の写真を掲載したインターネット通販を行っている。
『Suntrap』でもインターネット通販を行っている。古着の通販で心配になるのが汚れや使用感の程度だが、通販サイトでも十分に商品の状態を説明していることから、汚れなどを理由にした返品はほぼないそうだ。
「店に来るお客さんは、とても勉強熱心でいろんな質問をしてきます。『これはどこ製ですか?』とか『何年代の服ですか?』とか。かつては古着に抵抗があった人も多かったですが、最近の若い世代の間で古着への抵抗がなくなったのを感じています。それもインターネットでいろんな情報が調べられるようになった影響も大きいかと思います」
最近はタレントの間でも古着を愛用する人やコレクションしている人も増えてきた。「ファッションや洋服とひとことで言っても、ハイブランドもあれば、ユニクロのようなファストファッションのようなジャンルもありますよね。若い世代のお陰で、古着もそのカテゴリーのひとつに入ってきたと思います。『Suntrap』は流行を追いかけると言うより、商売を成り立たせつつ、自分たちがやりたいジャンル、スタイルをこれからも維持していきたいと思っています。でも、それがいちばん大変ですね」
高円寺古着文化の広がりとともに、古着がファッションカルチャーの中で市民権を得る過程を見てきた『Suntrap』。これからも大人世代にとっては懐かしく、若い世代には新鮮さもあるクラシカルな雰囲気漂う古着を取り揃えてくれるはずだ。
取材・撮影・文=野崎さおり