店名の由来はヒンドゥー教の女神
目黒駅前の雑居ビル。ビルの入り口で看板を確認して階段で2階へ。大勢の人が行き交うビルの前の光景とは打って変わって静かなビル内で、ひときわ輝くオレンジの看板が『ラクシュミー』の目印だ。
ラクシュミーとはヒンドゥー教の女神様の名前で、インドやネパールでは「ラクシュミーちゃん」という名前の女の子も多いんだとか。
店のオーナーであり店長のバッタチャン・ジャングさんはネパールの少数民族・タカリ族の出身。
高校生の頃、ヒマラヤトレッキングのために地元の村に泊まりに来た日本人との出会いが日本に興味を持つきっかけになったという。
高校卒業後、カトマンズで大学に通いながら日本語の勉強を始め、1988年に来日。日本語学校に通いながらアルバイトをしていたインド料理屋に就職し、店長として働いた。そしてそのお店にお客として来ていた日本人女性と結婚。「最初は観光目的で3カ月のつもりでしたが、そのまま日本にいます」と笑う。
毎日食べても飽きないネパールの家庭の味
注文したのは2種類のカレーと数種類のおかずがワンプレートに乗った“アマのダルバート”。タカリ族は料理上手として知られる民族で、親せきや友だちを招いておもてなしをする文化があるそう。そのおもてなしの席で出される料理がダルバート。日本でいう“定食”だ。
“アマ”はネパール語でお母さんのこと。チキンカレーがマトンカレーになったり、豆カレーの豆の種類が違ったりと、各家庭でそれぞれお母さんの味があるとのこと。いろんなお家のダルバートを食べてみたくなる。
端からひとつずつ味をみていこう、と思ったら「ダルバートはひとつずつ食べるものではないですよ。ちょっとずつ混ぜながら一緒に食べます。すると、すごく味がマッチするんです」とバッタチャンさんが教えてくれた。全部のバランスを考えて一つひとつ味付けしているそう。
複雑な味がするかと思いきや、辛さや甘さが融合し、すごくまとまったまろやかな味に。バスマティライスとの相性も抜群だ。味が濃すぎず、朝晩食べても飽きないのがネパール料理の特徴だという。
インド料理とネパール料理の違いは?
『ラクシュミー』のメニューにはネパール料理だけでなく、インド料理のメニューもたくさんそろう。ネパール料理とインド料理の違いをバッタチャンさんに聞いた。
「インド料理とネパール料理は仕込みからまったく違うんです。本場のインド料理はソースがいちばん大事。バターチキンカレーのベース、エビカレーのベース、チキンカレーのベース、それぞれ別々に仕込んで、そこに具を入れて仕上げます。一方ネパール料理では、素材そのものを炒めるなどしてスパイスで味付けをします」
隣国だし、ほとんど変わらないのでは? と思っていたが、まったく違っていた。ちなみに、ネパールにナンはないそうだ。
リピーター続出! 次は誰かを連れてきたくなる
店内ではお客さんの多くがバッタチャンさんに気さくに話しかける。オープン当初から通っているという常連さんに、おすすめメニューを聞くと、「とり皮炒め、砂肝炒め、タンドリーチキンサラダ、マサラパーポード、モモ……」と次から次へ出てくる出てくる。カレーはいつも締めに食べるんだそう。
「お願いすればいくらでも辛くしてくれるし、辛いものが苦手なら調整してくれる」。だから誰を連れてきてもOKなのだという。
一度来たら次は誰かを連れてきたくなるお店。お客の約8割がリピーターだというのもうなずける。この店が地元で長く愛される理由がわかった気がした。
取材・文・撮影=丸山美紀(アート・サプライ)