明治維新後、約500の企業の設立・育成に尽力した渋沢栄一。その功績から“近代日本経済の父”とも評されています。栄一の活躍を描いた大河ドラマ『青天を衝(つ)け』や、新一万円札の“顔”に選ばれたことでも、いま注目の的に。JR高崎線沿線には、栄一ゆかりの地が点在。生誕の地に立つ帰郷の際に過ごした邸宅や、青年期に乗っ取りを企てた城址などを巡ると、激動の時代を駆け抜けた栄一の人物像が見えてくるようです。

古伝餡 濱岡屋(高崎線 深谷駅)

まさかのクロスオーバー! 渋沢栄一がかわいい和菓子に

今回はJR深谷駅北口からのスタート。駅前にある「青淵(せいえん)の広場」に出るとさっそく「渋沢栄一像」がお目見え。「楽しんでいってね♪」と、言わんばかりに深谷の旅への出発を見守ってくれる。

広場を北上して最初に訪れたのは、『古伝餡 濱岡屋』。屋号のとおり創業130年以上の歴史がある和菓子店で、煉瓦造りの釜炉で炊いた餡が自慢だ。2020年3月の移転に際して店の雰囲気が一新され、喫茶スペースも併設された。

「いらっしゃいませ~」。女将・岡部さんの気持ちいい接客もこの店の名物。ショーケースや商品棚には、大福、羊羹、季節の生菓子……と、色とりどりの和菓子が並び、ついつい目移りしてしまう。パッケージも洗練されているからギフトにもぴったり。

お目当てのひとつが、こちらの栄一和三盆756円。栄一の肖像を和三盆糖でかたどった和菓子店ならではの一品で、口に運ぶと上品な甘さがじんわりと広がる。桜や鯛、小槌といったパステルカラーの和三盆に囲まれて“近代日本経済の父”もなんだか面映(おもは)ゆそうだ。

喫茶スペースで提供される、朝焼き栄一バターどらやき550円(飲み物代は別途)も外せない。どら焼きの皮、つぶあん、バターがセットになっていて、どら焼きづくりが楽しめる。ほんのりと温かいどら焼きの皮には、栄一の肖像が。さながら“栄一三兄弟”といった様相で、重鎮のコーラスユニットのような風情がただよってくる。

深谷駅の駅舎をモチーフにした、駅舎最中194円も人気。お土産に購入して、実際の駅舎と見比べてみよう。

『古伝餡 濱岡屋』詳細情報

住所:埼玉県深谷市西島町/営業時間:9:00~18:00(喫茶スペースは10:00~)/定休日:水・第3火/アクセス:JR高崎線深谷駅から徒歩約4分

カフェ花見(高崎線 深谷駅)

栄一の肖像をラテアートで再現。シャッターチャンスを逃すな!

深谷商店街の一角に店を構えてから2021年で45年、『カフェ花見』はゆったりとした時間が流れる地元民の憩いの場だ。オーナー夫婦と、その娘夫婦である岡村淳代さん・和文さんの4人が切り盛りしている。

店を切り盛りする岡村さんご夫婦。

珈琲豆の仕入れは、スペシャリティコーヒーを専門に扱う「丸山珈琲」から。ブレンドコーヒー(430円)は、ブラジル産やホンジュラス産などの豆をブレンドした中深煎りの「クレモーソ」を使用。「豆の持ち味を引き出せる」(淳代さん)との理由から、手間のかかるサイフォン式でコーヒーを淹れる。

看板メニューのひとつが「渋沢栄一カフェラテ」(480円)だ。ココアパウダーを使って、カフェラテの表面に栄一の肖像が描かれている。シャッターチャンスは、パウダーが泡に沈んでしまうまでの数十秒間! すかさずスマホのカメラを向けると、なんとしっかり顔認証するではないか! なにかを語りかけてくるような表情で、つい襟を正してしまう……。

ココアパウダーで栄一の肖像を描く。

「なにか地域資源を活かしたメニューがつくりたかった」と、販売の経緯をふりかえる淳代さん。2016年の販売当初は、「それほど売れなかった」そうだが、現在は毎日のように注文が入る人気ぶりで「渋沢平九郎カフェオレ」(480円)や「出世ぼーやミルク」(430円)といった“渋沢一族シリーズ”も派生している。

お子さんには、ほんのり甘いホットミルク「ふっかちゃん抹茶ミルク」(480円)を。こちらは、抹茶パウダーを使って深谷市のイメージキャラクターをあしらったもので、額の「ふ」の字もしっかり再現されている。

ドリンク以外にもカレーライスやオムライスなどの軽食、手づくりバナナケーキなども販売!

『カフェ花見』詳細情報

住所:埼玉県深谷市仲町2-7/営業時間:10:00~21:00/定休日:水/アクセス:JR高崎線深谷駅から徒歩約4分

川本山陽堂(高崎線 深谷駅)

まるで往年のタレントショップ! 栄一グッズがひしめくハンコ屋さん

『カフェ花見』をあとにして、市役所西通りを北上すると煉瓦造りの外壁が目を引く建物を発見! ファサードには「はん、ゴム印、表札、印刷」とある。一見、ふつうのスタンプショップだが、なにを隠そうこの『川本山陽堂』こそ、渋沢栄一グッズが“日本一”充実しているショップなのだ。

新作の藍染栄一Tシャツ(価格未定)を披露する営業部の川本徹郎さん

店内に一歩足を踏みいれると見渡すかぎり栄一、栄一、栄一、栄一……で、ゲシュタルト崩壊を起こしてしまいそう。グッズも多種多様でTシャツ、水引き、マグネット、タオル、カレンダー、マスクなど、「原宿のタレントショップ!?」と錯覚してしまうほどの品揃えだ。

インパクト絶大な「散歩バッグ」(2530円~)。生地に倉敷デニムを使用している。

「グッズの点数は1000種類以上。ほぼすべてのグッズが、私の企画、デザイン、制作したものになります。手をつけてないジャンルは、食品くらいかな。もはや“ひとり道の駅”状態ですよ(笑)」と、営業部の川本さん。

アニメ風だったり、レトロ風だったり、マグネットのデザインの幅が広い。

川本さんが栄一グッズの開発をはじめたのは、地元に栄一フィーバーが訪れるよりずっと前の2013年ごろ。地元にある『渋沢栄一記念館』のボランティアスタッフがこぼした一言だった。

「『栄一さんのグッズがあったらいいのにね』。そういった声が多く聞かれました。当時から栄一グッズもあるにはあったのですが、売り上げが立たず長くは続かないため、定着していなかったんです」

「栄一キーホルダー」(右、300円)は川本さんが最初につくったグッズ。

そこでデザインや印刷といった本業のノウハウを活かして、グッズ開発をはじめた川本さん。その記念すべき第一弾は、栄一の写真をプリントしたキーホルダーだった。なるべく在庫を抱えないために小ロットでの生産。そこから思いつくかぎりのジャンルに手を広げていく。なかには「これ需要あるのか……!?」と困惑するグッズもあるが、実際のところ黒字化したのはここ最近のことらしい。

「半分趣味みたいなものですよ。だから、自分がつくっていてテンションの上がるグッズばかりになってしまいました」

栄一の筆跡を模したシャチハタ(左1万円~)や会社印もつくってくれる。

川本さんの開発したグッズは、市内のアンテナショップ『渋沢栄一翁ふるさと館OAK』に委託販売している一部をのぞいて、基本的に『川本山陽堂』でしか手に入らない。しかも通信販売にも応じていないという。それはなぜ?

「やっぱり深谷に足を運んでほしいから。そして地元の名所やカフェ、お土産屋なんかを巡ってほしいよね。そのためのグッズ開発してるようなものです」

『川本山陽堂』にあるグッズは、ほとんどが現品かぎり。お気に入りを見つけたら、即購入を!

『川本山陽堂』詳細情報

住所:埼玉県深谷市田谷292-4/営業時間:9:30~19:00(土・日・祝は10:30~18:00)/定休日:不定/アクセス:JR高崎線深谷駅から徒歩約12分

深谷物産館(渋沢栄一 青天を衝け 深谷大河ドラマ館併設、高崎線 深谷駅)

類まれなる商才が宿る!?“栄一柄”のシルクネクタイ

2021年2月、大河ドラマ『青天を衝け』の放映に合わせて深谷生涯学習センター・深谷公民館1階にオープンした『渋沢栄一 青天を衝け 深谷大河ドラマ館』に併設。栄一グッズをはじめ、深谷にまつわるお土産などを販売している。

オープン当初は500種類ほどだったグッズも現在は約800種類にまで増加。栄一グッズも充実しており、地元の商店やデザイン事務所、文具店などあらゆる分野が入り混じって開発に参入している。

お菓子やTシャツといった定番商品に混ざって、思わず二度見してしまうような珍品も。例えば、「青淵(せいえん)カレー」。濃紺色をしたレトルトのカレーソース648円で、これは渋沢家が藍玉(藍の染料)の売買を家業にしていたことに由来する。「青淵」は、栄一の雅号から拝借した。一見くせ者に見えて、じつは栄一へのリスペクトに溢れた一品なのだ。

「つねに栄一の存在を感じていたい……」という人がいるかはわからないが、「渋沢栄一シルクネクタイ」(ネイビー、エンジの2色展開 各3000円)なんて商品も。栄一のシルエットが連なるようなデザインは、オフィスでも注目を集めそうだ。身につけていれば、栄一のパワーが授けられて、ビジネスチャンスをつかめるかも!?

『深谷物産館』詳細情報

住所:埼玉県深谷市仲町20-2/営業時間:9:00~17:00(2021年7月17日~8月29日は18:00まで)/定休日:無/アクセス:JR高崎線深谷駅から徒歩約16分

この旅のはじまりは、埼玉三偉人から。

埼玉県が運営する「埼玉ゆかりの偉人データベース」の登録者延べ326人(2021年6月現在)と、学術、教育、芸術、産業などさまざまな分野で数多くの偉人を輩出してきた埼玉県。その中でも偉大な功績を残した「埼玉三偉人」の渋沢栄一、塙保己一、荻野吟子を知っていますか?「渋沢栄一は最近何かと話題だけど、あとの2人は何をした人?」というあなたのために、この記事では3人の生い立ちや功績をサクッと解説。読んだあとは高崎線に乗って、三偉人ゆかりの地を巡る旅に出かけましょう。

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取材・文・撮影=名嘉山直哉