アジ嫌いが、いつしかアジを愛するように
「オープンして、今年で8年目(2021年5月現在)になりますが……実は僕、最初はアジって苦手だったんですよ」――まさかのカミングアウトをしてくれたのは『鰺家』の店長、中西大祐さんだ。
赤羽駅の東口から歩いて5分ほど。赤羽すずらん通りのアーケードを過ぎていくと、『鰺家』のトレードマークとも言える青いテントが目に飛び込んでくる。
2013年に創業して以来、数ある魚介類の中からアジのみで勝負するという当時の創業者と料理長の思いから生まれた『鰺家』。獲れたてのアジの刺身やサクサクの鰺フライはもちろん、丼モノや定食、果てはアジを使ったナゲットやメンチカツといったバリエーション豊富なメニューが評判を呼びたちまち大人気に。
そんな『鰺家』の店長を任された中西さんだが、冒頭のお話の通り、当時は光物特有の臭いが苦手で、アジはあまり食べられなかったという。しかし「このお店のアジを食べたら、今まで食べたのとは全然違うんです。臭くもないし、身はコリコリ。一気に大好きになりました」と、アジへの印象が180度変わったという。
嫌いだった食べ物を一瞬にして好きにさせるのだから、このお店のアジ料理がいかに絶品だったかを物語る。
気が付けばご飯がなくなる!?「鰺家なめろう定食」
『鰺家』のメニューを見てみると、定番の刺身定食に漬け丼、そして鰺フライ定食……と何から何までアジ料理のオンパレード。どれもこれも気になるところだが、「刺身定食に勝るとも劣らない人気」という鰺家なめろう定食800円をオーダーした。
「メニューはすべて、料理長が考案しています。定番のものだけでなく、多彩なアイデアから生まれるメニューも人気ですね」と中西店長が語るように、定番から新商品までどれも人気で、毎日のようにやってくる常連客もいるほど。さらに季節ごとに限定のメニューを販売。この春は梅を組み合わせたメニューが好評だったという。
アジ好きなら誰もが喜ぶ鰺家なめろう定食。佐賀県の唐津湾で獲れるアジを使用し、「新鮮なアジを堪能してほしい」という思いから、通常のなめろうよりもやや粗めに叩いて、アジの食感を楽しめるようになっている。なめろうの味の決め手となる味噌はやや甘めの味わいのお店オリジナル。ここにニンニクの風味も加わり、ご飯が何杯でも食べられるほど。気が付けば、ご飯があっという間になくなっていた。
なめろうを楽しみつつ、お盆に乗った卵スープをひと口。ふわりとした優しい味わいが口の中に広がるが、これもまた中西店長の思いが詰まっていた。
「味噌汁があるのに卵スープもあると、アレって思う方もいらっしゃいますが(笑)、なめろうにニンニクを使っているので、味噌汁だけでなく口直し用に卵スープも付けてみたんです。なめろうとの相性もバッチリですよ!」
こうしたお客さんへの思いやりもまた、『鰺家』が愛される所以だろう。
理想のアジを求めて、常に探し続ける
オープンから8年が経過し、数多くの常連客がやってくるようになり、今や赤羽を代表するお店の一つになった『鰺家』。最近では女性客にも人気になってきたというお店だが、そのこだわりについて中西店長に伺うと、ストイックなまでに「アジへのこだわり」を語ってくれた。
「僕たちは専門店ですから、こだわりはやっぱりアジですね。以前までは鳥取県の境港で仕入れたアジを使っていたのですが、より肉厚でプリプリとした食感のものを求めていろいろ試行錯誤し、その中で出合ったのが佐賀の唐津湾で獲れるアジだったんです」
5年ほど前から、店で使用するアジを主に唐津湾で獲れるものに変えただけでなく、その使い方にもこだわりがあった。
「『アジのどの部分も無駄にしない』のもこだわりですね。例えば身の部分はお刺身とか漬け丼とか、鰺フライにしますが、落とし身と呼ばれる部分はつみれ汁や鰺メンチ、それからナゲットなど、いろいろな食べ方で、アジの味わいを楽しんでもらえるように心がけています」
アジを愛し、アジにこだわり、そしてアジの味を追求し続けるアジ専門店『鰺家』。アジ料理を堪能したい方はもちろん、苦手な方にこそぜひ行ってみてほしい。いつかの中西店長のように、素敵なアジへの出合いが待っているかもしれない。
構成=フリート 取材・文・撮影=福嶌弘