渋谷のハチ公口を降りてスクランブル交差点を渡り、センター街を突き進んでいくと、NHKが現れる。2016年に大学に進学した僕は、先輩の紹介で4年間アルバイトをしていた。

9時から15時までのシフトで昼休憩はない。出勤時に昼食を買っておいてデスクで食べるのが定石だったが、僕は15時まで我慢して退勤時に社食に向かうことが多かった。

目的は当時250円で売られていた醤油ラーメン。食券を買って受取口に進むと、大きな寸胴鍋が見える。中には野菜の切れ端や卵の殻などがぎっしり入っていて、厨房中のあらゆる残飯から出汁を取ってやろうという魂胆が丸見えだ。

AIに「ラーメンの画像を生成して」とお願いしたら出てきそうな、典型的な外観。学生だった自分にとって250円という価格が一番の決め手ではあったが、味も好みだった。

しっかりとした鶏ガラベースの味を、野菜から出たエキスがまろやかにまとめ上げている。乗せられた具材はメンマ、チャーシュー、のり、ネギの4つだけ。それぞれの量が少なくて、いつも順番を決めて大切に噛んで食べた。

麺は「素朴」という言葉が何より似合う。コシがあるわけでも、ないわけでもなかった。ただ主張せずスープに絡んで、気がつくと完食していた。

大学を卒業することになり、アルバイト証を返却する日も社食であのラーメンを食べた。突出してうまいわけではなかったけど、大学4年間で一番食べたラーメンだった。そして、おそらくもう二度と食べられないからこそ、一番思い出すラーメンでもある。

※かつて250円でしたが、今はいくらかわかりません。