ラーメン業界に挑戦して、たどり着いた一杯
JR市川駅、南口から徒歩10分。江戸川方面に向けて真っ直ぐ歩いたところに店を構えるのが『禪』である。
『禪』というのは、主僧が座禅の際に“ひらめきを得る”に由来するそうだ。その扉を開けると、店主・長尾さんの親しみやすい笑顔が迎えてくれる。とても温かい。
長尾さんは、「前の仕事の配送業は安定してたけどね。それでもラーメン業界に挑戦したのは、勝負というか、覚悟はしたよ」と語る。
『らあめん葫-行徳』の店主のお誘いで7年修業。そこで数種類の野菜をポタージュ状にしたものと豚骨スープを使用して作る、いわゆる“ベジポタラーメン”を学ぶ。そして2010年、自身で独立し、今のお店をオープンした。
メニューはシンプルで、らぁめん3種、つけめん3種、それぞれの味で、しょうゆ・塩・みそとなる。その他にサイドメニューとして豚めしがある。ランチメニューは2種類あり、ラーメン一種と豚めしの組み合わせは、1100円。ラーメン一種と豚めしor大盛りは、1000円となる。
また、“全部入り”という、ネギや半熟卵など全てのトッピングをプラス440円で楽しむことができる。
こだわりのスープがやさしさとコクを再現
目の前に、塩らぁめんと豚めしが登場。
塩らぁめんには、のり、豚チャーシュー、もやし、青ネギ、“カリカリ”というラインナップ。まずは、もやしの存在感に魅了されるが、それ以上にそそられるのは“カリカリ”だ。この“カリカリ”と呼ばれているものは、一見、にんにくかと思いきや、玉ねぎの一種、エシャロットを揚げたもの。
早速、スープからいただこう。ベジポタスープなだけに、まろやかさと濃厚な甘味が喉を通る。聞けば、スープの甘味は大量の玉ねぎのエキスだそう。豚骨ベースの中に、やさしさとコクが共存している。
スープに関しては、「塩と化学調味料を極力使わないことで、ベジポタスープ本来の味を生かすことができています」と長尾さんが熱心に語ってくれた。
続いて麺をすすってみる。あの不死鳥カラスが生み出す、『浅草開化楼』の麺を使用している。しっかりとした中太麺はもちもちとした感触で、少しドロっとしたベジポタスープとの相性抜群ではないか。
長尾さん曰く、細麺や太麺などさまざまな麺のサンプルを試したが、結果、スープとの相性が一番良かった中太麺に落ち着いたそう。そして、青ネギとカリカリが麺に絡みあい、アクセントになりたまらない。うん。美味!
ラーメンに夢中になりすぎてしまった。冷めない内に豚めしをいただいてみよう。ラーメンをすすった直後に豚めしをかきこむ。少し残ったラーメンの香りとごはんの旨味が、これまた合う。
使用されているのは、豚バラチャーシューの切り落とし部分である。チャーシューを「他にもなにかに利用できないか?」と考え、豚めしのメニューが誕生した。ホロホロなチャーシューと、汁のしみ込んだ米が口の中で広がり、とてもおいしい。ここに少量、豆板醤を加え、のりと一緒に巻いて食べてみるのもオススメだ。ランチメニューとして、豚めしが必食なワケがよくわかる。
地元の常連に愛さている一杯
スープから麺まで長尾さんの思いのこもった一杯は、配送業の仕事を辞め、ラーメン業界に挑戦した覚悟を感じるものだった。
店内では、お客さんが和やかな雰囲気でラーメンを楽しんでいる。長尾さんは、常連のお客さんと気軽に会話を交わしながら、親しみやすい空間を演出しているようだ。
また、厨房に張り出されていた“学生さん大盛無料”という表記。
「学生さんはお金ないでしょう。少しでも安く提供したいと思って。」
『禪』では、こうしたお客様の満足を最優先に考え、気遣いや接客のやさしさがスープから麺まで息づいている。ぜひ一度、その心地よさを味わってもらいたい。また来店しよう。次は、つけめんを食べてみたい。ごちそうさまでした。
取材・文・撮影=村松輝人