静かな住宅地に現れる、こだわりの空間
アンティークの家具やレコードプレイヤー、窓にはステンドグラス、変わった形のランプシェード、そして棚に並ぶ雑貨の数々……ウッドデッキのような装飾や店の中央に立つ大きな木の幹を見るとなんだかイングリッシュガーデンみたいだし、古い小物やインテリアが並ぶ様子はまるで宝物を寄せ集めたガレージか屋根裏のようでもある。
「開業にあたって一番こだわったのは、店内の雰囲気です」と、店主の配島彩さん。千駄木の静かな住宅地を歩いていると突如現れるこの『yorimichi cafe』は、地元の人でも存在を知らなかったという方もいるそうで、散歩中に“発見”するうれしさも味わえる。
「非日常的だけどまったりできる隠れ家のような、ここにしかない空間にしたかったんです。ガーデニングやDIYの雑誌を見るのが好きで、その世界観を参考にしました」
内装をお願いした方には、配島さんが集めた雑誌記事の切り抜きを見せ、相談しながらイメージを膨らませていったそう。ウッドデッキやレンガの壁は、そういったガーデン写真に着想を得て提案してもらったものだ。
「たまに『生えてるの?』と聞かれるこの真ん中の木も、内装の方が所有している山から切ってきたものなんですよ」
家具や小物は、配島さんが骨董市で買ったものや家族が持っていたものを置いている。棚に並んでいるフラスコや一部のランプシェードになっているガラスの漏斗などは、理化学の仕事をしていた父から譲り受けたものなのだとか。
そう聞いてから改めて店内を見渡すと、興味をそそるものや味わいあるものばかりで、いくら眺めていても飽きない。老若男女だれでもわくわくできること請け負いだ。
また、席や棚の配置にもひと工夫施している。
「同じ空間でもどこに座るかによって雰囲気や感じ方が違うように、というのも心がけています。あとは、お客さん同士で視線が合わないように配置を考えました」
お茶するもよし、ランチするもよし
2010年12月に配島さんの地元でオープンした『yorimichi cafe』だが、そもそも店を開こうと思ったきっかけは学生の頃の一人暮らし。地方の大学に進学しており、部屋へ遊びにきた友達にドリンクを振る舞っていたことがこうじてお店の開業を考え始めたのだそう。一度は就職したものの数年後に退職し、そこから開業に向けていくつかのカフェで働いたり料理教室に通ったりして経験を積んだ。
「30歳になるまでにはオープンする!と決めていたので、そのリミットに向けて準備を始めました」
ドリンクメニューは、コーヒーや紅茶、ハーブティーのほかにレモネードやソーダもあり、バナナミルクは最近人気上昇中だという。食事メニューも、ドリアやドライカレー、クロックムッシュ、スープなどバラエティ豊か。さらに、ケーキやアフォガードなどスイーツも一通りそろっている。あれもいいな、これも食べてみたい……とついつい目移りしてしまう充実っぷりだ。
散々迷った挙句、この日は開店当初からの看板メニューであるyorimichi風ドリアをいただくことに。
エビやブロッコリーなどの具材がゴロゴロとのった上にたっぷりのチーズが溶けているベシャメルソースのドリアは、ほっとする優しい味。お米は黒米というのも一風変わっていて、ほんのりアクセントになる。
「以前は十五穀米を使っていたのですが、それだとアレルギーで食べられないものもあるので、黒米に変えました」
常連になって、毎週こもりたい!
ドリアなどの食事メニューはお昼時だけではなく営業時間中ずっと提供しているというのもうれしい。さらに、週替わりのプレートのほか、店の奥のショーウィンドウに並んでいるケーキは毎週、時によっては数日でメニューが入れ替わる。次に来た時には何があるだろう……という楽しみもあるというわけだ。
「常連さんが飽きないように、というのはいつも心がけていますね。自分が飽き性というのもありますが、『毎回これしかない』というのを避けたくて。同じ材料でも組み合わせを変えたりすることで、頻繁に来てくださる方が選べるようにしたいんです」
週に2~3回通う常連さんもいるそうだが、たしかにその頻度で通いたくなるのもうなずける。
また、2022年からは雑貨やお茶の販売も拡張。棚の一部には、ドリンクメニューの抹茶ラテやほうじ茶ラテに使っているお茶屋さんの商品である国産茶葉が並んでいて、おみやげに買っていくのもよさそうだ。
「物販スペースは今後もっと充実させたいと考えています。ショッピングを楽しみに来てくれる方も増えたらいいなって」
好きが詰まったこだわりの空間に、お客さんの目線で考え抜かれたメニュー。こりゃ居心地がいいわけだ。またここへ来て、隠れ家にこもるような時間を過ごしたい……そう思いながら、店を後にした。
『yorimichi cafe』店舗詳細
取材・文・撮影=中村こより