ハマちゃん宴会芸13本一気見せ!
出張先で旅の宿で自宅で夜の店で、ハマちゃんが繰り出す奇芸珍芸名人芸の数々、まずはドドーンと一気見せ~!
※一部の演目のタイトルは筆者の独断によるものです。
※なお以下の事例は、ハマちゃんのピン芸的要素が薄いこと、原曲に関する情報が不足していることから、今回は除外しました。
「釣りバカ2」旅先の宿での「くいやんせ~」@鹿児島
「釣りバカ15」婚儀の席での民謡@秋田
「釣りバカ18」地元の青年たちとの宴会での「鰆でおじゃる~」@岡山
■The 1st number■
《演目》『白い蝶のサンバ』(森山加代子)
《登場作》「釣りバカ4」
《舞台》和歌山県由良町の旅館
《衣装》素っ裸にトランクス1丁。頭に巻くは浴衣の帯か。
《歌詞》あなたに抱かれて 私は蝶になる……
《客演》ー
《寸評》オープニングナンバーから全開のハマちゃん。肥満体から繰り出されるキレッキレのダンスも驚きだが、「あーソレソレッ」「ワン、ツー、スリー、フォー!」などの合いの手が秀逸。個人的には、ぜひこんな合いの手を入れてもらって『君は薔薇より美しい』(布施明)を熱唱したい。
■The 2nd number■
《演目》『KAMAISHI No.1』
《登場作》「釣りバカ6」
《舞台》宮城県釜石市での宴席
《衣装》素っ裸にトランクス、胸にはビキニ風のペイント。ドレッドヘア風に海藻を頭に載せて。
《歌詞》釜石 釜石 青い海と緑のお山……
《客演》ー
《寸評》以降も続く、シリーズ初のご当地芸はレゲエ調。封切り当時(1993)、西田敏行が出演していた電話会社のCMのパロディだけど、覚えてる人どれだけいるかなあ。
■The 3rd number■
《演目》「スーさんがウソこいた」
《登場作》「釣りバカ7」
《舞台》彩子さんの結婚を陰ながら祝う会@ハマちゃん宅
《衣装》黒のワンピースに黒のショールと金髪ロン毛のカツラを被って女装。転調後は上半身裸。
《歌詞》スーさんとハマちゃんはいつでも一緒 釣りに出かける時ゃいつでも一緒……(中略)……仕事ばっかり一筋に生きてきたスーさんに釣りの喜び教えたのは~オレッ(俺)!……
《客演》松崎しげる(アコースティックギター)
《寸評》「羽田の歌姫 アマダイ・ロドリゲス」なる芸名で登場。旅情フォーク(童謡?)的なスローテンポから、フラメンコ調のアップテンポに転調する難易度高めの楽曲です。
■The 4th number■
《演目》『みだれ髪』(美空ひばり)
《登場作》「釣りバカ8」
《舞台》福島県いわき市の宿泊先での宴席
《衣装》和装にクジャクの羽の冠という風体は、美空ひばりのステージ衣装をデフォルメか。電飾だけは美川憲一っぽいけど……。
《歌詞》髪のみだれに 手をやれば 赤い蹴出しが 風に舞う……
《客演》ー
《寸評》芸を見て(おそらく)素で大笑いする室井滋も楽しそうだか、役柄上、ポーカーフェイスを保たなきゃならない柄本明も大変そうだ。
■The 5th number■
《演目》ベビードールダンシング with 『ベサメ・ムーチョ』(桂銀淑)
《登場作》「釣りバカ9」
《舞台》川内市まごころ文学館 地鎮祭後の宴席
《衣装》透け透けネグリジェにズロースというまさにベビードール姿。
《歌詞》姿見に背中写し もどかしくジッパー引く……
《客演》岩崎ひろし(「釣りバカ」チョイ役常連の俳優、元 日劇ダンシングチーム)
《寸評》ハマちゃんの名人芸・スーツ&ワイシャツ破りからの衣装替えに会場大盛り上がり。この楽曲にこの踊りの組み合わせが意味不明な面白さを醸し出す、筆者イチ推しのパフォーマンス。
■The 6th number■
《演目》「ハワイアン高砂」~「ファイヤーダンス」
《登場作》「釣りバカ10」
《舞台》松っちゃん(演:金子賢)&みどりちゃん(演:宝生舞)の結納の席
《衣装》アロハシャツ~腰ミノ
《歌詞》高砂や この浦舟に帆を上げて……
《客演》高木ブーとニューハロナ(ハワイアンバンド)
《寸評》今回もスーツ破りからの衣装替え。前半の高砂には同席者はしっとり聞き惚れるも一転、後半のクレイジーなファイヤーダンス風ポンポンダンスには、夏八木勲はじめみな唖然。ブーさんとの共演は日本芸能史上に残る至高のエンターテイメント。目に焼き付けておこう!
■The 7th number■
《演目》歌舞伎調「婚儀の夜」(原曲『O sole mio(オー・ソレ・ミオ)』)
《登場作》「花のお江戸」
《舞台》浜崎伝助・小浪の婚儀の席
《衣装》キンキンキラキラな紋付き袴
《歌詞》春が来た幸せが来た 小浪どのが連れて来た……
《客演》黒木瞳ほか出演者総動員。大家役の谷啓がトロンボーンで参加。
《寸評》宴会芸と言うより歌舞伎の荒業そのもの。さっすが松竹!観るも楽しい演るも楽しそうな娯楽大作の大団円です。
■The 8th number■
《演目》前衛舞踏風「フグは食っても肝食うな」
《登場作》「釣りバカ12」
《舞台》スーさん妄想
《衣装》素っ裸に白ふんどし一丁とフグの首飾り。顔面白塗り。
《歌詞》フグは食っても肝食うな 舐めただけでもヤラれるじゃ~……
《客演》ー
《寸評》舞台が山口県のためフグが登場。厳密には宴会芸ではなく、スーさんの妄想の中の出来事。モチーフは山海塾だろうか、シリーズ中、最も異色なパフォーマンス。
■The 9th number■
《演目》『ホタルイカメンコ』(ホタルイカ+フラメンコ)
《登場作》「釣りバカ13」
《舞台》宇奈月温泉のホテルの宴会場
《衣装》ホタルイカ被り物
《歌詞》富山 立山 さて何だわ 海よし山よしお人好し……
《客演》ギタリスト、バックダンサー
《寸評》シリーズ3回目のご当地芸は、富山名産ホタルイカがモチーフ。関係者の宴会ではなく、一般客も同席する温泉ホテルの催し物に飛び入り参加か。ハマちゃんサービス満点!
■The 10th number■
《演目》『All Night Long Blues』
《登場作》「釣りバカ14」
《舞台》ブルースバー
《衣装》タキシード
《歌詞》悲しい話はもうやめて はやくアンタの笑顔見せて……
《客演》三宅裕司(ツインボーカル)、谷啓(トロンボーン)
《寸評》朝原監督と音楽担当の信田かずお氏が作曲したオリジナル曲。谷啓(佐々木次長ではない)もトロンボーンで参加し、シリーズ屈指の音楽シーンに。
■The 11th number■
《演目》『My Lovely Town』
《登場作》「釣りバカ16」
《舞台》佐世保のバー
《衣装》テンガロンハット
《歌詞》佐世保 My town 小さな町 故郷の港町……
《客演》尾崎紀世彦(ツインボーカル)
《寸評》同作オリジナルのナンバーでウエスタン調。尾崎紀世彦と伊東美咲のデュエット『Making Plans』、物語後半の『Hawaiian Wedding Song』と合わせて、じっくりしっとり堪能しましょう。くれぐれも妙な芸や奇抜な衣装は期待せずに。
■The 12th number■
《演目》大衆演劇風『国東半島』(松前ひろ子)
《登場作》「釣りバカ19」
《舞台》大分県は社員旅行の宴席
《衣装》浴衣・丹前に女物のカツラ
《歌詞》裾を乱して 急いでみても 未練がまたも 袖を引く……
《客演》松前ひろ子
《寸評》シリーズ5回目のご当地芸。原曲を歌うアーティスト本人が客演するが、ほっぺまで貼りつけるという気合いの入りよう。過剰な演出のない、誰でも実践できそうな宴会芸で親近感No.1。
■The last number■
《演目》『奪衣婆(だつえばば)の唄』 (原曲『La cucaracha(ラ・クカラーチャ)』メキシコ民謡)ときどき『賽の河原の唄』(原曲『Cielito Lindo(シエリト リンド)』メキシコ民謡)
《登場作》「釣りバカ20」
《舞台》スーさん妄想(三途の川)
《衣装》奪衣婆のそれ
《歌詞》彼女の名前は正塚婆(しょうづかのばば) 三途の河原じゃ知られた婆さ……
《客演》三國連太郎、中本賢ほか多数
《寸評》ラストナンバーの舞台はあの世(の一歩手前)……。三國さん谷啓さんはじめ、健康に不安のある高齢の出演者が多いなかにあってこの設定はブラックジョークか。はたまた毒蝮三太夫よろしく反語的に長寿を祈願していたのかな。それはさておき、曲を聞いて「ポンセ(横浜大洋ホエールズ)の応援歌」と言ったそこのアナタ!相当古いぞ!
ここがスゴいぞ。ハマちゃん宴会芸!
うーん、なんかスゴい……。よくわからないけどスゴい……。で、実際、何がどうスゴいのだろうか……。
1.幅広いジャンルがスゴい!
演歌、歌謡曲に留まらず、ブルース、ハワイアン、カンツォーネ、フラメンコなど、歌い踊ったジャンルはワールドワイド!さらにはそれらをしっかり自分の芸にしているから感服するしかない。
ハマちゃん、ディナーショーやっても金取れるぞ。
2.衣装がスゴい!
当初は裸踊りの延長に過ぎなかったが、次第にエスカレート。シリーズ中盤あたりからはもう宴会芸の衣装の範疇を越えてます。松竹・衣装部の遊び心と情熱がヒシヒシ伝わってくるではないか!
蛇足だが、個人的には、袖などが簡単に破れる、あのスーツ&ワイシャツを市販して欲しい。
3.客演者がスゴい!
尾崎紀世彦に谷啓……もう見られない夢のセッションだ。
高木ブー……もしかしたら、もう見られないセッションかもしれない。
松崎しげるあたりも、かなりレアだ。
そんな奇跡がここにある。日本映画の音楽シーンを語る上でも見逃したらゼッタイ損するぞ!
過ぎ去りし平成時代の神話か
和洋幅広いジャンル、圧倒的な歌唱力とコミカルな踊り、エスカレートするメイクや衣装……。
あらためて観てみると、この一連の宴会芸シーンのハマちゃんは、異常なまでの存在感を放っている。役者とか演技を超越しているようにも、何かに取り憑かれているかのようにも映り、神々しくもある。
そんなことをぼんやり思っていると、ふと、ある神話が頭をよぎった。その神話とは天岩戸の話だ。
スサノオの乱行に心を痛めた天照大神が天岩戸に籠城、陽の光りがささない事態に。何としても岩戸を開けたい神々の策で、アマノウズメが岩戸の前に桶を伏せて踏み鳴らし、神憑りして胸をさらけ出し、裳の紐を陰部までおし下げて踊った。
すると、高天原が鳴り轟くように八百万の神が一斉に笑った。気になった天照大神が、ちょっと岩戸を開けたところに、岩かげに身を潜めていた怪力のタジカラヲが天照大神の腕を掴んで一気に引き出したーーという神話。
この神話って、このアマノウズメって、ハマちゃんの宴会芸の状況になんか似てない?
「釣りバカ日誌」シリーズが公開されたのは1988年、終了したのが2008年。バブル経済の崩壊後、失われた10年とも20年とも言われた時代とほぼ重なる(連載第3回)。
経済は上向かず、世の中は天照大神が岩戸に籠った時のように明るい光が差し込まない。
そんな時代にあって、 この映画シリーズでまさに神がかったパフォーマンスを披露し続けたハマちゃんは、重苦しい時代の岩戸を開けんとしていたのでは……そのように思えるのだ。
宴会芸シーンは天岩戸の神話。そして、ハマちゃんは平成のアマノウズメだったのかもしれない。
文・撮影=瀬戸信保 イラスト=オギリマサホ