ドンツキ協会・齋藤 佳さん
ドンツキとは、街を知るための大事なツール
都市化の波にのまれ、急スピードで変貌した街。そこにやむを得ず生まれた(あるいは、取り残された)路地がドンツキだ。この存在を街の個性として注目し、真面目に探求し続ける齋藤佳さんは、「街を知るための大事なツールです」と、静かに断言する。2011年に「ドンツキ協会」を立ち上げ、仲間とともに史実を重ねて調査研究。活動は、ドンツキ愛に満ちている。
ドンツキだらけの場所もあるが、先にネットや本で地図を確認して、当たりをつけてから繰り出そう。「ドンツキや〜い」と歩き始めるや否や、右に左に路地をのぞき込んでしまう。見つけたら、突入前に、あいさつを。「ほとんどが私道ですので、お邪魔しますの心を持って」と、齋藤さん。「住人の方に出会ったら趣旨を伝えましょう。昔話を聞けるかも」。
ドンツキ多出エリアは、まるで迷路。方向感覚が麻痺(まひ)するだけでなく、時間軸までずれてくる。が、罠(わな)にかかったような感じが、たまらない。突き当たる快感に慣れてくると、次はそこにドンツキがある理由が気になる。調べてみると暗渠(あんきょ)、廃線跡、開発の爪痕など、セピア色の風景が浮かぶ。
「ドンツキを切り口に、他のことにどんどん広がるんです」
と、齋藤さん。街歩きのスタイルの一つとして、親しみたい。
例えば、京島エリアだけでもこんなに!
「ドンツキ協会」が地図と実地検証を重ね作成した大型地図の一部。同協会調べでは1874カ所あり、特にここは密集地帯だ。
見つけた一部を紹介。形状、タイプはいろいろ!
通路の形で分類したドンツキ名を参考に、自由な発想でニックネームを付けてみよう。
直進型
最も多い基本の形状。単調に見えても道幅や全長、路上のようすは“十ド十色”で見応えたっぷり。ここは、突き当たりに扉がある。
学校ドン
学校をはじめ、公園や病院といった広い敷地に遮られて、四方八方でドンツキ化。下調べなしでやみくもに歩いても、見つけやすい。
蜃気楼(しんきろう)型
続く道が向こうに見えているのに、通り抜けできない。あるいは、地図上では道が続くが、分断されている。裏側からの観察も、ぜひ。
「一時停止」あり
通称「複合型5Kドンツキ」。時速5㎞、一時停止の明記があり、本道に白線を書いた通路を行き来。複数の要素が融合する場所。
線路ドン
高架化していない線路近くの、時間が止まったようなドンツキ。すぐ近くを電車が走り、踏切音が響く。ツタが絡まる家屋、洗濯物干しなど、アイテム豊富。
股通る(マタドール)型
一見すると直進型のようだが、道なりに進めばするすると通り抜けられるタイプ。行き止まりと思いきやまさかのフェイントに、「やられた!」「ラッキー!」
回遊型
近道をしようと思って入ってみたら、結局は同じ道に戻ってしまう。歩数のわりにはまったく進んでいないじゃないか、と思うべからず。
斜めドン
直線型の先が斜めになり、高低差も感じる。古地図と照会すると京成白鬚線が浮上。廃線跡は今も細切れにあり、ドンツキになっている。
ヘリンボン型
太めの直線から、細いドンツキが左右対称に分かれて存在。まるで魚の骨(ヘリンボーン)のようだ。シンプルな形状だが数は少なく、レア。
注目したいドンツキアイテムたち
ドンツキでよく見かける相性のいい定番風物。観察をよりおもしろく深めてくれる。
≪ 猫 ≫
人間と適度な距離を取りつつ、界隈を見張っている!? 居るだけで路地の風景が映える、ドンツキのドン的存在。
≪ 自転車 ≫
駐輪が多い路地は、ドンツキの可能性大。忘れ去られた自転車も時折見かけ、〝苗床化〞する光景はまるでアート。
≪ 電柱 ≫
道が先か電柱が先か。車侵入禁止の役割があるのか。ここで仁王立ちする理由をあれこれ想像し不思議がるのだ。
≪ ペットボトル ≫
猫よけ&火災の備えがお見事。家主の好きなドリンクがうかがえる。よく見ると、植木鉢の色とコーディネート?
≪ 街路灯 ≫
細いレトロな街路灯。日が暮れるとドンツキを照らすスポットライトだ。柱は淡いペパーミントグリーン。
≪ フェンス ≫
古い塀や家屋が壊され空き地になると、境界に簡易柵ができてスケルトンドンに。あっちからこっちも眺めて。
取材・文=松井一恵 撮影=鈴木愛子
『散歩の達人』2022年2月号より