店に入ると焙煎機とコーヒーミルがお出迎え。豆の販売もしており、滞在中も近隣の常連さんと思われるお客さんが何名も挽きたての豆を買いに来ていた。
窓際の席に座り、コーヒーとケーキを注文。窓の外にはかわいいてるてる坊主が東の空を見つめていた。

変わった形のカップと槌目のついたカトラリーが好みだったので、しばらくいろいろな角度で眺め愛でた。
「冷めないうちにいただかねば!」と我に返り、浅煎りのブレンドをすすり「ふーーーっ」と息を吐いた。森で深呼吸するように、全身に血流と共にコーヒーが行き渡った。
その後もてるてる坊主とだんだんと暗くなる空を眺めながら、コーヒーとケーキを交互に口に運んだ。ただただ「今ここにあるもの」を感じ、苦いと甘いの心地よさを楽しんだ。

窓の外も店内も穏やか。店主の雰囲気も穏やか。
都会の喧騒にあるオアシス的なカフェもいいけれど、日常に溶け込むような境界線のない癒しも必要だ。
くまのプーさんの言葉を借りるなら、「“何もしない”をする」。仕事の帰りに、散歩の途中に、いつもの日常の一コマに、頭を空っぽにする時間があると、人生は豊かになるのではないだろうか。
それができる場所だな、とはじめて入った店なのに、そんな居心地の良さを感じた。

棚に並ぶコーヒー豆を見ると、ラベルにはなんともかわいい文字が。
「もしかしてこのフォント、オリジナルですか?」と思わず店主に尋ねると、店のロゴを作ってくれたデザイナーさんがフォントも作ってくれたという。
カタカナからひょっこり葉っぱが生えている。さりげないかわいさにほっこりした。

しばらくゆったりと過ごし、気づけば日も暮れていた。そういえば黒目川を目指して歩いていたんだと思い出し、店を後にした。
もう少し明るいうちに川沿いを歩くつもりだったのだが、犬の散歩や学校帰りの学生もチラホラといて、薄暗い川沿いも悪くなかった。
下田橋に立つと夕焼けと月明かりに挟まれた。
グラデーションに包まれて「今日が終わっていくな〜」と思わずひとりごと。
少し先の弁天堀橋は黄色い電車が駆け抜けていく。
地元でも縁もゆかりもない場所なのに、どこかなつかしい。

『珈琲の店もっく』と黒目川散歩。
東久留米に訪れる機会があったら、ぜひ“何もしない”をしに立ち寄ってみてほしい。