能町みね子
本誌連載「ほじくりストリートビュー」でもおなじみ、文筆家・自称漫画家。副業でラジオやテレビ、ネットメディア出演も。『装苑』で10年にわたり雑誌の読者をプロファイルした連載「雑誌の人格」の完結巻『雑誌の人格 3冊目』(文化出版局)が好評発売中。
西村依莉
編集者・ライター。出版社勤務を経てフリーランスに。『キャバレー、ダンスホール 20世紀の夜』『昭和インテリアスタイル』(共にグラフィック社)、『いいビルの世界 東京ハンサムイースト』(大福書林)などの共著書も。1960〜90年代のファッション雑誌集めが趣味。
おしゃれ化する文芸誌売り場でミルクボーイのすごさを実感
能町 : ここは雑誌売り場が2階にあるんだね。それもちょっと奥まった場所。
西村 : だいたいメインの入り口を入ってすぐ目につく場所にあるよね。1階はビジネス書系の書籍がびっしりだった。やっぱり丸の内という土地の特性かも。雑誌売り場を順番に見ていこう。
能町 : エスカレーターから一番近いところにあるのはビジネス・経済系と、文芸誌。最近の文芸誌の表紙はおしゃれだよね。買いたくなるよ。
西村 : 若い人も取り込もうとしてるのかな? 仕事で20歳くらいの若者と話すと、文学に興味があるという人は多い。メールやSNSなんかでも、若い世代は日本語をきちんと使おうとしてる感じがする。
能町 : 『短歌』 の 「コロナ禍特別鼎談」 、馬場あき子先生 (92歳) が自粛時にテレビをたくさん観るようになって、ミルクボーイが好きになったという衝撃的なニュースが! 馬場先生を魅了するミルクボーイ、すごくない? 投稿される短歌はコロナ一色らしい。馬場さんが「3月からマスクの歌がどっと出て、次にトイレットペーパー買いだめの歌。それから休校の歌が出て、不要不急の歌になって、ソーシャルディスタンスの歌になった」て。
西村 : 短歌は世相を反映しまくってるね。
能町 : 「今回のことでいちばん思い出したのは、 昭和19年にも言われた 『不要不急』」だって。 「戦争に不要不急のものとして、劇場に映画館、寄席までもが閉まった」 。
西村 : 昭和3年生まれで当時16歳。もう一度似たような体験をしてしまうなんて。
能町 : それを思い出せるのがすごいし、そんな人が今ミルクボーイにハマってるっていうのがまた。
なんとなく性格が見える女性誌におけるコロナの扱い
能町 : 丸の内だからなのか、普通なら目立つゾーンに『non-no』とかがあるはずなのに、ビジネス雑誌と配置が逆になってる気がする。『日経ウーマン』がすごい立ち読みされてる。女性誌にも「コロナの時代っぽさ」は出るのかな?『MAQUIA』は「新しい美容の価値観」なんて言ってるけど。どの雑誌も、 「基準が変わる」 とか、無理やり新しい時代感を打ち出してる感じがする。表紙で 「無駄買いNO時代」 なんて言ってて、 さみしいな。『MAQUIA』の「つかもう!新しい美容の価値観」っていう特集……「ニュースタンダード肌」だって。「ニューノーマル」じゃないんだ。コロナという言葉をあえて言わない感じがモヤモヤする。
西村 : 「コロナ」って言いにくいのかな。
能町 : 絶対これコロナのことほのめかしてるじゃん! って思っちゃうよ(笑)。「新しい美容の価値観その3」は目もとの特集で、「今はマスクの時代」って。ここは普通に言っちゃってる。あ、マスクにどれくらいファンデーションがつくか、『LDK』みたいにファンデ別に実験してるよ! 『LDK』は私が思うに、現代流『暮しの手帖』。『暮しの手帖』は、広告を載せずに実際に家電とかを買ってシビアに性能を比べて載せてた元祖なんですよね。『LDK』も広告なしで、本当にいろんなことを比べて生々しく載せてる。
西村 : テレビで 『LDK』 編集部に密着してるのを見たことあるけど、どの洗剤が一番汚れを落とせるかという実験をするために、飲食店で皿洗いのバイトをさせてもらって検証してた。体当たりだよ。
能町 : 化粧品の保湿力を確かめるために、キュウリの断面に塗ったりしてた(笑)。
西村 : 最近の女性誌の表紙は、以前よりはすっきりして文字を載せすぎない傾向になってるけど、『LDK』は我が道を行ってる。物の写真と文字文字文字!
能町 : 絶対に表紙に芸能人を出さないところも好き。他の雑誌が「コロナ」とか「マスク」とか直接的に書くことに腰が引けてる中、姉妹誌の『LDK the Beauty』なんてこんなに大きい文字で「マスク時代」って書いちゃってるのもいい。
西村 : すごく男性誌的だよね。
能町 : そう、メンズ版の『MONOQLO』っていう雑誌があって、創刊はそっちが先なんだよね。
西村 : それにしても、女性誌コーナーのいちばん目立つところにある『ゼクシィ』にはコロナの気配がない。あ、「体調が悪くなったらどうするの?」って……いや、これはコロナじゃなくて妊婦婚のことだった。別冊で「僕らのゼクシィ」だって。男女観がフラットになってきてる時代が反映されてるのかな。
能町 : 結婚式、今しづらいじゃん、どうすんだろ。まさかコロナがないことにしてるのかな。こんな時にどうやって結婚式をやるか、それを今一番知りたくない?
西村 : それどころか、リゾートウエディングとか言ってる。行けないよ。
能町 : パラレルワールドだね。『ゼクシィ』の世界にはコロナが存在しない……?
西村 : ちなみに、次号の特集は「あなたの“ギモン”に全力回答♡絶対知りたいJust Hit “アドバイス100”その結婚式、HOWMUCH??」。
能町 : コロナのことはどうするんですか?って誰か聞いて!
西村 : (笑)。「ゼクシィは4冊読めば安心です」って書いてある。結婚を決めてから4冊くらい買うもんなんだね。
動くことから動かすものへ陳列の流れも要チェック
能町 : 『散歩の達人』は男性情報誌コーナー。読者は男性が多いんですか?
編集部 : 特集によりますね。半々くらいになることもあります。
能町 : あ、これが『MONOQLO』。『家電批評』も『LDK』と同じ出版社。『MONOQLO』の方が『LDK』よりデザインが洗練されてる感じがする。
西村 : タイトル周りに白場を作ってたり、写真や文字にメリハリがあるね。
能町 : もちろんこっちも広告は一切ナシ! 男性誌の棚は、ファッション誌から釣り→キャンプ→登山→サーフィン→ダイビング→ランニング→自転車→相撲……で、スポーツ誌に行く並び。
西村 : 『相撲』ってベースボール・マガジン社が作ってるんだ。
能町 : 「ベーマガ」はすごいよ。ほとんどのスポーツ雑誌をベーマガが作ってるといっても過言じゃない。 スポーツ誌で『◯◯マガジン』っていうタイトルは大体ベーマガの雑誌。これもベーマガでしょ、『ボクシングマガジン』。
西村 : ほんとだ! 『陸上競技マガジン』は? ベーマガじゃん!
能町 : スポーツ誌で私が好きなのは『広島アスリートマガジン』。ほぼカープのことしか取り上げないの。出版社が広島の会社。ベーマガの『サッカーマガジン』はともかく、『footballista』『フットボール批評』とか、サッカー雑誌は意識高い感じ。
西村 : (笑)。意識高い人はサッカー好きなイメージあるよね。アパレルとかクリエイター系の人は、草野球より社会人フットサルチーム作ってやってそう。え、この異常におしゃれな雑誌はなんだ?
能町 : 『BOGEY』だから、ゴルフだ! 表紙が青木功。めちゃくちゃおしゃれだね! 最近はスポーツ雑誌もおしゃれなのが増えてるんだね。
西村 : イギリスを感じさせるかっこよさ。もはやおしゃれカルチャー誌だよ。
能町 : 棚の並びはゴルフ→モータースポーツ→バイク→車→飛行機ときて、ミリタリーにいくんだね。
西村 : で、店の入り口側は最終的に鉄道。
能町 : 内容がだんだん自分で運転できないものになっていく(笑)。私、トラック野郎の雑誌『トラック魂(スピリッツ)』が好きなんだけど置いてないかな?
西村 : あったよ! デコトラって内装をめちゃくちゃゴージャスにしてるんだね。シャンデリアにクロス、ちょっとしたスナックじゃん。これしっかり読みたいな。
能町 : 西村は『トラック魂』絶対好きだと思ったよ!
西村 : 人と一緒に雑誌売り場を見ると、普段見ない棚を見るね。目的の棚やなじみのある棚で完結しがちだった。一人だと絶対に行かない車やスポーツの棚で、デコトラ雑誌を買うとは……。書店で雑誌を見てると、ランダムに情報が入ってくるから知見が広がるなと改めて思った。
能町 : 書店へ行くっていうこと自体がそうだよね。私は買うものがなくても雑誌コーナーは隅々まで見るのが好き。というか、書店を全体的に一通り見る。
西村 : 町の本屋さんならいいけど、大型書店だと大変じゃない?
能町 : うん、本気で見ていくとめちゃくちゃ疲れる(笑)。
雑誌、趣味・実用書、専門書のほか洋書や文具・雑貨も扱う大型書店。特に各種ビジネス書のラインナップが豊富で、オフィス街の書店らしい品揃え。展示ギャラリーでは発売イベントなども開催。
住所:東京都千代田区丸の内1-6-4丸の内オアゾ1~4F/営業時間: 9:00~21:00/定休日:不定/電話番号:03-5288-8881/アクセスJR・地下鉄東京駅丸の内から徒歩1分
取材・構成=能町みね子、西村依莉 撮影=鈴木奈保子
『散歩の達人』2020年11月号より
*記事内容は取材時(2020年9月)のものです。