良い素材を使って手作り、出来立てを提供するのがモットー

東新宿駅から大久保通りを歩き、静かな路地に入ると2016年にオープンした『東新宿 Sakura Cafe』がある。人通りは少なく、周囲は民家が立ち並んでいて静か。表通りとのギャップを感じつつも、ここでホッとひと息つけそうだと思った。

店頭にはお花が飾られ、温かみのあるステンドグラスのランプもイイ。
店頭にはお花が飾られ、温かみのあるステンドグラスのランプもイイ。

ドアを開けて中に入ると、店主の森野さんが「いらっしゃいませ!」と迎えてくれた。店内もゆったりとして落ち着いた雰囲気で、まるでどこかのお宅にお邪魔しているかのような和み感。

ひとりで店を切り盛りする店主の森野さん。
ひとりで店を切り盛りする店主の森野さん。

忙しくキッチンとホールを行き来しながらも、店主が話を聞かせてくれた。

「昔からここに住んでいるご近所さんや近隣で働く方たちがお茶やランチをしに来てくださいます。やっぱりみなさん“誰かのおうちに来た感覚だわ”とか、“お呼ばれしてるみたいな感じね”っておっしゃってくださいますね」

カウンターとテーブル席を完備。居抜きで入居したという。
カウンターとテーブル席を完備。居抜きで入居したという。

ランチやドリンク、アルコールも提供する『東新宿 Sakura Cafe』。お店のモットーは“出来立て” “手作り” “いい食材”にこだわることだそう。

「ごはんを毎日炊いて、パスタはオーダーが入ってから茹でて、サラダの野菜は洗ったあと氷水につけてシャキッとさせる。ちょっと手間はかかるんですけど絶対その方がおいしいですからね。材料もなるべくいいものを使うようにしています。玉ねぎは甘みと旨味が強い北海道産、そぼろのお肉はもちろん国産で新橋の老舗鶏肉専門店で仕入れています。仕入れも調理も配膳も全部ひとりでやってますから、お客さまをお待たせしてしまう時もありますが、出来立てアツアツの手作りの味を提供させていただいております」と店主。

家具は備え付けだったが唯一購入したのが1枚板のテーブル。坪庭を望むこの席が人気だ。
家具は備え付けだったが唯一購入したのが1枚板のテーブル。坪庭を望むこの席が人気だ。

どんな店にしたいか考えた時、自分が欲しかった「居場所」を形にした。いわば、この店は店主のセカンドプレイスというわけ。冒頭に感じた和み感は間違いじゃなかった。

「私はこのお店を通じて社会とつながっていたいんだと思います。かつては会社員として働いていましたし、これからも仕事をしていたいんですね。仕事をしていなければつまらないし、働いているからご飯もお酒もおいしく感じる。お客さまが“おいしい”って言ってくれたり、何気ない会話が日々の喜びにつながっているんです」

店内には花や緑を欠かさない。
店内には花や緑を欠かさない。

最初は3年くらいで辞めるかもと思っていたが「あっという間に時間が経っていました(笑)」という様子から、日々の充実感が垣間見える。

「たまに『やめようかなあ』なんて常連さんに愚痴をこぼすと、『やめてよ、これから私はどこでランチしたらいいの?』と声をかけてくださる方もいます。周りの方に支えてもらっているんだなぁと改めて思いますね」。

これまで孤軍奮闘で精一杯営業してきた。「カフェというわりにスイーツ系のメニューが少ないんですよ。パンケーキとかやってみようかなぁ」という構想もじわじわ。まだまだ経営が続きそうでホッとした。

退職して飲食の道へ。「10代の子たちに混じって調理学校で学びました」

店主は以前、デパートで販売促進の仕事をしていたが2009年に退職をした。これまでとは違う仕事をしてみようと考えたとき、食べることやお酒を飲むのも好きだから「お店でもやっちゃおうかな〜という軽い気持ち」だったそう。

スキレットオムライスやグリーンカレーなど日替わりランチはジャンルも多彩。
スキレットオムライスやグリーンカレーなど日替わりランチはジャンルも多彩。

「退職後、まず調理の専門学校に行ったんですよ。高校卒業したての子たちに交じって1年勉強して調理師免許も取りました。並行して物件探しを始めたんですが、すぐには見つからないだろうなあという思いもありました」。

飲食店経営をする際は調理師免許が必須ではないのに、まずは基本からという店主の真面目さがうかがえるエピソードだ。しかも、現場を学ぼうと飲食店でアルバイトもしていたという。毎日、相当忙しかっただろう。

女子に人気のクリームソーダ各700円。
女子に人気のクリームソーダ各700円。

「結局、物件探しに5年くらいかかってしまいました。そもそも神楽坂とか四ツ谷方面を狙っていたんですけど、全然見つからないので新大久保まで視野を広げました。そしたら、初めてここを見に来て一目で気に入ったんですよ。とくに小さな坪庭がステキで! 私、昔から直感で動くところがあるんですけど、『これこそ私の望む物件だな』って感じたのですぐに契約しました」。

そこから試行錯誤しながらも充実した毎日を過ごしている。

新橋の老舗鶏肉専門店で仕入れた親鶏のそぼろが噛むほどに味わい深い!

ランチはほぼ毎日4種提供している。取材当日のランチは、日替わりのサラダランチ、定番の鶏そぼろ御膳、ビーフカレードリア、ナポリタンで、各1200円。紅茶、ハーブティー、オレンジジュースなど好きなドリンクが2杯ついているのもうれしいところ。コーヒーはプラス200円で飲むことができる。これは、ついつい長居してしまう常連さんの気持ちもわかる。

どれもおいしそうだが、総菜がたくさんあってお得そうな鶏そぼろ御膳を選んだ。

特製ダレで煮た鶏そぼろ。上品な味付けだ。
特製ダレで煮た鶏そぼろ。上品な味付けだ。

鶏そぼろは新橋にある焼き鳥店の味を伝授してもらい、材料も同じ新橋の老舗鶏肉専門店から仕入れている。店主はサッサと調理をするのでカメラが追いつかない! 筆者のペースに合わせて調理をしながら「このそぼろは親鶏の粗挽き肉を使っているので歯応えがあるんです」と解説してくれた。

ご飯の上に刻み海苔、鶏そぼろを乗せて仕上げに卵黄。余った卵白はお味噌汁へ。
ご飯の上に刻み海苔、鶏そぼろを乗せて仕上げに卵黄。余った卵白はお味噌汁へ。

手際よくご飯をよそって鶏そぼろ丼を作り、総菜やサラダを盛り付けて味噌汁をセットして完成。わ〜、一度に何十品目も摂れそうな健康的な食事!

4つの日替わり総菜と味噌汁、サラダ、デザートと2ドリンク付き。
4つの日替わり総菜と味噌汁、サラダ、デザートと2ドリンク付き。

さっそく、いただきまーす。

まずは鶏そぼろ丼から。醤油や砂糖で濃く味つけたふんわり食感の鶏そぼろではなく、歯ごたえがあり味もごく薄くついている程度。正直なところ、味付けがやさしすぎるな……と感じたのだが、噛んでいるうちに親鶏からじんわり味が出てきた。

プチンと弾ける卵黄は、鶏そぼろの味をマイルドにする。
プチンと弾ける卵黄は、鶏そぼろの味をマイルドにする。

「丼ものを食べていると、ちょっと漬物っぽいのも食べたくなったりしますよね。だから、総菜もバランスを考えました。年配の方でも安心して召し上がっていただける味付けだと思います」。

食べ進めていくうちに、鶏そぼろ丼をきんぴらやぬか漬けと一緒に食べた時にそれぞれの持ち味がわかるのと、混じり合うことで絶妙なハーモニーを生み出すことがわかってきた。最後には「いや、むしろこの味付けがいい!」と思ってしまった。

すごいぞ、親鶏! もとい、森野さん!

取材当日の総菜はナスと長ネギの生姜醤油かけ、きんぴらごぼう、ぬか漬け、ポテトサラダ。
取材当日の総菜はナスと長ネギの生姜醤油かけ、きんぴらごぼう、ぬか漬け、ポテトサラダ。

いろんなおかずとの組み合わせを試したいから、ご飯に全集中して完食。食後はデザートの小さなロールケーキと紅茶を楽しんだ。そのあと、スマホを見ながらのんびりオレンジジュースを飲んで終了。ごちそうさまでした〜。

たくさん食べたけどよく噛んだからか胃が軽やかだ! さあ、午後の仕事も頑張ろう。

住所:東京都新宿区大久保2-18-4-101/営業時間:11:30〜17:00 (金は11:30〜22:00) ※ランチは15:30LO/定休日:不定(公式HPのカレンダー参照)/アクセス:地下鉄東新宿駅から徒歩5分、JR山手線新大久保駅から徒歩8分

構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=パンチ広沢