江の島から江ノ電でガタンゴトン、向かうは『長谷駅』だ。六月のこの日、天候はもちろん雨。時折強く降ることもあり、普通ならかなりコンディションが悪い。ただ今日に限っては、これくらいがちょうどいい。車内に響く屋根を打つ雨音が、逆に気持ちを高ぶらせてくれるのだ。
長谷駅に到着すると、雨が少し落ち着いていた。これもまた、いい兆候だ。お寺は歩いてすぐ、もうすでに湿った緑の匂いが漂っている。その匂いを頼りに進み、いざ長谷寺の門をくぐった。
中へ入ると、いくつもの日本庭園が広がる。そこから階段を上がると、今日一番の目的の場所に着いた。青々とした樹木の屋根、苔の壁に包まれて、一面が緑一色となるのだ。
青や紫の花と、辺りの緑が美しいコントラスト。不思議なもので、『紫陽花』はこの梅雨の雨が似合う。真夏の日差しの下、雪景色の下には決して似合わない。鉛色の空の薄明りに、雨水を弾く艶のある青紫色だから美しいのだ。
苔の絨毯の上に、仲睦まじい『良縁地蔵』の三体が並ぶ。このお地蔵さまたちは、庭のいたるところに潜んでおり、それを探すのがまた楽しい。いまのところ良縁の話はまだだが、私はこの苔に座るお地蔵さまが一番のお気に入りだ。
気が付けば、チュンチュン、ホケキョと野鳥の鳴き声が聴こえている──雨はやがて、上がっていた。
ひと通り周ると、缶で出来た謎のオブジェを見つけた。灯篭のようにカラカラと回る姿は、雨上がりに情緒たっぷりだ。気になるところは〝お酒の缶〟を選んでいるところ。住職が嗜むのか、それとも何かの験担ぎなのか……いろいろ想像していると、なんだかお酒が飲みたくなってきた。よし、これから鎌倉で一杯といきますか。
由緒あるお寺に、素晴らしい日本庭園。ただ、私的にはここを〝梅雨の寺〟と称したい。傘を差して紫陽花を見るのもよし、東屋でゆっくりと雨と緑の香りを楽しむのもよし……あぁ、今年も梅雨が待ち遠しい。
取材・文・撮影=味論(酒場ナビ)