食べて、歩いて、映画見て

長野駅の改札を出るとまず香ってくるのは実りゆく秋の香り…いや、そうではない。

まず香ってくるのは、改札出てすぐの駅蕎麦「信州そばナカジマ会館」から漂う濃厚かつ甘い出汁の香りである。

はっきり言って食欲を駆り立てるこの香りは卑怯。腹が減っては戦(散歩)はできぬということで、あれよあれよと改札から自動的に店の中へ吸い込まれるのが人間の性。

しかし、さすがは駅蕎麦。食券を購入してから蕎麦が提供されるまでのレスポンスがほぼ光Wi-Fi。

さらに受取口に陳列されたいなり寿司に注目せざるを得ない。無意識に手が伸びる。術中にハマった私はかけ蕎麦といなり寿司を注文。

夏が終わり、心地よい初秋の風を感じ始めたこの時期。温かいかけ蕎麦をすすった瞬間、つむじからつま先まで出汁のうま味が染み渡る。
そして写真のとおり、ふくふくのいなり寿司のジューシーさたるや。熱々濃いめの蕎麦つゆで流し込めば、これはもう散歩前から優勝である。

蕎麦で胃袋を満たした後は散歩あるのみ。目指すは権堂アーケード商店街。

「牛に引かれてなんとやら」でお馴染みの善光寺。長野駅界隈からその参道を北へ程なく進むと権堂アーケード商店街の入口が右手に見えてくる。

この令和の時代にアーケードが現存しているというだけでノスタルジーである。

商店街の両脇には居酒屋、喫茶店、ラーメン店、カラオケ店、ブティック、生花店などが軒を連ねる。
路地に視線を向ければ、そこには芳ばしいスナック街が。なんたってこの場末感がたまらない。

さらに足を進めると、商店街の中程に突如として現れる巨大な建物。
建物にはネオン管で「相生座」の文字が。
そう、これこそが昔から地元で愛され続ける老舗映画館「相生座」である。

映画館といえば大型のシネコンが主流となっている昨今、こうした地元の映画館が現在も立派に残っているというのは映画ファンとしては嬉しい限り。
入口に張り出されたポスターたちを見ているだけで気持ちが高ぶる。

つまりは私にとって映画と散歩は密接な関係である。そして、ここに私の散歩術が隠されているわけだ。

それは、あえて上映作品や上映時間を調べずに相生座を目指して散歩することである。

到着した際に興味のありそうな映画がたまたま上映時間を迎えていれば、それはそれで良し。これが私の散歩術のひとつ。

一方、もしも見たいような映画の上映まで時間に余裕があるならば、まずはアーケード内の古本屋へ足を伸ばす。そして100円コーナーで文庫を一冊調達するわけだ。

さらに同じくアーケード内の喫茶店で珈琲でもすする。そして古本屋で調達した文庫を読みながら上映までの時間を調整する。これも私の散歩術のひとつと言えよう。

もしかすると権堂アーケード商店街には昔のような活気はないのかもしれない。しかし、この権堂アーケード商店街では、あらゆることが満たされ、商店街だけで完結することができるという、商店街の本来あるべき姿を垣間見ることができる。これは地域が持つ可能性である。

自身の散歩を通じてこのような商店街を大切にしていきたいと感じた秋の始まりであった。
これが私の散歩術。