オーナーと店長が二人がかりで試作を重ねた自信作
こぢんまりした店内はカウンター席がメイン。一人黙々と皿に向かい、味わうことに集中するひとときはとっても幸せである。
「当初、カレー屋の予定ではなかったんです」と店長の尾関太一さん。
まずはデリか定食屋という案があり、そこで出すメニューの一つとしてカレーのレシピを考えていたとか。オーナーでありミュージシャン、音楽界きってのカレー好きとしても知られる曽我部恵一さんと試作を繰り返すうち、手応えを感じて方向転換。「下北沢といえばカレー」なので、思い切って一本に絞ることにした。
タマネギの甘みとトマトの酸味がいい仕事をしている
基本の八月カレーはサラサラタイプ。
ピリッと辛味を発しながらも、そこでスパイスが主張しすぎるわけではなく、タマネギの甘み、トマトの酸味が奥行きのある味にする。後から追いかけるように、ジンジャーがじわり。さらに、ブラックペッパーが全体のまとめ役を担う。
食べ進めるにつれ実感するのは、スパイスの刺激に、おうちカレーの親しみやすさが潜んでいるということ。なんだか、最新カルチャーと古きよき文化、非日常と日常が混在する下北沢にぴったりな感じ。
「スープは豚骨と鶏ガラ、果物、香味野菜を使って、寸胴鍋で約10時間かけて仕込んでいます」
タマネギとトマトが感じさせる親しみやすさは、定期的に食べたくなるおふくろの味との共通点だ。
しっかり粒の立ったライスは縁の下の力持ち。
一番人気は八月カレーがベースのチキンカレー。低温調理した鶏モモ肉のふっくら食感とジューシーな旨味は、かけがえのない癒やし。オプションのあいがけキーマにすれば、歯応えのいい豚挽き肉とのコントラストがたまらない。前半は別々に、後半は混ぜながら食べると味の変化が楽しめていい。
チキンカレーのあいがけキーマで、真ん中に土手のごとく盛られたターメリックライス。こだわって選んだ新潟県産コシヒカリは、噛むごとに甘みが膨らむ。
サラサラしたカレーと相性が合うように米は粒を立たせる。鍋で少量ずつ炊き、残り少なくなると追加で炊く方式ゆえ、いつも炊きたてに近い状態なのがうれしい。
「カレーに決まり事はなくて、何でもありだと思います」と曽我部さん。店によって異なる個性があふれ、どんな人が作っているのか想像するのも醍醐味。これは音楽との共通点かも。
「自分にとって音楽もカレーも、ただパンチがあるということより、日常になじむものであることが大事」
だからこそ、毎日でも食べられる! 近いうちに、絶対また食べに来る。
『カレーの店・八月』店舗詳細情報
取材・文=信藤舞子 撮影=本野克佳