穏やかな味わいが、心までも満たす『カレーの店・八月』
おうちカレーにも似た印象に、ホッ。ひと口目で親近感を覚えつつ、なじみのある味の向こう側に、職人による丁寧な手仕事が見え、ハマる。豚骨や鶏ガラ、果物、香味野菜で仕込んだスープは口の中で深い層を成し、じわっと胃袋にも浸透。後から効いてくるジンジャー、ブラックペッパーなどのスパイスが全体をしっかりまとめ上げる。定期的に食べたくなるのはおふくろの味との共通点。
『カレーの店・八月』店舗詳細
和食出身の店主の我流の真骨頂『Anjali Curry Spice Foods』
かつてインドやスリランカを旅して回った店主の市原健一さん。現地で食べた味を手がかりに、また和食畑で培った自分の経験を信じ、オリジナルのレシピを考案する。出汁や食材の旨味を活かしたうえで「個人的には甘酸っぱいのも好き」。チキンにはスパイスのタマリンドを使い、辛味、旨味の間にほのかな酸味を忍ばせる。サンバルはしっかり凝縮させ、シャバシャバさせないのがAnjali流。
『Anjali Curry Spice Foods』店舗詳細
混ぜると味が変わる、スパイスの魔法『Curry Spice Gelateria KALPASI』
本日のカレー3種と手の込んだ付け合わせ野菜を美しく盛り合わせた一皿。それを崩すのはちょっともったいないが、怯(ひる)まず混ぜながらどうぞ。おもしろいことに味がくるくる変化し、自分なりの混ぜ具合など探究心が目覚める。例えばマトンキーマならカルパシ、カルダモンで爽やかさをプラスし、パッと華やかに演出。食べ進めるごとにスパイスに刺激され、味覚がどんどん研ぎ澄まされていく。
『Curry Spice Gelateria KALPASI』店舗詳細
大阪生まれのニューウェイブ『旧ヤム邸 シモキタ荘』
2017年、大阪スパイスカレー界の雄が東京へ。約30種のスパイスをメニューによって使い分け、ハーブや茶葉を取り入れることも。ランチのカレーは月替りで、それぞれ辛味、酸味、甘みなど強調する部分を変え、個性を分けた3種類。干しエビのコクにモズクの酸味でさっぱり感を加えていたり、関西人の遊び心に驚かされる。3種類かけて、少しずつ混ぜながら食べると、味変も楽しめるぞ。
『旧ヤム邸 シモキタ荘』店舗詳細
今宵は海鮮カレーとワインで乾杯!『スパイスキッチン ムーナ』
下北沢駅から徒歩1分のビル5階に店を構える『スパイスキッチン ムーナ』。南インドカレーに魅せられた店主が作る、シンプルですっきりとした海鮮カレーが好評だ。“呑めるカレー屋”とうたう同店では、ディナーのみ味わえるカレーセットも人気。店を代表する多彩な7品の前菜と、選べるカレーを1人前しっかりと味わえる。インド産のビールやワインを始めとするアジア地域の珍しいお酒も揃っているため、カレーと一緒に食したい。
『スパイスキッチン ムーナ』詳細
見た目以上に“ガッツリ系”の2種盛りカレー『カレーの惑星』
下北沢の一番商店街にある、カメラ屋の看板を掲げた風変わりなカレーショップ。定番メニューは、異なる2種類のルーを選べる2種盛り。華やかな見た目とは裏腹に、実はガツンとスパイスが効いたキーマや、全種類ご飯の大盛り・おかわり無料という“ガッツリ系”カレーだ。自然とご飯が進むので、思わず“追い飯”してしまうだろう。
『カレーの惑星』詳細
フレンチがベースのこっくりとした本格欧風カレー『YOUNG』
下北沢駅と世田谷代田駅の中間に位置する、閑静な住宅街にひっそりとたたずむ。創業して以来、店主が一貫して追求し続ける欧風カレーは、自家製フォン・ド・ボーをベースに作られた本格派。数日間寝かせた数十種類のスパイスと、飴色になるまで6~7時間炒めたタマネギを合わせ、2~3日という時間をかけてようやくルーが完成する手間暇を惜しまない一皿だ。まるでフランス料理のソースのようにこっくりとした味わいは、外食ならではの贅沢感を味わえる。
『YOUNG』詳細
700尾以上のエビを使用!濃厚なエビスープカレー『ポ二ピリカ』
北海道出身のオーナーによる“スープカレー愛”から誕生したスープカレー店。スープは和風、トマト、エビの3種類のスープから選択できる。ベースとなるスープは、ラーメンスープから着想を得て開発されたスープは、丁寧に下処理された豚の背ガラ、ゲンコツ、鳥の胴ガラ、モミジ、牛骨などを香味野菜と一緒に12時間以上煮出し、15種類のスパイスをブレンド。化学調味料不使用で体にも優しい。
『ポ二ピリカ』詳細
あっさり&コクのあるスパイスカレーでスパイスをチャージ!『般゜若(パンニャ)』
カレーマニアとして知られる俳優の松尾貴史さんが2009年にオープン。チキンとキーマのあいがけカレーは、鶏ガラの旨みと玉ねぎの甘みが生み出すまろやかさの中に、バターのコクとスパイスが香る。スープからゴロゴロとはみ出す大きな鶏もも肉は口の中でほろっと崩れる。満足感は高いが軽やかに食べられるところが、長年愛される理由だ。
『般゜若(パンニャ)』詳細
下北沢を代表する老舗カレー店『茄子おやじ』
1990年創業の、下北沢で最も古いカレー店。25年守り続けた先代から店を受け継いだ2代目店主が、先代の味わいと自分の色をミックスしたカレーを提供。毎日8~10時間炒めた寸胴1杯分の玉ねぎと、13~15種類のスパイスをベースに作られている。季節ごとにスパイスの調合を変えるため、味わいの変化も面白い。店内では、ヴィンテージのレコードプレーヤーから流れる音楽で耳を楽しませてくれる。
『茄子おやじ』詳細
玉ねぎの甘みが優しいスープカレーと、〆のスイーツ『202カリー堂』
下北沢駅のほど近くに、2021年12月にオープンしたスープカレー屋。北海道出身の店主による手づくりスープカレーと芸術性の高い本格スイーツを味わえる。スープカレーは、飴色になるまで煮詰めた玉ねぎの深い甘みが野菜の旨みをぐっと引き立てる。さらに独自に調合されたスパイス、隠し味のマンゴーチャツネによって甘みの中にスパイシーさを感じるバランスのよい味わいに。スープカレーを味わったあとは、本格派のスイーツメニューも堪能してみよう。
『202カリー堂』詳細
フォトジェニックでディープな世界観『バッキンガム宮殿』
下北沢駅から茶沢通り沿いを3分ほど歩いた場所にある鈴なり横丁にたたずむカレーショップ兼バー。昼はカレー、夜はバーに様変わりする。宮殿をイメージしたフォトジェニックな空間で、名物の宮殿カリーが味わえる。約5種類のスパイスを使ったバターチキンカレーをベースに、シナモンが効いた爽やかな味わいの宮殿カリーは、幅広い人が食べられる優しい辛さもうれしい。
『バッキンガム宮殿』詳細
実は激戦区! カレーの街・下北沢を探検する
ここ10数年で専門店が急増し、フェスまで開かれるようになった下北沢。「カレーの街」としての歴史は浅いが、数々の新規オープン、淘汰を経て、下北沢らしさが確立されるのはまさに今!
今のようなカレー激戦区になるもっと前から、下北沢には人々に愛される名店があった。1990年創業の欧風カレー『茄子おやじ』に「通い始めてもう20年以上になります」とは、下北沢を拠点に活動するミュージシャンで、2020年4月に『カレーの店・八月』もオープンした曽我部恵一さん。また、2003年に札幌からスープカレーの『マジックスパイス』が出店すると、続いて専門店が複数進出し、“リトル札幌”状態に。そう、店の数は今ほど多くなかった当時から「せっかく下北沢に来たのだからカレーを食べよう」という流れは確かにあった。
下北沢が「カレーの街」として広く知られるようになったのは、ここ10年ほど。きっかけは、2011年11月3日に開かれた「下北沢カレー王座決定戦」だろう。それが前身となり、翌年から「下北沢カレーフェスティバル」がスタート。毎年10月のイベント時には、カフェや居酒屋などでもフェス限定カレーを出すなど、ずいぶん盛況だ。
徒歩圏内に独自路線の多様なカレーが混在
カレーの街・下北沢としての特長は、さまざまなジャンルを食べられること。前述のスープカレーや、また『Anjali Curry Spice Foods』のようにインドをベースにしながら完コピはせず、独自路線を確立した店が点在。さらに17年には、大阪が本店の『旧ヤム邸 シモキタ荘』がスパイスカレーブームを持ち込んだ。カレーが人気メニューになったカフェも増え、専門店以外で好みの味が見つかることも多い。
一方で、2020年オープンした新顔が話題。『Curry Spice Gelateria KALPASI』は、カレーはもちろん、スパイスを駆使したジェラートを目当てに訪れる人も多い。『カレーの店・八月』は、派手さはないが食べると納得。「音楽と一緒で、作る人によってまったく違う。そういうところも含めてカレーの魅力」と曽我部さんが語る通り、カレーは本当に懐が広い。それを実感できる街が下北沢なのだ。
取材・文=信藤舞子・稲垣恵美 撮影=本野克佳、稲垣恵美、久保田隆元、渡邉 彰太