落語に競馬、ストリップ……趣味が渋滞する店
地下鉄稲荷町駅からすぐ、店構えは一見普通の居酒屋風。でも店内に一歩入ると、そこらじゅうに貼られた落語のポスターに驚かされる。小上がりの壁にも独特の筆文字で書かれた落語家の名前。店主の福永一郎さんは無類の落語好きで、開業にあたって上野の『鈴本演芸場』と『浅草演芸ホール』が近いこの場所を選んだ。小上がりは高座になっていて、ここで落語会も開いている。
「生まれは埼玉なので浅草にはゆかりはないんですが、30代の頃、親父と見にいった寄席が面白くてね、店を出すならここでやりたいと思いました。落語ファンは全国にいて、わざわざ落語を聞くために都内の寄席に来るんです。今では全国、いろいろなところに友達ができました。開業したのは2012年なので、もう12年目になります」と福永さんは笑う。
店内には『浅草ロック座』の踊り子さんたちの名前が入った手ぬぐいが飾られていた。『浅草ロック座』は昭和30年頃に最盛期を迎えた歓楽街・浅草六区に誕生したストリップ劇場。現存するストリップ劇場としては最古参にして最大手だ。
取材時に福永さんが着ていたTシャツも、『ロック座』のストリッパーALLIY(アリー)さんのデビュー10周年記念Tシャツとのこと。踊り子さんのファンが有志で作ったグッズだそう。「2024年9月で11周年です。おめでとうございます」と福永さん。
スープまで飲み干せるあっさり坦々麺
さて、ランチの一押しは坦々麺。ゴマをペースト状にするところから手作りしているので、ゴマの風味とコクが格別だ。スパイスが効いているものの辛すぎず、油も多すぎないのでスープまで飲み干せる。程よい酸味も感じられるあっさり味の坦々麺。麺は柔らかめの細麺。ラーメン店の坦々麺というよりは本格中華の一品だ。
麺がなくなったらライス(ランチは無料でサービス)を追加して、スープや肉と一緒に食べてもおいしい。
実は『四川飯店』出身。中華の味は本格派
実は福永さんは中華の鉄人・陳建一氏の直営店で腕を振るっていた中華の料理人。麻婆豆腐は、陳建一氏直伝の一品だ。四川の調味料にこだわり、豆板醤の風味とラー油の辛さが効いている爽やかな後味。激辛ではないので食べやすい。痺れる辛さや香りを追加したい時は、テーブル上の調味料、花山椒や青山椒をかけてみるのもおすすめ。
信条は「基本には忠実に、アレンジは大胆に。丁寧に作る」。スタッフと一緒になって作りあげる料理は、新しいメニューが登場することもあるそう。
現在(2024年9月)は、ランチ時のスタッフが不足しているので、日によって営業時間やランチメニューの変更があるとのこと。公式X(旧Twitter)を確認してから訪ねたい。
取材・⽂・撮影=新井鏡子 構成=アド・グリーン