予算1000円!旅とは
我が家の電子レンジが壊れたことにはじまる。旅行に行けるその日まで残そうと決めていたお金が最新家電になってしまった。そのショックと出かけられないストレスが沼の化身になって現れて、私を飲み込む。節約と旅を両立できる場所を求めて、行き着いた先がアンテナショップだった。
ここでアンテナショップを巡る1000円旅、略して「せんたび」のルールを説明したい。
・予算1000円
・予算内ならなにを買ってもOK
・オーバーしたら、自腹
1000円ポッキリでご当地を堪能する品を買う。これだけだ。
入口の布陣に気合いがにじみ出る。秋田県のアンテナショップ「あきた美彩館」
品川駅から徒歩3分の場所にある、秋田県のアンテナショップ『あきた美彩館』。食品や工芸品を1000品以上取り扱う物販スペースに加えて、きりたんぽや稲庭うどんなどの地元グルメと地酒が味わえるレストランも併設している。
店内をアテンドしてくれたのは、『あきた美彩館』マネージャーの尾形さん。秋田県の県南出身で、方言バリバリで話してくれた。
尾形さん:「秋田県は冬だけでなく、春はじゅんさいなどの山菜、夏はつるりと涼やかな稲庭うどん、秋は新米に、とんぶりやせり。どの季節も美味しいものがたくさんあります!」
尾形さん:「冬には欠かせないものですが、いつ食べても美味しいので、併設のレストランでは季節問わずお出ししています。比内地鶏の旨味たっぷりの出汁に、きりたんぽと、せりと鶏肉。これがスタンダードなスタイルです」
尾形さん:「スープもそれぞれ個性があり、どれもおすすめなのですが、当店のレストランでは元祖秋田屋のスープを使用しています。県内でもこうした出汁の素を使う家庭も少なくないですよ」
尾形さん:「いぶりがっこも人気ですね。県内でも内陸南部地方に伝わるお漬物で、秋に取れた大根を囲炉裏の横に吊るして、燻しながら干していたのがはじまり。最近は、タルタルソースや辛味噌、チーズディップなどの加工品も登場しています」
いぶりがっこの加工品は酒に合うに決まっている。あぁ、やっぱり米がうまい東北地方は、日本酒に合うおつまみが多いのだ。すでにゴクリと喉が鳴る。
尾形さん:「稲庭うどんはお歳暮やお中元などに買われる方も多いです。自宅用なら、フシの部分のかんざしが入ったお頭うどんもいいですよ。」
きりたんぽ、いぶりがっこ、稲庭うどん!入口はいってすぐのところに、三大秋田グルメで作る最強の布陣。アンテナショップの本気がにじみ出ている。この3つはノールックでカゴに入れていきたいところだが、グッと我慢して店内を回る。
尾形さん:「秋田の食文化には発酵が欠かせません。いぶりがっこのほかにも、大根漬、きゅうり漬、山菜漬などの漬物もたくさんあります。冬の時期は大根をナタで切って甘酒にい漬け込んだ大根のナタ漬け、お盆やお正月などのお祝いごとのときに食べる花ずしなど季節の移り変わりで登場する発酵食品もあります」
尾形さん:「発酵食品の中でも、麹は秋田県に欠かせないものです。代表的な食品だと、ハタハタ寿司。秋から冬が旬のハタハタを米と麹と昆布などと一緒に漬け込みます。ハタハタは、魚醤のしょっつるの原料でもありますね。」
尾形さん:「味どうらくの里は、県民のふるさとの味です。東京ではあまり売っていないので、まとめ買いされる方も少なくありません。めんつゆとは少し違って、甘みもあって、何が違うんでしょうねぇ。とにかく、これじゃなきゃダメっていう人もいるんですよ。」
尾形さん:「隠れた人気商品は、豆腐かすてら。豆腐に卵やお砂糖を加えて、カステラのように仕上げたもので、秋田県のおせちには欠かせません。甘くてしっとりしていて、伊達巻に近い感覚かもしれません。昔はプレーン味しかありませんでしたが、最近はアレンジしたものも登場しています。」
尾形さん:「秋田県は米どころですから、日本酒も外せません。季節限定商品も取り扱っていて、外出自粛で家飲みする方々にも人気です。以前は、酒蔵の方を招いて試飲イベントなどもおこなっていたんですよ。」
尾形さんの熱量にこちらもメラメラしてくる。あれも、これも買って帰りたい〜!というわけで、たっぷり買い込んでしまった。
さて、今回の1000円セットは……?
私の秋田県1000円セット
・きりたんぽ 360円
・元祖秋田屋 比内地鶏スープ 230円
・雪の茅舎 純米吟醸 462円
3点で1052円。お察しの通り、きりたんぽで日本酒をやろうと思っている。王道すぎるかと思って迷ったんだけど、無視できなかったのだ。
土鍋のふたを開けると暖かい湯気がゆらいで、やっぱりこれっきゃないと思う。むっちりしたきりたんぽに、鳥の旨味が詰まった出汁がしみていて、ちょっと感動。家でもきりたんぽって楽しめるとは、考えたことがなかった。爽やかな日本酒で追いかけると、すっと口が澄み渡る。鶏つくねを入れたのは正解……などとニヤついていたら、あっという間に食べきってしまった。
1000円セットから漏れた、はみ出し購入品!
これで終わるのは勿体無いので、追加で買ってきたものをつまみに日本酒を再開することに。まずは納豆を開封!
桧山納豆は、民謡の秋田音頭にも出てくる名産品。
♪秋田名物 八森はたはた 男鹿で男鹿ブリコ
能代春慶 檜山納豆 大館曲げワッパ♪
藁づとに包まれて、納豆が顔を出す。尾形さんは「県民はなんでも甘するクセがあって、納豆に砂糖を入れる人もいます。かくいう私もそのひとり。東京に来てしばらく経ちますが、辞められないんです。」と言っていたが、砂糖を入れる勇気が私にはまだない。とんぶりでご勘弁願おう。
こっくり濃厚な豆の味わい。存在感たっぷりの納豆にプチプチ食感をプラスすれば、もう立派なおつまみだ。今回購入したとんぶりは、生とんぶり。秋から春にかけてが収穫期で、生で食べられるのは旬の時だけ。森のキャビアは日本酒にもよくあう。
合わせて、山菜のみずのお浸しとナスの花ずしもいただく。みずは都内では見かけないレアな山菜で、とれたてで調理しないとアクが出てしまうので、水煮で出回っていることに大興奮。さっと湯通しして、シャクっとした食感が心地いい。ナスの花ずしは、ナスに菊の花ともち米を合わせて砂糖と漬け込んだもの。ナスのサクッとした実が、たっぷり甘〜い汁を吸っている。
方言の飛び交うアンテナショップはずるい
案内してくれた尾形さんは、私が山菜のみずが好きだと伝えるととても喜んでくれ、外出自粛の話をしたら「なかなか秋田県に帰れなくて」と悲しみ、なんだかホッとするお方だった。お客様に秋田弁で話しかけることも多いと言う。
関西出身者でも思わずほっこりしてしまうくらいだから、きっと県出身者はなおさらだろう。秋田グルメにはもちろんだが、また秋田県を愛するスタッフの皆さんに会いに行きたい。
取材・文・撮影=福井 晶