変わらぬ味とスタッフが迎えてくれる錦糸町のふるさと『豆』
「開業してから31年になりますが内装もほとんど変えず、厨房スタッフも同じメンバーなんですよ」
自分の店を持つことを夢見ていた石川氏は、バブル崩壊後の錦糸町で『豆』をオープンする。マメな人物だったという妻の祖母から着想を得てつけた店名だ。日本経済の先行きが不透明な状況での飲食店のオープンに、誰しもが眉をひそめた。しかし、幾多の世界的経済危機をも乗り越えて、今なお『豆』は錦糸町で愛されている。
良い素材を使うこと。レトルトは使わないこと。シンプルなこだわりが生む最高の“おいしい”
メニューに並ぶのはまさに飲むための料理。お腹を空かせたビジネスパーソンが、十分に満たされるボリュームだ。タレが肉にほどよく絡む和牛のたたき800円は、箸が止まらない。モッツァレラチーズとツナ、ポテトが口の中でとろけるばくだんコロッケ680円は食べ応え抜群。ウニトマトクリームスパゲッティ800円は、ガーリックと鷹の爪が品よく香る。しめに人気の自家製プリン400円は、主張しすぎない甘さが胃袋を包み込んでくれる。
『豆』の料理は手作りにこだわっている。出来合いのものはできるだけ使わずソースも毎日仕込んでいるという。どの料理を選んでも笑顔がこぼれる。『豆』が1992年から錦糸町で支持され続ける理由の一端が見えた気がした。
おいしい料理はうまい酒と
店内を見渡すと、壁にずらりと並ぶ一升瓶が目に入る。日本酒かと思いきや、梅酒も多い。『豆』では料理に合わせて日本酒や焼酎、ワインなど多彩なお酒を提供しているが、特筆すべきは梅酒だ。紀州緑茶梅酒450円や越乃景虎をベースにした景虎梅酒600円など、他では見かけないものが集っている。とろとろ梅酒600円は、その名の通りとろっと舌に馴染む。そして名前とは裏腹に肉料理と合わせると、あっという間に飲み干してしまうほど爽やかだ。
各テーブルに備えられた揚げパスタはお酒のインターバルにぴったり。気づけば1本、また1本と手が伸びる。『豆』の優しさを感じるのがお通しの寿司だ。すきっ腹で店にたどり着いたら、まずは寿司で小腹を満たし、落ち着いた気持ちで料理を選べる。取材時のお通しはマグロとカンパチの漬け。マグロは中トロですか?と聞きたくなるほどに柔らかい。
錦糸町で心を満たしたいときは『豆』がいい
1992年から変わらぬメンバーでお客を迎えてくれる錦糸町の心のふるさと『豆』。穏やかな心地よい空間で、笑顔が溢れる至福の料理とうまい酒を食べたいときは『豆』に行こう。
取材・文・撮影=かつの こゆき