【伝統の旨さを楽しむ】
ここで大人の世界に仲間入り!?『ランチョン』
「学生さんは、ゼミの先生に連れられて来ることが多かったかな」とは、4代目の店長・鈴木寛さん。私もその一人だ。頻繁に通ったわけではないのに記憶に残っているのは、安くて量が多いことが最優先だった普段の店との違いが新鮮だったからだろう。10年以上ぶりに食べたオムライスは、トロトロのオムレツとトマトソースには深みがあり、やっぱり大人の味。今度は常連を見習って、古本屋街を散策した後にビール一杯なんて使い方もしてみたい。
『ランチョン』店舗詳細
昭和の名士も堪能したふわっとサクッとおいしい天丼『神田 天麩羅 はちまき』
昭和6年(1931)創業の神保町の老舗『神田 天麩羅 はちまき』は、江戸川乱歩をはじめ昭和の時代を彩った著名人たちがこよなく愛した店。にもかかわらず、天丼800円、天麩羅定食1000円と、かなりお値打ちなのには驚かされる。無論、とっても旨い。
その味にハマって通い続ける常連客が多いなか、一流の味を手頃な価格でいただけて、ご飯が大盛り無料とあって、学生の人気も高まってきている。
天丼にはエビ2本、キス、イカのほかに野菜が2~3品。看板メニューの穴子海老天丼1500円には、丼からはみ出るほど大きなアナゴの天ぷらがドーン! とのっていて圧巻。カラッと揚がった衣に包まれた魚介類はふわっふわで、野菜はシャキッとしていたり、ほくほくしていたり。衣がサクッと軽く、タレはさらっとしているので、延々食べ続けられそうだ。ご飯はコシヒカリに厳選し、大きな釜でふっくら炊き上げている。
おいしい天ぷらにおいしいご飯、しかもリーズナブル。パーフェクトです!
『神田 天麩羅 はちまき』店舗詳細
伝統と革新が同居する喫茶店『カフェ・トロワバグ』
神保町駅から目と鼻の先にある雑居ビルの地下で営業を行う『カフェ・トロワバグ』。シックで大人な雰囲気漂うこの店の内装は、原宿の喫茶店『アンセーニュ ダングル』などを手掛けた建築デザイナー・松樹新平さんによるデザインだ。1976年の創業当時のままを保った内装と同様、『コクテール堂』のオールドビーンズをネルドリップで一杯ずつ淹れていくコーヒーも、創業時から守り続けているものの一つである。
変わらないものがある一方、時代の変化に柔軟に対応してアップデートを加えているものもある。隣で営業するたい焼き店のあんこを使った小倉バタートーストを考案したり、創業当時から人気のグラタントーストをハーフサイズにして、付け合わせのトロワバグサラダの量を増やした新メニューを開発するなど、店主の三輪徳子さんはフードメニューの改良や追加に余念がない。そんな趣向を凝らしたフードメニューを目当てに、ランチタイムには近隣のビジネスマンや大学生など老若男女で賑わうのだ。
『カフェ・トロワバグ』店舗詳細
酒を恋う、江戸前うなぎ『うなぎ かねいち』
書店帰りの一人客が白焼きをつまみ日本酒でくつろぐ1階、近隣会社の宴会でにぎわう2階座敷。神保町にのれんを出して丸40年、なじみ客が多い、敷居の低いうなぎ屋だ。現在は、鈴木貴之さんと久志さん兄弟が、父親の味、江戸前うなぎを受け継ぐ。さばいて白焼き、後に蒸し、タレをつけ焼く国産のウナギ。その脂の風味を淡白なタレが引き立てる。夜は、酒がすすむ日替わり料理があれこれ。うなぎ屋で、粋に飲めてこそ、おとなかな。
『うなぎ かねいち』店舗詳細
【がっつり学生飯&繊細な味の定食が旨い】
特濃ボリュームのデンジャラスマッチ『ボーイズカレー』
創業37年。近頃では神保町と言えばカレーでしょ、ということになっているけれど、ここはそのはるか前から変わらぬ味で学生やサラリーマンの腹を満たし続けてきた。しょうが焼きも開店当初からの人気メニュー。ピークタイムには1時間に100 人ものお客さんをさばくため、調理はスピードが命だ。ゆえに肉にも強火でガッと火を入れて、フライパンの中からもファイヤー! 厚めのロースが2 枚と、ボリューム感も抜群だ。
『ボーイズカレー』店舗詳細
60年以上愛され続けるジューシーなメンチカツ『キッチン グラン』
神保町交差点から白山通りを水道橋方面に進んで行くと1960年に創業した『キッチン グラン』がある。「1960年代、この辺りは木下3兄弟が有名でね、路地の入り口にある『キッチン グラン』を長男、その隣にあったラーメン屋の「さぶちゃん」が三男、さらに路地を少し奥に入ったところに次男がやってた定食屋の「近江や」って店があったの。でも2店舗は閉店しちゃって、残っているのはこの店だけ。オレは2代目じゃなくて、雇われマスターなんだけどね(笑)」とマスターが笑う。
『キッチン グラン』のメニューは創業からほとんど変わっていない。いただいたのはメンチカツ830円でご飯、味噌汁付き。豚6:牛4の合い挽き肉と粗みじんの玉ねぎのタネに衣をつけ、ラード100%で揚げている。自家製のデミグラスソースがかかったメンチカツを目の前に驚いた。で、でかい! それを従える山盛りキャベツがフォトジェニック。その横でナポリタンも負けじとポーズを決めている。肉汁たっぷりのメンチカツはどんどん箸が進む。
『キッチン グラン』店舗詳細
滑らかな赤身のまぐろ定食『季節料理 はせ部』
1924年創業の『季節料理 はせ部』。新鮮な魚料理をはじめとした旬の素材を使ったメニューが楽しめる。
店内に入ると、壁にメニューの札が並んでいる。定食は魚料理を中心に10品で、795円と895円しかない。「祖父の代から付き合いのある豊洲の仲買さんから仕入れているから、魚はうまいですよ」と3代目店主。
まぐろ刺身定食795円を注文すると、この日は長崎で水揚げされた本マグロだった。いいですか、みなさん。本マグロの刺身が5切れついてこの値段ですからね。ご飯は祖父の代からお付き合いのある茨城・河内村「たぬま」で仕入れるコシヒカリ。生わかめがたっぷり入ったお味噌汁に、切り干し大根煮と漬物がつく。
赤身の方を食べたら、ババロアのように滑らかですっと溶けるおいしさ。注文前の“795円だもんなあ……”って筆者の心の声が一瞬でミュートする。ちょっと疑っていました! このクオリティはすごい。
『季節料理 はせ部』店舗詳細
とろみがついた、あんかけ風の中華カレー『北京亭』
大学をはじめ、多くの学校が林立する白山通り沿いに50年以上続く中華料理店。先代の頃からの人気がカレーライス840円。中華鍋で炒めた鶏ガラに中華スープ、油通ししたニンジン、タマネギ、豚肉、少量の唐辛子と豆板醤などの調味料とカレー粉を入れて軽く煮込む。最後に片栗粉でとろみをつければ完成だ。タマネギのシャキシャキ感と、鶏ガラスープのコクとピリリと残る辛さが絶妙で、どんどんスプーンが進む。
『北京亭』店舗詳細
カラッと揚げたてほっくりアジフライ定食『居酒屋なごみ』
2014年7月、“仕事帰りに同僚と気軽に飲める店”というコンセプトのもと『居酒屋なごみ』がオープン。ほどなくしてランチもスタートした。「旬の素材を使って、できるだけ手作りに努めています。つい茶色っぽいものになりがちなので、栄養バランスにも気をつけています(笑)」と店主。
メニューは変則的だが常時5品あり、この日のメニューは鶏のから揚げ、アジフライ、サバの塩焼き、豚のネギ塩焼き、ミックスフライ(カキフライ、エビフライ、白身フライ)があり、それぞれ850円。ご飯に味噌汁、日替わりの小鉢、サラダ、漬物が付く。これだけ充実してこのお値段。
注文したのはアジフライの定食850円。揚げ物は揚げたてがおいしいから、と作り置きしないのがうれしい。最初からちょっとアジフライの端に付いていたタルタルでひとかじり。シャクッと音を立てた衣のなかにはホクホクのアジ。卓上の醤油やソースでももちろんおいしい!
『居酒屋なごみ』店舗詳細
カロリー焼きで栄養と元気をチャージ『キッチンカロリー』
「ガッツリ食べるぞ!」と、気合を入れて訪れた店。名物は、初代が考案したカロリー焼きだ。ガーリック醤油で炒めたカルビと、パスタやタマネギを一緒に食べると、見た目のボリュームが噓のように完食。「就職を報告に来てくれた学生さんもいるよ」と笑う2代目の江本篤哉さんを慕う客も多く、スポーツ界で活躍している先輩方が今も食べに来るとか。現在は、3代目として息子の雄哉さんも共に厨房に立つ。我らのカロリーはこの先も安泰だ。
『キッチンカロリー』店舗詳細
【ラーメン、うどん。神保町は麺の街なのだ】
復活したもりそばとカレーライスに感涙!『お茶の水、大勝軒』
2020年に閉店した『お茶の水、大勝軒』が2024年7月にリニューアルオープン。以前はビルの2階の店舗だったが路面店という形での新オープンとなり、ランチ激戦区の神保町で注目の存在となっている。
店主は、つけ麺文化を世に広めた「旧東池袋大勝軒」山岸一雄さんの弟子、田内川真介さん。行列店として知られた旧東池袋大勝軒の味を引き継ぐ名物の特製もりそばは、自家製麺を風味豊かなつけダレといただく必食の一品だ。つるっとした麺は食べやすく、ランチにいただくのにもぴったり。食べたことがないという人は、ぜひチェックしてほしい。
田内川さんは、かつて旧東池袋大勝軒で提供されていた昭和の町中華メニューも復刻しており、カレーライスやチャーハンなどが楽しめるのもこの店のスゴいところ!いずれも山岸さんのDNAを継承した絶品で、それぞれの料理にファンを抱える。『大勝軒』がもりそばの名店として知られているだけに、これらの復刻メニューにチャレンジできていない人もまだ多いはず。ぜひ、リニューアルした店で古き良き、町中華の味も堪能してほしい。師匠の味を引き継ぎ、さらに広めたいという田内川さんの熱い思いも一緒に味わえるはずだ。
『お茶の水、大勝軒』店舗詳細
シンプルながら温かみのあるこれぞ町中華!『中華 成光』
専大交差点からさくら通りに向かうと、すぐ目に入る真っ赤な幌に『中華 成光』と書かれた看板が見える。昔懐かしい“中華そば”ののれんも町中華らしい風情がある。
店内に入るなり、ドドーンと目に入ってくる壁一面に掲示されたメニュー。町中華というと店内にも少し年季が入った雰囲気があるが、こちらはとても手入れが行き届いている。現店主で3代目の花田高広さんによれば、祖父が1955年ごろお菓子の量り売りをしていて、途中からラーメンの販売も始めたそう。
看板メニューは半チャンラーメン860円。ラードで炒めたチャーハンはパラパラだが米は一粒ずつふっくらとしている。初代から変わらない味のラーメンは、鶏ガラ、トンコツ、厚切りのカツオ節や昆布、野菜類で作った醤油スープには中太のストレート麺がよく絡む。醤油で煮た豚肩ロースのチャーシューは、柔らかくて脂と赤身のバランスが良く食欲をそそる。
『中華 成光』店舗詳細
出汁の香り咲く一杯のうどんが酔客をとりこに『ささ吟』
フレンチの修業歴9年という異色の経歴をもつ店主・吉家(きっか)桂三さん。だが、「東京のうどんはほぼ食べ歩きました」と"うどん愛"は強く、その中でも自分が好きな関西風うどん居酒屋を3年半前に開店。茹でても小麦の香りが逃げない道産小麦を使った自家製麺は、もちもちクニュクニュの食感で舌を喜ばせる。昆布出汁と、やや酸味があってフワッと立ち上る鰹カツオ出汁のやさしい味わいは、酒の締めに抜群。
『ささ吟』店舗詳細
富士山をイメージした元祖・冷やし中華『揚子江菜館』
明治39年(1906)創業の老舗店。冷やし中華の元祖ともいえる五目冷やし1540円は、昭和8年(1933)に二代目が考案。高く積んだ麺に、糸寒天やチャーシュー、キュウリなどを周りに盛り付け、富士山の四季をイメージしている。ほかにもシイタケやエビ、錦糸玉子におおわれた中にある肉だんごなど、具材が多彩だ。やや甘めで酸味があるタレで細麺と具材に一体感を与える。
『揚子江菜館』店舗詳細
讃岐うどんの名店の15周麺を知っていたか?『うどん 丸香』
15周年を迎えた年に、15周麺と銘打ち、麺を大きく改良した。「もちもちとキレ、やわらかさとハリ、洗練と田舎麺――。相反するものを両立したくて。全体的にはより温かいかけうどんに合う味と香りの麺になったと思う」と店主・谷口春紀さん。やや細身の麺を啜すすればむっちりと押し返すのびやかな麺が舌に愉悦をもたらし、爽やかな小麦の香りと伊吹イリコの出汁が余韻を残す。毎日食べたい王道の一杯なのだ。
『うどん 丸香』店舗詳細
心落ち着く手打ち十割そばと和風キーマカレー。そば屋『まれびと』
地下鉄・神保町駅を降りて、白山通り側からすずらん通りに入って徒歩2分ほど。地下1階にあるそば屋『まれびと』は、店主が打つ十割そばが評判の店。元々は日本茶を供する茶屋兼ギャラリーだったが、お客さんの要望もあって、今やそばや天ぷらを中心に和食を出す店となった。
上質なインテリアと民芸品が品よく飾られた店内は、半分が美術館のカフェのようなシックな空間で、もう半分が4畳半ほどの小上がりの和モダンな空間となっている。
三種のそば粉を独自に配合した十割そばは、店主が日夜研鑽を積んで改良し続けている。店自慢のそば屋のキーマカレーは630円(大盛りは無料)で、十割そばとのセットは1180円。十割そばと揚げたてとり天のセットは1280円。どれもボリューム満点で、丁寧に淹れてくれる日本茶付きなのがうれしい。
おいしい手打ちそばと出汁を効かせた和風キーマカレーをいただきながら、心落ち着く和の空間で贅沢なひと時を味わえるだろう。
『まれびと』店舗詳細
【イタリアン、メキシコ料理も旨い】
おいしさがどんどん変わる絶品冷製パスタ『マキアヴェリの食卓』
神保町駅から徒歩1分の駅近にある老舗イタリアン『マキアヴェリの食卓』は、家族経営ならではのアットホームで居心地のいい空間。ランチでは、料理長のこだわりメニューが大人気だ。
なかでも冷製クリームパスタがリピーター続出。えびとオクラの冷製スパゲティ~そら豆のポタージュソース1380円は、パスタの上下に酸味のあるソースと甘みのあるポタージュソースの2種類のソースが使用されていて、食べながら味が混ざっていく楽しさを味わえる。
ランチでは鴨肉のミートソース1100円も人気のメニューだ。また、鶏ガラや牛肉ブロック、さまざまな香味野菜から30時間かけて抽出したという自家製コンソメスープ990円も一度は試してみてほしいおすすめの一品。お茶の感覚でいただけるので、食後のコーヒーの代わりに頼んでみるのもいいだろう。
『マキアヴェリの食卓』店舗詳細
手が止まらなくなる危険な”軽さ”のピザ『pizzeria zio pippo』
膨らんだ縁の焦げの香ばしさを、一刻も早く口の中に封じ込めるべし。ピッツァは、1枚240gの生地を使うビッグサイズ。店主曰く、「空気をたっぷり含ませて生地を練り、軽い食感に仕上げます」。この軽さが、あれよあれよと完食へ導いてくれる。夜は、粗挽き豚肉のサルシッチャなどの一品料理とワイン、〆にピッツァだ。さらに、別腹用のデザートピッツァも魅惑的。軽さは、ある意味危険かも。
『pizzeria zio pippo』店舗詳細
American bar『Pine』のランチは曜日ごとにメニューが替わるTEXMEX料理
幼少の頃から母の影響でアメリカの音楽や映画に囲まれて育った店主が2003年4月にオープンした『Pine』。「西海岸の田舎の陽気ないい雰囲気をこの店で表現したかった」と店主は語る。
オープン以来ランチはハンバーグだけだったが、2022年4月から曜日ごとにメニューを変えるスタイルに変更。月曜日はハンバーグ1100円~、火曜日はメンチカツ、水曜日はケイジャンチキンホットシチュー、木曜日はポークスペアリブが各1000円、金曜日はキューバサンド ショート1000円・ロング1500円だ。
オーダーしたキューバサンドを大口でかぶりつくと、パリッとしたバゲットにはたっぷりバターが染み込み、中はふんわり。スパイスが利いたスペアリブとマヨソース、チーズ、ピクルス、ハムなど個性が強い具材が入っているはずなのに、あら不思議! まあおいしい! それらが一体となって、何者にも形容しにくいがスパイシーでありながらまろやかで、肉の旨味とピクルスの旨味が一体になった、これぞ『キューバサンド』な味わい。手がバターでベタベタになるけど、まったくしつこくない。
『Pine』店舗詳細
取材・文=半澤則吉、かつとんたろう、佐藤さゆり、松井一恵(teamまめ)、鈴木健太、井島加恵、速志 淳、柿崎真英、丸山美紀(アート・サプライ)、パンチ広沢、コバヤシヒロミ、羽牟克郎 撮影=半澤則吉、小野広幸、オカダタカオ、須田卓馬、丸毛 透、yOU(河崎夕子)、関 尚道、鈴木俊介、高野尚人、加藤昌人、井上洋平、柿崎真英、丸山美紀(アート・サプライ)、パンチ広沢、コバヤシヒロミ、羽牟克郎