若干21歳の少年が単身、憧れのアメリカへ。旅先で体験した陽気で気さくな雰囲気を再現。

神保町の裏路地にある『Pine』。多種多様な居酒屋やアウトドアショップが立ち並び、てくてく散歩するだけでも楽しいこのエリア。突如現れる、和風な建物のようでやけにアメリカ〜ンな個性を放っている。

思わず二度見する個性的な外観。夜は『Pine』のネオンサインが灯る。
思わず二度見する個性的な外観。夜は『Pine』のネオンサインが灯る。

ここで合っているのかな? と不安になりスマホを見ていたら店主の宮島圭亮さんがドアを開けてくれた。「どうぞ、どうぞ!」。爽やかな笑顔で軽やかな語り口の宮島さんは、アメ車が似合いそうなお兄さんだ。

幼少期から母の影響でエルビス・プレスリーやチャック・ベリーなどのロックや映画に囲まれて育ったという宮島さん。
幼少期から母の影響でエルビス・プレスリーやチャック・ベリーなどのロックや映画に囲まれて育ったという宮島さん。

宮島さんは自分の店を持つまでさまざまな冒険と試練を乗り越え、2003年4月に『Pine』をオープンした。

18歳で就職、工事現場で働き3年経った頃、昔から好きだったアメリカに行ったことで宮島さんの人生が180度変わる。

「母がアメリカの音楽や映画が好きで家の中に当たり前にあり、自然と影響を受けていました。21歳のとき、ふと現場の親方に『ちょっとアメリカに行ってきまーす!』って2週間、ひとりでL.A.とラスベガスに行ったんですよ。アメリカの広さに感動しましたね〜。英語は全然しゃべれなかったけど、単語とジェスチャーでどうにかなりました。たぶんそれまで不自由がない人生で、困ってみたかったんだと思います(笑)」。

雑多なようで宮島さんにとってはひとつひとつに思い入れがあるグッズたち。尋ねると、いろんなエピソードを聞かせてくれる。
雑多なようで宮島さんにとってはひとつひとつに思い入れがあるグッズたち。尋ねると、いろんなエピソードを聞かせてくれる。

アメリカでの滞在が相当楽しかったのだろう。2年後、23歳のときに再び渡米した。「旅行会社のカウンターに行って『アメリカでできるだけ多くの都市に行ってみたいんですけど」って聞いたら、観光ビザでは3カ月が限度だと。さすがにそんなに仕事を休めないから親方に『会社辞めます』って言って(笑)。今度は彼女を連れて行きました』。

MLBの本拠地を記したアメリカの地図。「人口が多いところに野球チームがあるんですよねー」と宮島さん。
MLBの本拠地を記したアメリカの地図。「人口が多いところに野球チームがあるんですよねー」と宮島さん。

できるだけアメリカの風景を見たいから飛行機は使わずに、電車とバス、ときには自分で車を運転していくつもの州を渡り歩いたという。

「アメリカは都会もいいけど、自然もいっぱいで。今もあのとき見たいろんなアメリカの風景が蘇ります。ある田舎道で1軒のステーキ店に入ったんですよ。そこのステーキがマジでウマくて。『日本に帰ったらコレやりたい!』って思っちゃって……」。

帰国後すぐ、自由が丘にあるステーキ店に履歴書を持って行き、厨房で働くことになった。宮島さんは、それまで飲食の仕事は未経験だったが「自分が焼いたステーキをおいしそうに食べるお客さんを見て超ウケた!」と約2年間勤務。アメリカに一緒に行った彼女と結婚し28歳で『Pine』をオープンした。店内に大好きなアメリカンビンテージをたくさん詰め込んだ、宝箱のような店になった。

車のバンパーや州ごとのナンバープレート、ブリキの看板なども。床板を張ったり、棚やカウンターは宮島さんの手作り。
車のバンパーや州ごとのナンバープレート、ブリキの看板なども。床板を張ったり、棚やカウンターは宮島さんの手作り。

キューバ生まれ、アメリカでもポピュラー。金曜日だけ食べられるランチ、キューバサンド

オープン以来『Pine』のランチはハンバーグだけだったが、2022年4月から曜日ごとにメニューを変えるスタイルに変更。月曜日はハンバーグ1100円〜、火曜日はメンチカツ1000円、水曜日はケイジャンチキンホットシチュー1000円、木曜日はポークスペアリブ1000円、金曜日はキューバサンド ショート1000円・ロング1500円だ。

取材日が金曜だったので、キューバサンドのショート1000円を注文した。キューバサンド……。どんなサンドイッチなのだろうか。

「キューバ移民がアメリカに持ち込んだといわれていて、アメリカでもよく食べられています。うまいですよ!」と宮島さんが微笑む。じゃあ、ひとつお願いします。初体験のキューバサンドがどんな料理なのか、厨房に入れさせていただいた。

フライパンにたっぷりバターを入れバゲットをこんがり焼く。
フライパンにたっぷりバターを入れバゲットをこんがり焼く。
パンが焼き上がる間に中身の支度。バーベキューソースに漬け込んだスペアリブを焼き、肉だけを細かく刻む。
パンが焼き上がる間に中身の支度。バーベキューソースに漬け込んだスペアリブを焼き、肉だけを細かく刻む。
刻んだ肉にパイナップルや玉ねぎが入ったオリジナルバーベキューソースをたっぷり加えて炒める。
刻んだ肉にパイナップルや玉ねぎが入ったオリジナルバーベキューソースをたっぷり加えて炒める。
こんがり焼いたバゲットに特製マヨソース、トロトロのチーズ、自家製ピクルス、ハム、炒めたスペアリブを乗せ、ブラックペッパーをかけてさらにライムを絞る。
こんがり焼いたバゲットに特製マヨソース、トロトロのチーズ、自家製ピクルス、ハム、炒めたスペアリブを乗せ、ブラックペッパーをかけてさらにライムを絞る。
え、まさか!? サンドしたものをもう一度バターで焼く。押し付けながらこんがり焼くのがポイントだそう。バターのこうばしい香りがたまらない!
え、まさか!? サンドしたものをもう一度バターで焼く。押し付けながらこんがり焼くのがポイントだそう。バターのこうばしい香りがたまらない!

「はーい、お待たせしました〜!」。陽気な宮島さんの声と同時に背筋がピンとなる。ふだんは寝てばかりいるワンコが、ご飯になると急にお利口になる感じだ。それにしても店のどこに置いても絵になるシチュエーションとキューバサンドの絵ヂカラよ。今日は早めにご飯にありつけそうだワン。では、ご覧あれ!

やってきました、キューバサンド! カリカリのポテト、自家製のコールスロー、サラダ、スープ付き。プラス200円でコーラが飲み放題だ。
やってきました、キューバサンド! カリカリのポテト、自家製のコールスロー、サラダ、スープ付き。プラス200円でコーラが飲み放題だ。

大口でかぶりつくと、パリッとしたバゲットにはたっぷりバターが染み込み、中はふんわり。スパイスが利いたスペアリブとマヨソース、チーズ、ピクルス、ハムなど個性が強い具材が入っているはずなのにこの一体感たるや。あら不思議! まあおいしい!

何者にも形容しにくいがスパイシーでありながらまろやかで、肉の旨味とピクルスの旨味が混ざり合った、これぞ『キューバサンドの味わい』としかいえない。手がバターでベタベタになるけど、まったくしつこくないからペロリと完食。キューバサンドにコーラが合うのでぜひオーダーを。飲み放題なのでカロリーを気にせずガンガン行こう。

スペアリブのスパイシーさもありながら、マヨソースやチーズがまろやかに包み込み、ときおりピクルスの酸味が刺激をくれる。
スペアリブのスパイシーさもありながら、マヨソースやチーズがまろやかに包み込み、ときおりピクルスの酸味が刺激をくれる。

プロフィールを気にせず、好きなものやコトについてざっくばらんに話せる場所

取材中、常連のみなさんが集まってきて盛り上がっていた。聞けば、今日初めて会ったという。やりとりをみているうちに、絶妙なタイミングでそれぞれを紹介し話題を振る宮島さんのMC力がすごいんだなあとわかった。それに、温かみのある店の雰囲気も気持ちを和らげてくれるのだろう。

2階はテーブル席で落ち着いた雰囲気だ。
2階はテーブル席で落ち着いた雰囲気だ。

店内については「アメリカに行った時に感じた西海岸の田舎で陽気ないい雰囲気をこの店で表現したかった。ここへ来るお客さんにはビジネスを忘れて欲しいから、バーにありがちな黒や白を使わずにウッディなログハウス調にしたんです」と宮島さんが語る。

その通り、店には20代から60代まで幅広い年齢層が集まり、多趣味で陽気な宮島さんの魅力に誘われ性別や職種、嗜好もさまざまな人が集まる。アメリカ好きな人もいれば、店内に流れる50~70年代のロックや飾られているビンテージ、野球やバイク、車など趣味人がお互いの趣味をシェアしたくてこの店のドアを開ける。

車のバンパーを店内の壁にはめ込んじゃう宮島さんの大胆さにも好感が持てる。
車のバンパーを店内の壁にはめ込んじゃう宮島さんの大胆さにも好感が持てる。

「みんな(いい意味で)ちょっと変わった人たち(笑)。でもね、知らないからって上から講釈を垂れる感じじゃないの。そこは常連さんたちにも感謝しているんだけど、年齢も知識量とかも抜きで、『お、君も好きなの? 話そうよ!』っていう感じで、すごく和気あいあいとしているんですよ」。

「たまに外から店の中を伺っている人がいるんですけど、明るく声をかけても帰ってしまうことがあります(苦笑)。『ちょっと周りには話が合う人がいないんだけど…』なんて方がいたら、ぜひ来ていただきたいですね。うちは誰でもウェルカムなんで!」と宮島さん。

思う存分話したいなら、ランチタイムより夜にお酒を飲みながら楽しもう。ビールやカクハイ、カクテルなど一通り揃うが、特筆すべきはバーボンのオールドボトル。「たとえばOLD CROWの60年代モノ、90年代モノなどオールドボトルもあります」という。

バーボンの瓶がズラリと並ぶカウンター。
バーボンの瓶がズラリと並ぶカウンター。

いい酒を飲みながら、良き友と好きなものについて語らう。かつて神保町には文壇や芸術について夜な夜な語り合う喫茶店やバーがあったというし、令和の世にプロフィールにこだわらずざっくばらんに語れる場所は貴重。1人でふらりと訪れ、誰かの話をうんうんと聞いているだけでもなんだか楽しい、そんな店である。

住所:東京都千代田区神田小川町3-10/営業時間:11:30〜14:00LO・18:00〜24:00(土は18:00〜24:00)/定休日:日・祝/アクセス:地下鉄神保町駅から徒歩3分

構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=パンチ広沢