神田神保町で現存最古のカレー店なら、創業大正13年(1924)の『共栄堂』。初代が教わったスマトラ島のカレーをアレンジして提供した。「当初は御茶ノ水駅そばの洋食屋で、カレーの種類はポークだけでした」と3代目店主。現在地へ移った戦前には『三省堂書店』にあったカレーも人気で、「神保町のカレーなら、共栄堂か三省堂食堂」と言われた。

1975年に『共栄堂』が建物のビル化を機にカレー専門店となった頃、街にはカレー店が台頭。その1つが『ボンディ』だ。

「うちは高島平で始めた『インディラ』という店が前身。古書センターのオーナーから出店を誘われ、78年のビル完成と同時に開店しました。欧風カレーは珍しくて注目されたようです」と神保町本店店長。以後、70〜80年代に『まんてん』、『ガヴィアル』、『マンダラ』、『エチオピア』などの名店が次々開店したのだ。

一方、喫茶店や中華料理店にもこだわりのカレーがあるのが神保町。88年開店の『ギャラリー珈琲店古瀬戸』では約30年前にカレーが登場。「初めは洋風おじやでしたが、全く売れずカレーに変えました」と社長の加藤正博さん。明治39年(1906)創業の『揚子江菜館』では50年前にドライタイプのカレーはあったが人気に欠け数年で休止。今のカレーは4代目店主が試行錯誤の末に考案した。「夏は冷やし中華で忙しいけど、こちらも熱烈ファンがいて」というほど隠れた人気だ。

駅周辺にざっと100店以上! 好奇心くすぐる味わいも多彩に

2011年には「神田カレーグランプリ」も開催。気づけばカレーを出す店は増え、現在、神保町駅の徒歩3分圏内でもざっと100店以上とか。そのジャンルも細分化した。たとえば、昨年開店した『三燈舎』は本場の南インドの料理が味わえる。「若い人だけじゃなく年配の方も、おもしろがって来てくれるのは、街に好奇心の強い方が多いのでしょうね」と店主の堀文子さん。知的好奇心をくすぐる街に根づいたカレー文化。多種多彩な味わいの今後の展開も楽しみだ。

三燈舎

南インド仕込みのシェフが手がける本場の味

平日ランチのミールスは3種類あり。写真は日替わりカレー3つとラッサム、サンバルまで付いたCセット1200円。手前の大きな煎餅みたいなのがドーサだ。

南向きの窓から陽が注ぐ明るい店内で味わえるのは、南インドはケララ州の料理人による本場の料理。昼はミールス(定食)、夜はインドワインやビールとも合う軽食と、1日で異なる楽しみが。日替わりカレーはマトンキーマとポテト、カリフラワーとニンジンなどと多彩なレパートリー。ドーサは米と豆を厨房の石臼で碾いて発酵させて作るというこだわりよう。香ばしくて歯ごたえよくやみつき必至。

店内の椅子はイギリスのアンティークをそろえた。
インドにある建物を模して作った店のアーチに立つのは、右から堀さん、コックのラティーシさんとトーマスさん。

共栄堂

具材に合わせて異なる5つの味わい

黒濃色が特徴のソースに柔らかい角切り肉がたっぷりの、ポ ーク980円(ポタージュスープ付き)。

スマトラカレーと銘打つカレーは、創業時からあるポークカレーを筆頭に5種類。小麦粉は使わず、ラード、牛脂、鶏油の3つの油で20種以上の香辛料をじっくり炒め、形がなくなるまで煮込んだ野菜と合わせる……、とベースは同じでも5種類全て製法も味も変えている。甘み→辛さ→ビターさと一口で味の変化が楽しめるサラサラなソースは、厳選された新潟産コシヒカリとも相性よし。

3代目の宮川泰久さんと、消防士から転職したという後継ぎの悠太さん。
建物前に出されるこの看板が目印だ。
住所:東京都千代田区神田神保町1-6 サンビルB1/営業時間:11:00~19:45LO/定休日:日(祝は不定)/アクセス:地下鉄神保町駅から徒歩2分

ボンディ 神保町本店

脇役にも和む欧風カレーの元祖

牛肉の大きさがうれしい、店イチオシのビーフカレー1500円。

欧風カレーの元祖と呼ばれるカレーは、初代が渡仏先で習得したフランス料理のブラウンソースがベース。果物や野菜、乳製品によるコクと甘さの中に、香辛料の辛さがある奥深き味だ。ブイヨンで炊いたライスの上にはゴーダチーズ。塩ゆでしたポテトも2個付く。が、洋風ずくめかと思えば、日本的な小梅やかっぱ漬けの付け合わせに和む。メニューは12種類、3つの辛さが選べる。

自家製のなめらかプリン500円は2010年から登場。
勤続14 年の店長・秋田隼介さん。
「春生譜」と題された大きな木彫レリーフは開店時から店を見守る。
住所:東京都千代田区神田神保町2-3 神田古書センタービル2F/営業時間:11:00~20:00/定休日:無/アクセス:地下鉄神保町駅から徒歩2分

ギャラリー珈琲店 古瀬戸

黄色いライスと軽やかカレーの名コンビ

ぷりぷりしたむきエビがいくつも入ったエビカレー940円。サフランライスと野菜多めのサラダ付き。

グランドピアノをかたどった広々した店内も、路地に面した外壁も、アートでいっぱいの喫茶店。時間を問わず食べられるカレーはチキン、エビ、ビーフの3種類。みじん切り野菜を炒め、自家調合したスパイスにルーとトマトペースト、チャツネ、黒糖を加えて作られる。軽やかな口当たりで親しみやすい味だ。サフランとバターを入れて硬めに炊いた黄色いライスにたっぷりかけて。

シュークリーム490円も自家製。ドリンク付きなら100円引きに。
曲線の壁の絵は城戸真亜子さん作「幸せの予感」。今も制作中だ。
住所:東京都千代田区神田神保町1-7 NSEビル1F/営業時間:10:00~22:00(土・日・祝は21:00まで)/定休日:無/アクセス:地下鉄神保町駅から徒歩1分

揚子江菜館

インパクト大の上海料理アレンジカレー

スープ付きの獅子頭カレー1280円。大きな獅子頭は割ってカレーを絡ませて食べるといい。

2012年に誕生した獅子頭(ししがしら)カレーは、獅子頭という大きな肉団子の上海料理をアレンジ。店で挽いた豚バラ肉を丸めたそのボリュームは200g! とろみあるまろやかなカレーの中でニンジン、ジャガイモ、カリフラワーに囲まれドーンと鎮座する。割ればじわりと肉汁がにじみ出て、ショウガの効果で後味さっぱり。4代目店主の沈松偉さん曰く、「体はポカポカ、スタミナ満点です」。

カレー好きで近隣の店にも食べに行くという沈松偉さん。
赤色が目を引く入り口。店のシンボルである京劇のお面があちこちに。

【おまけ】「2020年で開催10 周年!」 神田カレーグランプリってなんだ?

「神田のカレーを多くの人に楽しんでもらおう。街を盛り上げよう」という目的で始まった神田カレーグランプリ。きっかけは2010年秋の神田スポーツ祭りで企画した「農村B級グルメvs神田カレー」だった。

「カレー店への注目の高さを感じ、翌年から神田のカレーだけ集めたイベントにしたのです」と当時の担当者で神田カレー街活性化委員会の中俣拓哉さん。初めは会場に出品するカレーの中から投票で最高賞を決めるだけだったが、2014年より参加店を巡るスタンプラリーも開始。400店以上ある神田界隈のカレー店の中から、今では100店前後が毎年参加。ラリー制覇者は神田カレーマイスターに認定され、その数は全6回で累計2205名! マイスター同士やカレー店とのつながりも生まれているという。「どんなカレー好きでも満足できるカレーと必ず出合えるはずです!」。

神田カレーグランプリ
2020年は8月下旬に公式ガイドブックを周辺各駅や参加店などで無料配布。9月1日~ 12月末(各店最終営業日)まで食べ歩きスタンプラリーを開催。1コース(20店)以上制覇すれば神田カレーマイスターに。グランプリ決定戦は10月31日・11月1日開催予定。

取材・文=下里康子 撮影=丸毛 透
『散歩の達人』2020年9月号より