運命に導かれ!? 2014年、神保町の路地裏に居酒屋をオープン

神保町は路地の裏まで店が続いている。路地裏に個人店が多く、おいしくて良心的な価格で食べられるランチ天国。神保町の路地裏にひっそり佇む『居酒屋なごみ』もそのひとつだ。取材に伺うと「ウリは何って聞かれると答えられないくらいふつうの店ですよ? なんでウチなんですか⁉」。店主の大手新也さんが困った顔でこう訴える。あはは、そんなことおっしゃらずに。なぜって編集部が自信を持っておすすめしたいおいしいお店だからですよ。

親しみやすい和風の店舗。アサヒビールのちょうちんが目立つ。
親しみやすい和風の店舗。アサヒビールのちょうちんが目立つ。

大手さんは20代のころからずっとイタリアンを中心とした洋食店で修業をしてきたそうだ。転機になったのは、とある会社が経営する飲食店に勤務したこと。

「居酒屋みたいなお店を任せていただいて、和・洋・中いろんなものを作りましたね。そこで店を経営するノウハウやホールの知識を学びました。そして2〜3年経った頃、独立して店を出すことになったんです」。

はじめに作ろうと思ったのは窯焼きピザ店だったそう。緑が豊かな郊外でそこそこ広い物件がないかと店探しには2年を要した。そんな中、運命的な出会いをした。

落ち着ける和風の店内。前に入っていたうどん屋も人気の店だったそうだ。
落ち着ける和風の店内。前に入っていたうどん屋も人気の店だったそうだ。

「友人と飯田橋で飲んでいたら、たまたま昔のお客様に会ったんです。その方が不動産関係の仕事をしていて、『物件を探している』と話したら紹介してくれたのがこの店でした」。物件は元うどん屋の居抜き。物件を見ようと店の前まで来て、『あ、オレこの店で飲んだことある!』って思い出したとか。

大手さんが続ける。「それで、中に入っていろいろと設備を見ていたら閉店の張り紙が出てきました。なんと閉店日が自分の誕生日だったんですよね。それでこの店に運命を感じて契約を決めました」。

かくして2014年7月、“仕事帰りに同僚と気軽に飲める店”というコンセプトのもと『居酒屋なごみ』がオープン。「とりあえずここは居酒屋にして、お金が貯まったら箱根あたりに別荘を買ってそこでピザ屋をやろうと思っていたんですが、店が忙しくて。いまだに夢は実現していません(笑)」。とはいうものの常連客に恵まれ、いつも店はにぎやかだ。

豊洲市場で仕入れる新鮮素材を使用。揚げたてのほっくりアジフライ!

店の入り口にランチメニューがある。ランチは2022年8月17日より800円から850円に変更。
店の入り口にランチメニューがある。ランチは2022年8月17日より800円から850円に変更。

オープンから1カ月経った頃、ランチがスタートした。現在は毎日5種のメニューがそろい、不定期で内容が変わる。「旬の素材を使って、できるだけ手作りに努めています。つい茶色っぽいものになりがちなので、栄養バランスにも気をつけています(笑)」。

この日のメニューは鶏のから揚げ、アジフライ、サバの塩焼き、豚のネギ塩焼き、ミックスフライ(カキフライ、エビフライ、白身フライ)があり、それぞれ850円。ご飯に味噌汁、日替わりの小鉢(写真は揚げナスポン酢)、サラダ、漬物がつく。これだけ充実してこのお値段。本当に神保町はランチのレベルが高いなあ!

アルバイトのはるちゃんは「今日はないんですけど、私は豚のしょうが焼きが好きです。豚のネギ塩焼きもおいしいですよ」とおすすめしてくれたが、アジフライをチョイスした。ごめんね、あまのじゃくで。

笑顔がステキなアルバイトのはるちゃん。
笑顔がステキなアルバイトのはるちゃん。

「海産物は豊洲で仕入れています。今日のは相模湾のアジですね。産地はその日によって変わります」と大手さん。1人で調理するため忙しいランチはかなりバタバタする。ランチタイムはお客さんも時間が限られているので、できるだけ早く提供することを心がけている。それでも「揚げ物は揚げたてがおいしいから」と、作り置きせず揚げたてを提供してくれるのがうれしい。

豊洲で仕入れてくるアジを捌いて提供。
豊洲で仕入れてくるアジを捌いて提供。

注文から約10分ではるちゃんが待望のアジフライ定食を持ってきてくれた。「アジフライでーす」。カラッと揚げられたアジが2尾も。おいしそうだ〜! こちらはアジフライにタルタルソースが付いてくるパターンか。フムフム。

山盛りのキャベツとアジフライについたタルタルソースがうれしい!
山盛りのキャベツとアジフライについたタルタルソースがうれしい!

基本はソース派なのだが、まろやかな酸味のタルタルも悪くない。最初からちょっとアジフライの端に付いていたタルタルでひとかじり。シャクッと音を立てた衣のなかにはホクホクのアジ。小ぶりながらも味がいいぞ。アジだけに。プププッ。

アジフライはソースや醤油でもおいしい。
アジフライはソースや醤油でもおいしい。

ソースは酸味が利いてスパイシーに食べられるし、醤油はこうばしい香りとほのかな酸味が特徴。あっさりしているから好きだ。山盛りのキャベツを途中に食べると消化にもよく、口がリセットされてどんどん食べ進められる。

神保町の路地裏は個性やこだわりが強いお店が多いから面白い

古本に楽器、カレー、スポーツ用品(アウトドア)の店が多数ひしめく神保町界隈。東京でもこれだけのジャンルの専門店が集まっている街は珍しい。だからおのずとこの街に集まる人もこだわりを持っているのかも。それは食べ物もしかり。

「神保町の飲食店は、路地裏の店が面白いですよ。とにかく店は路地の奥の奥までいっぱいありますし、個人店が多いからそれぞれ個性も強いですしね。この辺りで働く人たちはランチに困らないんじゃないでしょうか」と大手さん。

『居酒屋なごみ』も昼間は静かな路地裏にある。
『居酒屋なごみ』も昼間は静かな路地裏にある。

店がたくさんあって迷ってしまうから、1週間のローテーションを決めているお客さんが多いという。「たとえば火曜日だけうちに来るお客様とかいらっしゃいますよ(笑)。ランチタイムは料理を提供する店も大変ですけど、お客さんも決められた時間までに会社に戻らないと怒られちゃうから、お店選びが大変みたいです。ランチで満足していただいたら、夜はゆっくり飲みにきていただきたいですね」。

『居酒屋なごみ』の夜のメニューは、厚切りのハムカツやサバ缶、ポテサラに懐かしの赤いウインナーなどが人気だ。「おじさまが喜ぶメニューが多いですね(笑)。ビール、焼酎、ハイボール、日本酒、各種お酒が揃っているのでぜひお仕事の帰りにはお気軽に寄ってください!」と大手さん。

黒板に書かれた夜のメニューもおいしそう!
黒板に書かれた夜のメニューもおいしそう!

ビールジョッキを片手に、赤ウインナー&厚切りハムカツにかぶりつくなんて最高! 神保町なら夜のオープンまで時間を潰すのも苦ではない。さて、夜のオープンまで腹ごなしに少し街を散策してみようか。

住所:東京都千代田区神田神保町1-18-11/営業時間:11:30~13:45・17:45〜22:00LO/定休日:土・日・祝/アクセス:地下鉄神保町駅から徒歩3分

構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=パンチ広沢