角が無くなったコの字型のカウンターテーブル、酒で磨かれていいツヤを放つ四人掛けテーブル。そこで歴史を共にし、それを見ればその酒場の魅力が解るのが〝酒場のテーブル〟なのだ。

東京を代表する寺町『門前仲町』、通称〝門仲〟。名刹だけではなく、老舗の名酒場も多い中に、まだ若い立ち飲み屋『ますらお』がある。ここのテーブル、一見の価値アリ。

立ち飲み屋のテーブルを気に掛ける店も客も少ないだろうが、ここは違う。まるで、人間工学を計算して作ったような高さに、肘を掛けるとしっくりと落ち着く。ツヤのある木目には、荒く残ったフシがあるなど、そのセンスのよさが伺える。生中ジョッキを置いた時の音も完璧だ。

テーブルが目的であれば、もちろん料理もテーブルに合わせるのが流儀。ここはいつ来ても刺身がウマい。『カツオ刺し』は皮を軽く炙り、紅い身に薄っすらと脂の虹色が輝くさわやかな美味。『鰯たたき』の最高のビジュアルに、思わず箸が伸びる。サクサクの身に生姜醤油がたまりません。

『牛スジ煮込み』
刺身もいいが、ここの牛スジ煮込みがまた名作だ。小椀からはみ出るほどのスジ肉がてんこ盛り、そこへ緑あざやかな小葱がパパッと彩る。箸を入れると、ふるふると蕩けそうで、口の中へ入れれば、その通りに蕩けてなくなる。残るのは、牛スジの甘い香りのみ。

気が付いたのが、小椀と牛スジ、小葱の色味がテーブルとが見事に合っている。まさか、これも計算済みなのか……? と、またもテーブルに魅了されるのだった。


『このテーブル、なんかいい……』
『なんだか、懐かしいなぁ……』
世の酒場の中には、自分に合った身近でしっくりとくるテーブルが必ず存在する。そこで一杯飲んでみたら分かる、酒場の魅力がまたひとつ増えたことを。


取材・文・撮影=味論(酒場ナビ)