里の宿
質のよいおろしたての魚を手軽にいただく
真っ赤に輝く金目鯛、色とりどりの小鉢にご飯。本日の煮魚定食を注文したら、栄養たっぷりの食卓になった。「煮魚のタレは開店から35年間、注ぎ足しながら使っているんです」と店の方。おお。甘辛で深みのある味わいは店の歴史そのものだったのか。女性常連客が多いのも納得の洒落た店内だが、素材のよさは極めつき。井ノ頭通り沿いに南に6分の鮮魚店『魚初』の直営店なのだ。豊洲市場での仕入れや下ごしらえは『魚初』が担当。刺身定食を注文すれば、鮮魚店ですぐにさばいてお客のもとに届けられる。さらに漬物も自家製、ご飯はコシヒカリと美味ぞろい。『魚初』自体、手作り総菜やご飯もそろうが、さらに「姉妹店の居酒屋『せんぎょ屋』もあります」と店主の鈴木さん。定職に総菜に酒の肴までこんなにいい魚を食べるのが日常とは羨ましいぞ。吉祥寺民。
『里の宿』店舗詳細
魚玉
魚屋の店先でご飯を食べる不思議な空間も味わいに
「元は全面的に鮮魚店だったんですよ」というのは店主の澤尻弘美さん。知り合いから8年前にこの店を引き継ぎ、徐々に飲食中心にしてきた。というのも澤尻さん自身は40年も六本木や銀座の有名店で腕をふるった寿司職人だからだ。もちろん今も豊洲市場から仕入れたての魚を切り身や刺身としてさばいて店頭販売する、れっきとした鮮魚店でもある。この日の定食は、「良いブリが入ったんで」と、ブリの照り焼き。口に入れると厚手の切り身からジワリと脂とうまみがにじみ出る。味噌汁は甘エビの殻で出汁をとる。「一日1~2kgほど甘エビを刺身にするもので」とご主人。魚への目利きはさすがベテランと納得した。実はこの店の一番人気は海鮮丼。昼時、JR大崎駅周辺の高層オフィスビルからサラリーマンたちが、中古で仕入れたスクール用の椅子にずらりと並ぶ姿は壮観だ。
『魚玉』店舗詳細
寿ぎ乃家
養鶏場だったという本格派鶏肉専門店の実力発揮
店主の吉田保男さんに店の歴史を聞いてびっくり。「先代が数十年前までここで養鶏場を営んでいました」。そんな超専門家一族が営む鶏肉料理店は絶品の味わいだった。息子さんが調理する鶏唐揚げ定食の塩味は素揚げで、皮のパリパリ感がえも言われぬおいしさ。ご飯は新潟産コシヒカリをガス釜で炊くのでつやつや。漬物は息子さん特製だ。若奥さんおすすめのささみカツが、意外なほど柔らかくて味わい深いわけは、「鶏肉店の方で鶏1羽を丸ごと仕入れて毎朝さばくので、新鮮だから」。鶏肉店がさばくというのは、今では都内でも希少な存在だ。だから一羽分の部位や内臓も豊富で砂肝のスタミナ漬けなど値段の割にボリュームもたっぷりだ。隣接の鶏肉店ではお母さんが十数種類もの焼き鳥を担当。毎日一家総掛かりで串刺しという、誠に手作り感満載の美味しい店なのだ。
『寿ぎ乃家』店舗詳細
とんかつ洋食の店 マルミ
肉も切りたてが美味だと教えてくれる店
にぎやかな商店街にある精肉店。店頭のショーケースには豚肉や牛肉がつやつやと輝いている。これが2階で食べられるというのだから、食欲をそそる。そして注文した牛かつ定食はさすがだった。驚くほど柔らかく、牛肉にほんのり赤みを残す揚げ具合も絶妙なのだ。店主に聞くと「だって国産のステーキ用ですから」。ほかにも肉屋ならではの豚レバーをふんだんに使ったレバーカツなど、定食が600円台からある良心価格。先代の精肉店を子供の頃から手伝ったから、筋の切り方など肉の扱いは抜群の腕前だ。「お客さんにお腹いっぱいになってほしい」「お米も茶葉も地元商店街の専門店で良いものを仕入れています。お互いに盛り上げたいですからね」という店の方々の言葉に、「みんなが幸せになるといい」という温かな心がじわじわにじむ、何だかうれしい店だ。
『とんかつ洋食店 マルミ』店舗詳細
構成=フラップネクスト 取材・文=眞鍋じゅんこ 撮影=鴇田康則
『散歩の達人』2019年2月号より