ルールは「染」で「数百円」であること
しかし令和の世の中、手ぬぐいが活躍する場面はめっきり減っている。トイレにかかっている手拭きも、商店が配る粗品も、みんなタオルに取って代わられてしまった。
一方で手ぬぐい専門店では、お洒落な柄に染められた手ぬぐいが売られて若い人にも人気だが、こうした手ぬぐいは大体1000円を超える高級品である。それはそれで良いものだが、やはり土産物店の片隅に数百円ほどで売られている、あの味わい深い手ぬぐいには何とも言えない魅力がある。最近ではプリント地の手ぬぐいも多く出ているが、ここでは「染めの手ぬぐいであること」「価格が数百円であること」にこだわって探してみたい。
相性抜群。温泉街の手ぬぐい
土産手ぬぐいの最大の生息地の一つは、古くからの温泉街である。いかにも温泉と手ぬぐいは相性が良いが、やはり最近ではタオルが主流となっている。しかし根気よく土産物店を探すと、手ぬぐいを置いている店を発見できることもある。
たとえば草津温泉にある土産物店では、湯もみをする人と草津節、草津小唄、白根火山ロープウェイなどが染め抜かれた手ぬぐいを入手することができた。草津小唄は聴いたことがないと店のおかみさんに告げると、民謡をやっているというおかみさんが唄ってくれたりして、タオルではなかなかこうはいかない。
生き残る、古い観光地の手ぬぐい
古くからの観光地もまた、土産手ぬぐいを発見しやすい場所である。土産物にも流行があり、手ぬぐいがすっかり淘汰されてなくなってしまう場合もある。そもそも土産手ぬぐいが土産のスター選手となることはまずない。土産手ぬぐいが今でも売られているとしたならば、脇役としてひっそりと陳列棚に並び、それがそのまま現在にまで残ってしまった、というのが実情だろう。
日本三景の一つ、天橋立周辺の土産物店では、そのようにひっそりと生き残った土産手ぬぐいが数種類あり、見かけた時には小躍りした。
他にも錦帯橋、宮島などでも土産手ぬぐいを発見したが、まだまだ日本各地にはこのような生き残り手ぬぐいが存在していると思われる。
東京周辺では、鎌倉の土産物店に大仏や江ノ島が描かれた手ぬぐいが置かれている。また観光地というわけではないが、名所として、国会議事堂内の売店で手ぬぐいが販売されている。
門前町に潜む、手ぬぐいに感じるあわれ
門前町の土産物店にも、土産手ぬぐいが潜んでいる割合が高い。巡礼の札所となっている寺院そのものにも御詠歌が書かれた手ぬぐいが置かれていることが多いが、この寺社手ぬぐいについてはまた別の機会に触れたいと思う。
門前町の手ぬぐいには、その寺社の名前が刻まれ、有名な仏像や社殿などが描かれていることが多い。東京周辺では、浅野長矩と赤穂浪士たちの墓所である泉岳寺前の土産物店で、討ち入りの際の大石内蔵助良雄の姿と、辞世の句である「あら楽し思ひは晴るる身は捨つる浮世の月にかかる雲なし」が染められた手ぬぐいが販売されている。また靖国神社の境内にある売店でも、参詣記念の手ぬぐいを入手することができた。
このように各地に土産手ぬぐいは生息しているとはいえ、やはり昔に比べれば数が少なくなっているというのも事実だ。以前は皇居外苑で販売していた参観記念の手ぬぐいも、いつしか姿を見なくなってしまった。
しかし、できることなら土産手ぬぐいは今のデザインのままで残り続けていてほしいというのが目下の私の願いでもある。
絵・取材・文=オギリマサホ