【コースガイド】
ウノタワは火気・山中泊厳禁。急登、急坂、ガレ場があり、登山装備は必須。「名郷」バス停そばに公共トイレ、無料貸し出しの杖あり。2021年4月現在、山中経由の横倉林道は通行止め。白岩・鳥首峠経由で目指そう。歩行時間は往復約6時間。
アクセス
JR・私鉄・地下鉄池袋駅から西武池袋線急行約50分の飯能駅下車。飯能駅北口から国際興業バス「名郷・湯の沢」行き約1時間の「名郷」下車。
バスを降りると清流の音が耳に心地いい。地元で名栗川と呼ぶ入間川源流だ。目の前に名栗まちづくり委員会製“なぐりづえ”が用意され、1本拝借を。
事前に、エコツアーも行う山のプロ・『西山荘笑美亭(せいざんそうわらびてい)』宿主の中村綱秀さんに聞くと、 「ウノタワへは今、鳥首峠経由からしか行けませんよ」 とのこと。本来、周回コースもあるが、2019年の台風の影響で未だ復旧途中。助言に従い、沢沿いの集落、キャンプ場、大場戸橋を抜け、林道を進むことに。
伝説が随所に点在するウノタワへの道筋
林道の終点は白岩集落跡。山肌の廃墟群が要塞のようだ。登山口を入るとゴロゴロ石の道で、モノレール跡と並走し、さながら工場探検気分。ここは良質な石灰岩の採掘場で、戦後より上下2つの集落があったものの、昭和の終焉(しゅうえん)とともに無人に。上の集落には廃屋も残り、ゲレンデのごとく白銀の石灰石斜面、採掘途中の山肌も目につく。また、平家の落ち武者伝説が残り、 中村さん曰く「ここに差しかかると皆、悪口を言ったり、下世話になるんです。かつての情念がそうさせるんでしょう。抜けるとピタリと止まりますよ(笑)」。
話したくなるのをぐっと堪(た)え、奥秩父線22号の標識を頼りに沢越え、杉林の斜面を息も絶え絶えに登り切れば、鳥首峠だ。近くに以前、ウノタワ伝説の弓を奉納した祠があったそうだが、先の台風で祠ともども飛ばされたとか。「忌みものは土に還るのが一番ですよね」。
さて、ここからは尾根道を。送電線跡、降り積もったブナの落ち葉道、早春に花咲くアセビ帯を抜ければ、いよいよウノタワ。標高1070m、樹木の隙間にぽっかり現れた平地は一見草原。だが実は苔で、ふわふわふかふかの感覚に心が躍る。
さらに、山中(やまなか)へ至る横倉入沿いを、幹のピンクテープを頼りに急斜面のガレ場を下れば、息を呑む光景が。
斜面に張り付く巨石群を、苔という苔が覆い尽くし、枝葉から陽光がスポットライトのように点々と落ちている。苔場だ。「昔、沼があったぐらい地下水が豊富。だから、苔が見事に生育するんでしょう」。
山々と青き空、爽快感を独り占め!
圧倒するほどの緑の清々しさ、神々しさは、時間、天候、季節次第で表情を変え、いつまでも眺めていたくなる美しさ。魅せられた人が何度となく訪れるというのも納得だ。
さて復路。下りもまた、杖の助けを痛感。くれぐれも慎重にお帰りを。
1 ウノタワ
苔の絨毯を広げた天空の大広間
かつて山の神の化身・鵜(う)が住んでいたという沼の跡。猟師が誤って撃ち落としたことで、沼が消滅したとの伝説が。地名は「鵜の田(ウノタ)」から。苔がふかふかで気持ちいい。
2 苔場
山の北斜面に突如現れる苔の大群生地。真冬でも苔がびっしり。春からは広葉樹、山野草も加勢して、緑がいっそう輝く。光の入り具合で変わる表情も楽しみだ。入り込むのは厳禁。
3 Coffee紗蔵(さくら)
小腹にうれしい甘みを明治40年(1907)築の蔵で
店主の山田由紀子さんは地元・名栗の作家や焙煎所の品を扱い、コーヒーをハンドドリップ。すっきりかぐわしい味で、スイーツの甘みにも和む。古布タペストリーやムササビランプなども粋。母屋も見学可。
●10:00~16:30、火~木休。☎042-979-0067
4 居酒屋ポタ亭
女性店主がもてなす駅近の桃源郷
朗らかにもてなす店主の古賀恵美さんは、飯能市内にある九州酒場『達まる』の女将。新たに始めた酒場は、旬味、創作料理が目白押しだ。「どうなるかな」と、豚のナンコツを煮れば、わらび餅のような弾力感に。甘辛い味に仕上げ、酒に合わぬわけがない。女性ひとり客も多い。
●16:30~23:00、火・水休。☎042-980-7772
【泊まるならここ】西山荘 笑美亭
山の暮らしを存分に満喫できる時間
宿主の中村綱秀さんは、家業を継ぐにあたり「自分で作ろう」と決意。大工と二人三脚で、地元西川材の木組みが美しい2階建てを1996年に完成させた。客室は2階に4部屋。1階は薪ストーブを据えた食堂と、古代ヒノキ造りの風呂を備える。素朴な山の料理には、麹から作る自家製味噌が欠かせない。近隣の山にも詳しい頼もしい存在だ。
●IN15:00・OUT10:00、平日(2名利用時)1泊2食付き9350円、1泊朝食付き6930円、素泊まり6050円(※一人利用時は30% UP)。☎042-979-0164
取材・文=佐藤さゆり 撮影=逢坂聡 写真提供=飯能市役所 観光・エコツーリズム推進課
『散歩の達人』2021年4月号より