かつて肉屋だった空間がスタイリッシュなカフェに
元々デザインの仕事をしていたオーナーの脇田さんは、2013〜2014年の1年半、平日の日中に西荻窪でシェアカフェをやっていた。自分のやりたい店を出すための準備を重ね、2019年4月3日に府中本町駅近くに『脇町珈琲』をオープン。ここの物件を見つけた当時は、雑然とした倉庫のような状態だったという。しかし焙煎機を置けるという条件を満たす物件は限られているため、結局借りることに。改装の結果、スタイリッシュで落ち着く空間になった。
通路に面した窓は開けることができ、縁側のような空間になる。向かいの駄菓子屋さんの様子も目に楽しい。かつての肉屋の時代を知る人は、その変貌ぶりに当初は入りづらく感じていたようだが、一度来店してからたびたびリピートしてくれるようになったという。現在はテーブルの間に本棚を置いて、グループごとに距離を保てるようにしている。
先祖の名前を残したい
店名の由来を伺うと、父方の実家が徳島県の脇町だから、とのこと。脇町は豊臣秀吉に仕えた稲田家の所領で、「脇田」姓もいたという。武士の家系であるから、かつては月偏に「力」が3つではなく、「刀」が3つという表記だったが、明治になり、武士を捨てる際に「力」にしたのではないかと。
「父親に話したら、うちは農家だよ、と。だから家族も親戚も全然知らない。これは残しておかなきゃ、と思って」。そんな思いで、看板の「脇」の文字を一部刀にしているという。
ハンドドリップでていねいに
焙煎と抽出はコーノ式。自家焙煎したスペシャルティコーヒーをていねいにハンドドリップ。豆の種類に応じて焙煎を加減している。「モカとブラジルは浅煎り、ほかは深煎りにしています。コーヒーに詳しくないという方でも、どんなものがお好みか聞いて、おすすめのものを出しています」。コーヒー豆自体の販売や、コーヒー教室も行っているそう。
また、お店で出しているお菓子はすべて自家製。チーズケーキ目当てに来店する人もいるという。一晩生地を寝かせてから焼くカヌレは、ふんわりとした食感で優しい甘さだ。
付加価値のあるお店に
裏メニューとして、脇田さんが特別にやってくれるのが手相鑑定。10分2000円、その後15分ごとに2000円という価格設定。ほかのお客さんがいないときに対応してくれる。
西荻時代に、「来る人みんなを好きになる」というスタンスでお店をやると決めてから、俄然楽しくなったという脇田さん。以前は店内でアコースティックライブや、絵本の読み聞かせ会などのイベントを開いたことも。
「いろいろな人が来て、いろいろな情報交換ができるような場所になるといいですね。コーヒーとお菓子がおいしいのは当たり前、それ以外に“あそこのお店に行ってよかったね”っていう付加価値を見つけてもらえればと思いますね」
構成=フリート 取材・文・撮影=藤村恭子