平均点が高い食べ物、ケバブ
改めてケバブをおさらいしてみます。
ケバブはトルコからやってきた料理だそうです。その中でも「ドネルケバブ」は、大きくて長い串にお肉を垂直にザシュッと刺して重ねていって……また刺して重ねて……地層のように重ね……鬼の金棒みたいな形と大きさになったら、今度はそれを回して焼いて……こんがりしたら長〜い包丁で削ぎ……最後はキャベツなどの野菜とパンに挟みます。え、なんなんですかね。知らない工程から、知らない工程を経て、急に知っているケバブが完成しました。本当になんなんですか?
私はもはや、最初の空港から気になっています。
「そうだ! 日本でケバブの店をやろう!」と、トルコから成田空港へやってきた人が荷物検査でなんという説明をしたら、あの肉を刺すナゾの串を日本に入れる許可がもらえたのでしょうか? 私がそこの検査場で働いていたら「嘘つけ! こんなもん武器に決まってんだろ!」と断固拒否していると思います。しかしケバブは、理解ある検査員によって空港を無事に通過し、広まり、今では当たり前のように街中に存在しています。
そして恐ろしいのが、別に、変わった調理法というパフォーマンスの点で人気を博しているわけではないのです。シンプルに「うまさ」で愛されているのです。今「分からない」だとか「でもうまい」だとか言ってケバブの気持ちを振り回す悪い女なのですが、でもケバブってどこのお店のものもおいしくて、平均点が高い食べ物なのです。
今回はじゃあ……ケバブのおいしい店へ行ったらそれはもう最高なのでは……?と思い立ってしまったので、好奇心そのままに旅をしてみます。
ケバブの神髄に気づいてしまったかもしれません
最初にやってきたのは『サライケバブ』というお店です。
まず、ここを調べていて驚いたのがチェーン店なことです。なぜかケバブ屋さんは個人経営だと思い込んでいました。なんか「友達とか近い人たちでやってます〜!」みたいなアットホーム感めっちゃ出してないですか? あれ演出だったってことですか……!? ケバブ屋さん、あなどれないかもしれません……!
今回は食べ比べてケバブの輪郭を掴みたいので、ザ・1個目というメニューを注文します。王道主人公な「ケバブサンド(Chicken)550円」です。はい。やっぱりケバブと言ったらチキンです。ケバブ男子と恋する恋愛シミュレーションゲームがあったとしても絶対にチキンが主人公でビーフがマッチョ、ラムが天然キャラだと思います。あれ? 時間ってムダにしちゃダメなんでしたっけ? すみません。
そして、今回はケバブを店内で食べてみることにしました。思えば、ケバブってなぜかあまり店内で食べる経験をしてこなかったのです。店内は、異国感がありましたが日本の定食屋さんのような高い位置にテレビがあり、炭が熱されて赤くなっていく映像だけが流れていました。でも、全然見ていられる良さがありました。
ケバブが運ばれてきました……!
思った以上のボリュームです。持ち上げてみると、すごく正確に言って、子ども用ドラムセットについているシンバルくらいの大きさでした。すごく正確に言って。ずっしりとした重さに食べ切れるのか……!?と挑むような気持ちで口に運んでみると……。
う、うま〜〜〜!!! ソース、うま〜〜!!!
いちばんにくるのはケバブにかかったソースのうまさです。ケバブってこのオレンジ色の謎のソースがうまいんですよね……! 珍しいかもですが、私はこのソースの、曇りの日の夕方の空みたいな色も好きです。ビジュも推しています。
そして、お肉もおいしいです! チキンはしっとりしているのですが、たまにアタリのように鶏皮も入っていてそのぷるぷるとした食感を楽しめます!
ビックリしたのは、このケバブにはチキンしか使われていないにも関わらず、いろんな味が楽しめました。厚く切られた部分は柔らかく、焼き目のついた部分は香ばしく……
「ま、まさか……!?」
もしかしたら私は……ケバブの神髄に気付いてしまったかもしれません……!
チキンだけでこのバリエーションが出せるのは、あの、ただのパフォーマンスかと思われた「削ぐ」という調理法の賜物(たまもの)だったのです……! あの切り方の工夫でチキンにバリエを持たせていました……! すごすぎます……!
はあ……。冒頭でも書いたように、ケバブはその平均点の高さから、今まで何気なく食べてきたものと差が生まれるのか懸念を持っていました。しかし平均点が高いということはしのぎが削られトップも高いということなのでした。なんとケバブは進学校だったのです……!
「かわいちゃん! かわいちゃん!」
続いては、大久保駅にある『EFELIF KEBAB』へやってきました。
ここはもう駅からむちゃくちゃに近くて15秒で到着できます。たまに布団でスマホを見ていたら2時間も経っていた……なんてことがありますが、そんな時間があれば駅からこのお店まで240往復できます。本当、時間って使いようです。
ここも王道メニュー「ケバブサンド 750円」を注文します。
お店にやってきたのは平日の20時ごろだったのですが、すでに5人ほど並んでいました。このお店は、出来上がりまでやや待ちました。
看板に書いてある「Ippai Ippai NO Shinpai …」の文字が目に入ってきて、これは「いっぱいいっぱいの心配」なのか……? それとも「いっぱいいっぱいNO心配」なのか……? 「NO」部分をどう捉えるかによって意味が180度変わってくるな……。まあ、どっちでもいいか……。と思い終わっても、まだ少し待ちました。確かに事前に見た口コミでも「20分ほど待った」と書いてあったんですが、それは休日のランチタイムのことだろうとタカを括(くく)っていたのです。16分くらい待ったところでなんだか新境地に入りました。
「これも私の人生か……」
そう思ったのです。人生って、限りがありますよね? でもそんな中で、ケバブの出来上がりだけを待っているこの16分。この時間を過ごせることが、今自分が健康であることや人生が豊かであることの象徴なのかもしれない。道端に咲く花も……
「かわいちゃん!かわいちゃん!」
はっ……! 靄(もや)のかかった思想の森に、突然ケバブ屋さんの店員が現れ私を現実に引き戻します。危なかったです……。ちなみに外国人の店員さんはどうやら「かわい子ちゃん」を略して「かわいちゃん」と呼んでくれたようです。いや、絶対にそうだと思います。そうじゃないと自分で「かわい子ちゃんと呼ばれました」と主張しているヤバ人間になってしまいます。もう、そういうことにしましょう。
このお店ではケバブを頼むと飲み物を1本サービスしてくれるらしく、すごいコーラっぽいけどコーラじゃない炭酸をいただいて帰りました。外で食べるのも粋なのですが、近くの公園は夜になると閉まってしまうようで、持ち帰って家で食べます。
自宅ケバブです。家という日常すぎる環境にケバブが現れると、そのお祭りさが際立ちます。しかも包装を開けてみると……え!?? なんと大量のフライドポテトがケバブに蓋をするように入っていました……!!!
「♪タンタタン〜、タンタタン〜」
嵐の「Love so sweet」が流れました。始まったという意味です。
私の中で、もうハッキリとケバブへの愛が生まれていました。ケバブはいつだって、色んな方法で私を笑顔にしてくれるのです。
このお店のケバブは……ビーフがすごかったです! こちらはお肉の種類を指定しないと、ビーフとチキンのミックスになるようでした。そのビーフはカットステーキさながらの分厚さで、さらにゴロゴロ入っています。この量がステーキで出てきたら1480円はするのでは?と思ってしまうほどで、黒字でやれているか心配になります。
肉、肉、肉に次ぐ肉……!の大ボリュームです。肉たちの50m走で私の口がゴールにされてるのか?というくらいです。量が多いだけでなく、ぷるんとした牛すじも入っていて、こんなことまでしてくれて大丈夫!?と、また経営が心配になります。
え? あ、もしかして看板に「Ippai Ippai NO Shinpai …」とありましたが、あれは「NO心配」の意味で、私が心配する未来を予知して「黒字だよ!」と伝えてくれていたのかもしれません……! とんでもないアフターサービスです!
そしてここのキャベツは特徴的でした。細く美しく均等に切られたキャベツは、ソースがきっちりと和えられていて、お肉と一緒に食べるとその絶妙なソースバランスを発揮しておいしかったです!
ケバブは私を最高の体験に連れ出してくれた
最後は、中野にある『ケバブカフェ エルトゥールル』にやってきました。こちらのお店は中野駅南口から、まっすぐめに歩いて3分です。
ここでも「ケバブサンド(チキン)」を注文します。このお店も当然のごとくケバブのデカイ串刺し棒があったのですが、その隣が整骨院で入り口に人の全身を模したガイコツが立っていました。図らずも「骨と肉」という、相対するような並びが出来上がっていました。私は「ないものねだり」とタイトルをつけました。皆さんもぜひ目にした際は好きに名付けてみてください。
その日は、もうとんでもない晴天でした。ケバブを受け取り、近くの公園で食べようと決めていたのですが……いや、店内もいいな……という気持ちになってきました。実はこれ何軒か巡ってみて「あるあるなのでは?」と思ったんですが、ケバブ屋さんで流れているテレビってなんか絶妙に面白そうなのです。そのお店も見たことない競技の世界大会が流れていました。
なんとか自分を律し、お店から歩いて5分の「中野区立囲桃園公園」へ向かいました。公園に着くと、とてもかわいい先客がいました。
5歳くらいの女の子が砂場で遊んでいて、それをお父さんがベンチから眺めていたのです。あまりにも公園らしすぎて「仕込まれている……?」と思いました。本当に誰が何の目的でかは分かりませんが、もしかしたら公園をより公園っぽく見せるために投入された親子かもしれません。
ベンチに座って、ケバブを食べます……! 青空の下でケバブを持っていると、もうそれだけで気分は最高です……!
食べると、チキンが「ぎゅむぎゅむ……!」といった食感でめちゃくちゃうまいです! 説明させていただくと、少し跳ね返ってくるような弾力とみずみずしさが「ぎゅむぎゅむ」です。そんなチキンがもう山盛りで、一体どこから食べたらいいのか分からないほどです。これは絶対にそうだと思うのですが、ケバブを食べるのが上手い人はジェンガも上手いと思います。
そしてこちらのお店は、ソースの辛さを選んだとき「それにヨーグルトをかけるのもオススメだよ」と教えてくれて2つのソースをかけました。このヨーグルトが大正解で、ヨーグルトが味を包むことでみんなが安心して良さを発揮していて、このヨーグルトが生徒会長を務めた代はつつがなさすぎると思います。
いや、ケバブは私を最高の体験に連れ出してくれました……。どのお店もおいしかったのはもちろんですが「公園」というシチュエーションは頭ひとつ抜けて良かったです。
公園を突っ切り帰路をショートカットする主婦……書類をファイルに入れずシワシワにしながら歩くサラリーマン……MVを撮ろうとロケハンに来た大学生……なんか良いですよね。そしてケバブは味が強いので景色と一緒に食べてもうまさが負けないのです。もはや「私は今街を食べているんだ」とゴジラみたいなことを思ったほどです。ゴジラは食べているわけじゃないんですが。
ケバブ片手に過ごす街は少しだけ、いや結構、陽気になります。あなたのお気に入りの街もケバブに挟んで食べてみるのはどうでしょうか?
文=アンゴラ村長(にゃんこスター)