立体集落の茶園
天空の茶畑が織りなす桃源郷ならぬ茶源郷
かつて秋葉街道と塩の道が交差し、多くの旅人が行きかった森町北西部の大久保地区。標高400mほどの山間(やまあい)に段々になった茶畑が広がっている。戦国時代には徳川家康と武田の軍勢が戦った古戦場でもあり、それにちなんで「戦国夢街道ハイキングコース」が設定されている。歴史と自然に親しみながら散策を。
●見学自由。静岡県森町大久保
遠州森 鈴木農園
スイーツのようなコーンを求める行列は森町の風物詩
森町特産のブランドトウモロコシ「甘々娘(かんかんむすめ)」は6月が旬。続いて7月に収穫される「森の甘太郎(かんたろう)」とともに糖度が18 〜 20度もあり、実が柔らかく甘さが強いのが特徴で生でもおいしい。朝採りのため、新鮮で甘くみずみずしい。甘々娘を練りこんだジェラート350円も人気。
/営業時間:6:00から売り切れまで(トウモロコシの直売時期以外のジェラート販売は9:00~17:00
/定休日:不定
山名神社天王祭
「祭りの森町」の一翼を担う夏祭り
慶雲3年(706)の創建と伝わる古社の祭礼。前夜祭の金曜は18:00から、土・日曜は朝から遠州地方ならではの二輪屋台が引き回される。「天王祭舞楽」(土・日曜16:00 〜 21:00)は、小国神社や天宮神社の十二段舞楽とあわせて「遠江森町の舞楽」として国指定の重要無形文化財。めずらしい昆虫の舞「蟷螂(カマキリ)の舞」もみられる。
●毎年7月15日に近い金~日曜開催
静岡県森町飯田2590
☎0538-85-6316(森町観光協会)
香勝寺
恋愛成就を祈願できる日本一のキキョウ寺
境内のききょう園に植えられた15種類4万5000株、100万本以上のキキョウが圧巻。青紫、白、ピンクに咲き誇る。花言葉「変わらぬ愛」にちなんで恋愛成就観音も祀られている。参道に並ぶ165の鉢でハスも楽しめるようになった。著名人が帰依する霊験あらたかな白龍頭(はくりゅうず)観音堂もぜひ。
極楽寺
お接待やグッズにも 心癒やされる「あじさい寺」
境内の表参道から裏山の木立にかけて群生するアジサイが見事。行基が「極楽へゆく人の乗る紫の雲の色なるあじさいの花」と詠んだことにちなんで30種類以上1万3000株が植えられた。なかにはブルースカイやアナベルなど珍しい品種も。期間中はウィットに富んだ法話も聞ける。
柏屋
明治28年創業の老舗が 作る贅沢なランチ
「森町は祭りへの情熱がすごい。打ち上げで暴れてね」。贅を尽くした調度の多くは宴会で壊されたそうだが風格は町いちばん。キップのいい4代目は、せっかちな遠州人気質に合わせた重箱の懐石料理も考案。季節ごとに内容が変わるにぎり寿司セット、ちらし寿司セット、穴子蒸しセット(春期)の3種1650円。
ゲストハウス 森と町
移住相談もできる森町の魅力発信基地
浜松出身の岩瀬さんが森町にほれ込み、地域おこし協力隊として活動しながら2017年の夏にオープン。自然豊かな「森」と歴史ある「町」の魅力を伝えたいという思いを名前に込める。和菓子店だった町家の2階に個室とドミトリーがあり8名が泊まれる。
遠州の小京都
地形・歴史・雰囲気条件が揃い踏み
遠江一宮が鎮座する森町は「遠州の奥座敷」と呼ばれていた。三方を山に囲まれた町の中央を太田川が流れる地形。由緒ある寺社の多さ。京から伝わった舞楽や祭り。蔵のある町並み。京都に似た風情がとても多かった。大正時代にここを訪れた地理学者、志賀重昂が最初に「小京都」と称賛。以来、森町は「遠州の小京都」と呼ばれるようになったという。
●町立歴史民俗資料館
入館無料。9:30〜16:30、月・火休、静岡県森町森2144、☎︎0538-85-0108
栄正堂
伝統の味を守る「梅衣(ごろも) 」元祖の店
梅蜜に漬けて風味を増したシソの葉で餅とこしあんを包んだ「梅衣」は、シソの香りや酸味とほどよい甘さが絶妙に調和した味わい。明治維新の頃、ある和菓子店舗の女将のアイデアで生まれ森町の銘菓に。彼女のもとで修業し製造の秘伝を教わったのが栄正堂の初代で、伝統の味を引き継いだ。
延城橋(えんじょうばし)
時代劇に出てきそうな郷愁の風景
城下地区に架かる太田川の木橋。かつては掛川市の大尾山(おびさん)顕光寺への参拝や交易でにぎわった蔓畝(つるね)街道の橋だった。戦後一時期なくなったが、対岸で耕作するために町内会管理のもとで復活した。季節や増水によって橋板や橋桁をその都度取り外す簡易な造りだが、各地でよく見る沈下橋より合理的なシステムかも。
●通行自由
静岡県森町城下
月花園
葛アイスの滋養効果で猛暑を克服
大正11年(1911)創業、似顔絵を描いたケーキや秋限定の栗むし羊羹が名物の和洋菓子店。国産本葛粉を使った葛アイスは2017年に発売。町特産の抹茶やトウモロコシ甘々娘の果汁が入ったもの、代々続く糀屋の甘酒入りなどさまざま味が楽しめる。アッサリした味わいとシャリシャリ感が心地いい。
天方(あまがた)城跡(新城)
徳川・武田両軍が奪い合った天方氏の城
古城、本城、新城があった天方城。今川方の勇将で一帯を治めていた天方山城守通興(みちおき)が堅固に築いたのが新城だった。今川義元の死後、遠州で覇を競った徳川・武田双方に何度も攻略された。家康に抗戦・降伏、武田に寝返るなどした通興の苦労が偲ばれる。家康の長男・信康を介錯(かいしゃく)したのが通興の長男・道綱なのも興味深い。
●見学自由。静岡県森町向天方
森町の鉄道
鉄ちゃんも垂涎! ローカル線と幻の電車
森町内の鉄道は天竜浜名湖鉄道天竜浜名湖線(天浜線)1本。前身は国鉄二俣線で、戦時に備え東海道本線のう回路的な理由でルートをとっていた。開通時の駅舎などが国の登録有形文化財。じつはそれより古い鉄道があった。袋井駅と森町市街を結んでいた「石松電車」こと静岡鉄道秋葉線がそれ。明治35年(1902)から昭和37年まで60年間存在した。町内の遺構に太田川左岸の橋台があり、代替路線の秋葉バスが軌道跡をなぞって走る。
自家焙煎珈琲屋 百珈(もか)
上質なコーヒーが味わえるお茶の里の古民家カフェ
浅煎りから深煎りまで16種類を用意。厳選したコーヒー豆を少量焙煎して量り売りをする。店内でいただけるハンドドリップのコーヒーは1杯500円。森町内7店から選ぶ月替わりのお茶請け「今月のお菓子」も楽しみ。古民家ならではの空間で癒やしのひとときを。
天宮(あめのみや)神社
1500年の歴史を感じて パワースポットめぐり
社殿横のナギの木は縁結びのスポット。幹が空洞だが樹高10m枝張り9mの巨木で、創祀の記念に植えたものという。国文学者の佐々木信綱が「天の宮神のみ前をかしこみと千歳さふらふなぎの大樹は」と詠むのも納得の迫力だ。境内奥にひっそりと横たわるくちなしの池もパワースポット。願い事を祈りながら一周するとよいとか。
欧風火の見櫓
末永く残してほしい 町角の景観資産
全国的にみて火の見櫓(やぐら)が多い静岡県にあって森町はとくに密度が高い。階段の付け方や器具の設置場所、見張り台の手摺(てす)りの装飾などバリエーションが豊富にあり、比較すると楽しい。風景のよいアクセントになっている欧風の丸形や四角錐の屋根は、静岡県特有のものとか。森町でも徐々に現代的なホース塔に変わっているようなので探索はお早めに。
●見学自由。
森の石松
侠客ゆえ最近やや肩身の 狭いご当地ゆかりの有名人
清水の次郎長の子分、森の石松(?〜万延元年6月1日〈1860年7月18日〉)は森町育ち。庄屋の家柄だったが父の代に没落して森町村に流れ、7歳で任侠の「森の五郎」に天宮神社で拾われた。その後、次郎長が石松を気に入り子分にしたという。育てられた家の旧新屋旅館(天宮619)、墓がある大洞(だいとう)院(静岡県森町橘249)など、ゆかりの場所が点在している。中高年には「石松=あおい輝彦」でおなじみだが、意外にも40歳以下は石松をほぼ知らないそう。
アクティ森
緑のなかで自然と伝統工芸を体験
草木染めや陶芸などの創作や、パターゴルフやレンタルMTBなどのアウトドアが体験できる複合施設。レストランでは地の食材を使った料理も味わえる。鳥の巣を模した盛り付けの太田川ダムカレーが定番。
/営業時間:9:00〜17:30(ランチ11:00〜14:30LO)
/定休日:水(祝・夏休み期間は営業)
森町マウンテンバイクツアー
森町は絶好のサイクルツーリングフィールド
旧街道に田園、里山とさまざまな景色を自転車で楽しめる森町。北部には少し本気で走り込みたくなる起伏の山々もある。駅やアクティ森でレンタルして気ままに走るのもいいが、バランスよいコース設定のMTBツアーなら一層充実。レッスンとガイド付きで未舗装トレールを安心して走れる。
●開催日はホームページを参照(要予約・レンタル車あり)。
☎︎090-6160-3850(岩瀬)
ハンゲショウ群生地(半夏生への小径)
可憐な花をめでながら 歩く癒やしの小径
時候の季語でもある半夏生(7月初旬)の頃に花が咲くことから名付けられたというドクダミ科の植物、ハンゲショウ。開花の頃に葉の約半分が白く変わる不思議な特徴があり「半化粧」「片白草(カタシログサ)」とも呼ばれる。希少な自生地や湿地は地元有志に守られ遊歩道が造られている。
●見学自由。見頃は7月中。
静岡県森町鍛冶島
☎︎0538-85-6315(森町産業課)
取材・文・撮影=飯田則夫
『散歩の達人』2019年7月号より