老舗旅館の建物からアートなホテルが誕生『白井屋ホテル』
創業300年の老舗旅館の1970年代に建てられたビルをリノベーション。建築家・藤本壮介氏をはじめとする国内外のクリエイターが敷地内の空間から細部のアートまで手掛け、全25室ある客室もレアンドロ・エルリッヒルームなど、1つとして同じものがない。宿泊者はアートツアーが楽しめる。ラウンジやレストラン、パティスリーやベーカリーは一般利用可。1泊素泊まり3万900円~。
☎027-231-4618
出合った分だけ、癒やしと新しい発見が『本の家2』
「子供たちにも本を好きになってほしい」と本を愛する地元の印刷会社社長が2021年に始めた絵本専門店。「対象は0歳児からですが、癒やされたい人が多いのか、最近は半分くらいが大人のお客さん。絵本は形式もサイズも自由。読むたびに新しい発見があります」と店主の石川知恵子さん。毎月1回の読み聞かせ会や、月の本やトラの本などといった特集コーナーも企画する。
11:00~17:00、日・月・祝休。
☎027-212-7273
街に開かれたアートを通して人が集う『まえばしガレリア』
ブロックをデコボコに組み合わせたような独特な建物は、平田晃久氏設計によるアート施設とレストラン、26戸の住居を一体としたアートレジデンス。ギャラリーは2つ、タカ・イシイギャラリーや小山登美夫ギャラリーなど名立たる画廊が携わる。「24時間アートを開放しようとガラス張りにしています」と運営する『まちの開発舎』の橋本薫さん。
11:00~19:00、月・火・祝休(ギャラリー)。
☎なし
台湾フードも満喫できる肉マンカフェ『Who's that MAN?(フザマン)』
好きな台湾の食に影響を受けた角田志保さんが夫・修一さんと営む店の看板は、無添加の肉マン。具に必要な出汁や鶏白湯スープ、ネギ油から手作りする。使用する豚肉はもちろん群馬県産だ。腹ペコさんには台湾式ハンバーガーの割包も。肉マンと同じ北海道産小麦粉と天然酵母で作る皮は甘くてふっかふか!
11:30~16:00(木は冷蔵マンのみ販売で17:00~19:00)、月・火・水休。
☎080-9571-8214
街の芸術文化の中心地といえばここ!『アーツ前橋』
季節ごとに近・現代美術の企画展を開催する、2013年開館の公立美術館。旧商業施設を活用した館内は、1階ギャラリーのロの字の吹き抜け(エスカレーター跡)など、ところどころに建物の昔の名残が見られ、空間も広々。回遊するように鑑賞が楽しめる。カフェ、グッズショップ、アーカイブもあり。観覧料は展示により異なる。
10:00~18:00(入館は~17:30)、水休。
☎027-230-1144
嚙(か)んで楽しい、豆腐のもっちりドーナツ『monsoon donuts』
店舗はかつての純喫茶。雰囲気のあるガラスショーケースに並ぶのは、岩田桃さんが揚げる豆富ドーナツだ。生地には高崎の豆腐店から仕入れる国産大豆とにがりだけの豆腐を使用。それをペーストにして、無農薬で育てた群馬県の小麦・農林61号の粉と乳製品を合わせるという。もっちり、みっちり、噛むのが楽しい! イートイン可で総菜やドリンクも豊富。
11:30~18:00、日・月・火休。
☎027-226-5241
大事に使いたい、手仕事の曲げ物『島田フルイ店』
竹細工を専門に明治41年(1908)創業。戦前から商品の主体はフルイやせいろ、裏ごし器などの曲げ物となり、2024年現在も4代目・島田泰男さんが手作りする。材料は奈良県桜井市のヒノキと、輪っかを留めるための地元のヤマザクラの皮だ。普段使いにおすすめはメンパ(弁当箱)5000円。「私もお昼用に使っていますが、他の曲げ物と違って塗料を塗らないから木の香りを感じられますよ」。
10:00~18:00(冬は~17:00)、日休。
☎027-231-7783
ホッピーとおみやげ、2つの魅力『Bentena SHOP(ベンテナ ショップ)』
“弁天通りのアンテナショップ”を意味する名の店の顔は2つあり。1つは日本唯一のホッピースタンド(ホッピービバレッジ公認)、もう1つはここでしか買えないオリジナルのおみやげコーナー。前橋はじめ県内で制作、加工されたもの、地元の何かをモチーフにしたものなど、ユニークな品ばかり。ソフトドリンクもあるので老若男女お気軽に!
17:00~21:00(日は15:00~20:00)、木・金・土休。
☎なし
心躍るクラフトビールを一杯!『ルルルなビール』
2023年に開業したブルワリーパブ。心躍る店名は、店主の竹内躍人さんが会社員時代にビアテラスを企画した『るなぱあく』から一部拝借しているとか。毎日6種類の国内外のクラフトビールが飲めるが、現在こちらで作るのは「思案坂」。麦とホップが1種類ずつのシンプルなビールで、ひと口飲めば、うん苦いっ! でも爽やかな後味で心地よいのだ。
17:00~22:00(金・土・日は12:00~)、火休。
☎なし
街の“異景”すらアートに見えてくる
童謡『チューリップ』(作曲家・井上武士が前橋出身)のほのぼのした発車音に迎えられ、降り立った前橋駅。にぎわいのなさに不安になるが、これぞ典型的な地方都市。鉄道開通以前に栄えた街は中心地が駅から少し離れるもの。前橋も徳川家康より「関東の華」と呼ばれた前橋城の城下町として発展し、日本の近代化を支えた。
「明治期に絹の集積地だった前橋は、日本一外貨を稼いだ時もあったそうです」と教えてくれたのは、国道50号のケヤキ並木沿いに立つ『白井屋ホテル』の萩原沙希さん。その栄華を知る老舗旅館は2020年、多彩なアートと食が共生するホテルに生まれ変わった。敷地裏手の馬場川通りに出れば、植栽が茂る新館にもびっくり。水路と遊歩道、そして緑で覆われたビルが織り成す異景すらアートに見えてくる。
“異”と言えば『まえばしガレリア』もなんじゃこりゃ?な異物感。「街に開かれたアートをと始めて1年、昼は幼稚園児やお年寄りたちの散歩コースになっていて、夜は飲み屋のお兄さんがお客さんに説明してくれたりするんです。アートが日常に近づいているなと感じます」と代表の橋本薫さん。
街が教えてくれる、“中途半端”な面白み
しかしなぜ前橋でアートなのか? きっかけの1つは2013年開館の『アーツ前橋』だろう。「公立の美術館のない市でしたので、求める声が高まったんです。でも、民間の力も活発で、ちょうど同時発生的にいろんなものが生まれたんですよね」と同館の上田健司さん。建物はウネウネ曲がったパンチングメタルの外装が印象的。「街には著名な建築家による建築も多い。アートと建築は相性がいいんです」。
が、魅力は名建築だけにあらず。ここは昭和の博物館か! と興奮する商店街や路地、レトロな商店やバブルなビルが次々と。空き店舗の多さにそこはかとなく漂う廃墟感もいい味。そんな街角で壁画を描く人たちや小さなギャラリーと出合えた時の感動たるや!
アーケードは大きいが少しさみしい弁天通りには2022年に『BentenaSHOP』が開店。さまざまな人が交わる新しいコミュニティーの場となっている。「弁天通りは言ってみればB面の街だけど、店の外に席を出せて自由。東京で怒られそうなこともさせてもらえるんです」と代表の岩田真征さん。
散歩の締めの『ルルルなビール』では竹内躍人さんが言ってたっけ。「10年前にはない変化が起きている。自分も変化に携わりたいし見ていたい」。同感だ。過渡期の街、隙のある中途半端なこの面白さを味わうなら今しかない。
取材・文=下里康子 撮影=高野尚人
『散歩の達人』2024年10月号より