ハモニカ横丁の始まりからず〜っとこの場所で3代目
吉祥寺駅北口から徒歩1分ほど、小さな店がハーモニカの穴のようにびっしりとひしめき合うハモニカ横丁は、戦後に闇市としてスタートした。吉祥寺は「住みたい街ランキング」で常に上位を獲得するおしゃれなイメージになったが、ハモニカ横丁周辺は、今でもハンパない昭和臭を醸す不思議な雰囲気を残している。
この横丁の創成期である昭和26年、『珍来亭』は現在と同じ場所で営業を始めた。当時は店の隣もその隣もずっとラーメン屋というラーメン小路だったそうだ。その時代のことは知らないけれど、人であふれかえった道や店、湯気の立った熱々のラーメンがたくさんの人のお腹も心も満たしたんだろうなあ、なんて情景がぼんやりと頭に浮かぶ。
現在の店主は3代目。切り盛りするのは「珍来シスターズ」と呼ばれる飯田恭子さんと園江さんの姉妹だ。2人の祖父と母が創業し、祖父が亡くなった後は母一人の営業へ。一人では体力的に難しくなり始めた頃から、徐々に姉妹が手伝うようになった。素材が変化わったり、新たなメニューが加わったりということはあるが、創業当時の味をずっと守り続ける由緒正しき町中華だ。
狭めの店内だけど、テーブル席もしっかり確保
のれんをくぐったらすぐ1階のカウンター席。細い階段を上ると2階がテーブル席になっている。ひとつ一つの店の敷地が狭目なのもハーモニカ横丁の特徴だ。2階でオーダーが入ると2階のスタッフから1階の厨房にメニューを伝え、出来あがった料理は配膳用のエレベーターで運ばれてくる。
子ども連れの人にも便利なのが2階の小上がりの座敷。ゆっくり町中華で飲みたいという要望にもぴったりだ。ビールから始めて、つまみはメンマと味付け玉子。餃子や野菜炒めを頼みつつ、最後にシメでワンタンメン……などと考えるだけで至福だ。
町中華のイメージにドンピシャ!のラーメンと焼き餃子
オーダーしてから待つこと数分。湯気が立ち上るラーメンの到着だ。チャーシュー、メンマ、小松菜、海苔、ネギがのった王道のスタイルに、醤油の香りがふわ〜んと漂う。間違いない。コレ、おいしいやつだ。そうこうしている間に餃子も到着。役者が揃ったところで早速いただきま〜す。
店のオリジナル麺は、つるつるっとすすれてモチッとした食感が魅力。薄く脂の浮いた鶏ガラベースのスープはすっきりした旨味がたっぷりで、じんわりうまい。チャーシューは豚肉の塊で作っているため、そのときによってラーメンには違う部位がトッピングされるが、チャーシューメンと特製ラーメンにのるチャーシューは、肩ロースの中でも一番やわらかい希少部位のみ。ちょっとしたスペシャル感だ。
厚めの皮はムチムチっと弾力があり、中からは熱々のあんがじゅわ〜っ。餃子といえば思い浮かぶような「ザ・餃子」という感じ。ぜひとも醤油とラー油と酢のオーソドックスなタレで食べたい。サイズは大きいものの、毎朝手刻みするキャベツがたっぷり入っているから軽い食べごたえ。ひょいひょいと食べられる。全体的に脂っこさが少ないため、女性でもラーメンと餃子をオーダーしても食べ切れる。
受け継いだ味を守り続ける。珍来シスターズの思い
生まれも育ちも吉祥寺。ハモニカ横丁で遊び、店の手伝いは生活の一部だったという飯田姉妹。「体に染み付いた『おじいちゃんとお母さんの味』をこれからも守り続ける」と力強く話す。
ハモニカ横丁の始まりから70年以上。屋号、業態ともに変わらない店は今や2、3軒となった。ほっとするあたたかい味で、これからも暖簾を守って欲しい。
取材・⽂・撮影=ミヤウチマサコ