中野レンガ坂、そして『root』との“二毛作ラーメン屋”

JR中野駅の南口すぐにある中野レンガ坂商店街は、その名の通りゲートを潜ったら鮮やかな赤レンガを敷き詰めた道路が100mほど続く。その両側に立ち並ぶお店も、ビストロやワインバー、スペインバルを中心に、居酒屋や寿司屋も含め不思議と異国の雰囲気を思わせる街並みとなっている。その中ほどを過ぎたあたりに『LABO麺』、そして『ダイニングキッチンroot』の看板を掲げた一軒家はある。

メインの看板はあくまで『root』と見える。明るい木造店舗が街路に開けてなじんでいる。
メインの看板はあくまで『root』と見える。明るい木造店舗が街路に開けてなじんでいる。

元は2014年にオープンして、2020年4月頭まで熟成塩豚と古来種野菜のダイニングとして営業してきた『root』。しかし緊急事態宣言で営業自粛となると、なんと同月23日に「ランチのみの二毛作」という形で『LABO麺』をオープン。そんなに早くメニュー開発できるの?と驚くが、系列店で秋葉原にあるフレンチ『kufuku±(暮富食)』の竹中誠治シェフが開発をしたものの、こだわりすぎて未完成だったラーメンがあり、「こんな時期だから」と改めて向き合い直して完成させたのだという。

竹中シェフの思い描いた「必然性のある材料と調理法によるラーメン」と「フレンチのフュージョン」とは一体どんなものなのか。

普段はナチュール系のワインやクラフトビールなどが人気のカウンター。お昼は美味しいジャスミン茶サーバーが置かれる。
普段はナチュール系のワインやクラフトビールなどが人気のカウンター。お昼は美味しいジャスミン茶サーバーが置かれる。

「清湯豚骨白醤油拉麺」の名の通り澄んだ豚骨は優しくて鋭い

人気の特製焼売とのセット、小鉢は味変用の青唐辛子、テーブルに山椒オイルもある。
人気の特製焼売とのセット、小鉢は味変用の青唐辛子、テーブルに山椒オイルもある。

清湯豚骨白醤油拉麺、一瞬読むのを諦めそうになるが「清湯(ちんたん)」以降はそのまま読めばよかったようだ。通常白濁したスープである豚骨を、フレンチでコンソメスープを作る技法「クラリフェ」で透明に濾した。昆布の旨味(グルタミン酸)と豚骨(イノシン酸)のふたつのスープを合わせて鶏の粗挽きで凝固させているという贅沢な作り。そこに愛知県は『七福醸造』の白醤油をあわせて生まれた、旨味の露のような優しいスープだ。

大ぶりのジューシーな低温調理の塩豚チャーシュー も、フチに乗ったポルチーニ茸のヴルーテ(ペースト)も、澄み切ったそのスープだからこそ、手をかけて作られたひとつひとつの素材が鮮やかに香り、味わいが広がる。

さりげなく置かれた浅草開化楼の麺の木箱。低加水の特注麺は歯切れ良く香り良い。
さりげなく置かれた浅草開化楼の麺の木箱。低加水の特注麺は歯切れ良く香り良い。

間借りと言うには本気、フレンチ職人の情熱とアイデアがにじみ出る

店で調理を手がける稲田シェフ(左)と、ホールを担当する青柿さん。白醤油の説明の時の熱さが印象強い。
店で調理を手がける稲田シェフ(左)と、ホールを担当する青柿さん。白醤油の説明の時の熱さが印象強い。

今回いただいた定番の特製白醤油ラーメンのほか、ヴァリエーションに富んだ季節限定のラーメンがあり、それを楽しみに定期的に訪れる常連さんも多いよう。実際、若いカップルのほか、リピーターとおぼしき初老の男性も限定メニューを啜っていた。また人気の一品である焼売は、手切りのミンチの食感と粗挽きミンチの滑らかな口当たりに、『浅草開化楼』の特製の皮をつかって蒸しあげた大粒の肉感。これが満足度を押し上げる。

ラーメンと本気で向き合ったフレンチ竹中シェフ、そしてスタッフの真摯な想い。見た目は「おしゃれ」な店である。しかし、その正体は情熱から生まれる本気のカッコよさなのだ。そしてこのラーメンはディナー営業の『root』でもコースのシメの料理として食べられるとのこと。

『LABO』から生まれた新しいラーメンのこれからを明るい気持ちで見守っていきたいと思うのだった。

取材・文=畠山美咲 撮影=荒川千波