こだわり強すぎ百花繚乱のパン天国

「ここ最近、三鷹には甘い香りが漂っている」。そんな噂を聞きつけ界隈を歩いてみれば、あるわあるわ、パン屋さん! 特に顕著なのは北口の三谷通り周辺だ。『COLOR』に『西久保ベーカリー』、『Pineapple field』などこの数年で次々にオープンしたが、どの店も「たまたま場所とタイミングが近かった」という。しかし、店ごとのこだわりはどこも違いがくっきり。

『COLOR』は「食事や気分に合わせてご提案」がモットー。店主の山崎数正さんは「最近は、『今日の献立これなのよ』と、お客様の方から合わせるパンの相談を受けるようになりました」と、笑う。また、『西久保ベーカリー』の天然酵母の食パンは毎日食べても飽き知らず。『Pineapple field』はサンドイッチゆえ、それ単体で食事として成立と、各々コンセプトがはっきり。棲み分けできている。

しかし、店が個性的となると、それを選ぶ側だって悩ましいはず。もしかしたら、三鷹の人々は高感度の“パンアンテナ”を持つのかもしれない。「それはあると思います」とは、『Bakery MIDMOST(ミッドモースト)』の徳永景介さん。「私たちの方が驚かされるくらい、パンの知識が豊かな方が多いですね。パン屋をはしごして食べ比べをしている方もよく見かけます」。好きなものへの知識に貪欲だなんて、なんとも中央線らしい話ではないか。

三鷹駅北口から少し歩くと、西久保公園がある。ベンチが多く、食事をしている人もちらほら。手に入れたパンを、ピクニック気分で食べるのもまた楽しい。
三鷹駅北口から少し歩くと、西久保公園がある。ベンチが多く、食事をしている人もちらほら。手に入れたパンを、ピクニック気分で食べるのもまた楽しい。

さて、パン屋に負けじとカフェも個性豊かな新店が増えたことに触れねばなるまい。『UNITÉ』は、購入した本を片手にコーヒーが飲めるブックカフェ。店主の大森皓太さんは「この街は文化的で、ちょっと余裕のある人が多いですね」と、語る。「文化的」と言えば『go café and coffeeroastery』の山本剛さんは写真家だ。
「焙煎作業が、暗室作業に似ているんです」と、独特の感性で異なる仕事を結びつけている。そんな山本さん、「北口の『Rowans coffee』、行きました? 仲良くさせてもらってて」

そう言われるがまま足を運ぶと、そこは常連が入れ替わり立ち替わり顔を出す、地域の社交場だった。「周りを見ると、『これがやりたい』と信念を持った店主さんが多い。そして、そういう店を大切にする人がたくさん暮らしている」とは、店主のYukoさん。やっぱり、街全体がお店を支えていると言えそうだ。

店主はこだわり強し。住民も情報感度高し。これらがマッチングして、三鷹の街にはこれからも個性豊かな店が増えていくに違いない。

【個性豊かな店たちを街全体が支えている】

パンと一緒に新鮮な果物はいかが?『一富士フルーツ』/『Café Ichifuji』

2022年OPEN。
2022年OPEN。
パンのおともに。
パンのおともに。

1956年創業の果物店。代表の田中眞紀子さんは「果物をもっと身近に」と、すぐ近くにカフェもオープンした。果物たっぷりのトーストセット800円で朝ごはん。ジャムもおみやげに◎。

・8:30~19:00、水休。☎0422-43-6554
・Caféは9:00~19:30、水・木休。☎0422-24-9001

自家製パンと国産ワインがウリ『パンとワインCASK』

2022年OPEN。
2022年OPEN。

「焼きたての香ばしさを味わってほしくて」とは、代表の鈴木健司さん。パンをしっかり楽しむならモーニング。人気のハムたまごトースト700円のふんわり食感に頬が緩む。ディナーで自慢の国産ワインと食べ放題のパンを合わせるのも楽しい。

・8:00~23:00、無休。☎0422-24-9920

読書にひたる、静寂のブックカフェ『UNITÉ』

2022年OPEN。
2022年OPEN。
店主の大森皓太さん。
店主の大森皓太さん。

店主の大森皓太さんは「購入した本をその場で読んで、愛着を持ってもらいたい」と、ブックカフェを開業。内装業者から譲り受けたアンティークや床板で作った本棚など、木の温もりがある内装に囲まれながら、コーヒーと読書に耽(ふけ)る贅沢(ぜいたく)な時間を。

・13:00~21:00、不定休。☎なし

洗練された気軽さの絶妙なバランス感『Bakery MIDMOST』

2021年OPEN。
2021年OPEN。
「毎日買いに来てくれるお客様も多いです」。
「毎日買いに来てくれるお客様も多いです」。
ズラリと並ぶ『Bakery MIDMOST』のパン。どれも魅力的で悩ましい~。
ズラリと並ぶ『Bakery MIDMOST』のパン。どれも魅力的で悩ましい~。

フランスで写真家をしていた店主の徳永景介さんは、現地のパンにハマり、修業を開始。所狭しと並ぶパンは「ハレの日でなく、日常づかいに」と、派手ではないがこじゃれてキュート。軽い口当たりとストレートな味わいがクセになる。

・9:00~17:00(売り切れ次第閉店)、月・火休。☎0422-26-5941

おすすめはコレ

クロワッサン230円。
かじりつけば、サクサクで軽やかな食感に驚かされる。

くりーむぱん230円。
もちっと柔らかな生地の中に、カスタードクリームがたっぷり。

ダブルショコラ300円。
ふんわり生地に隠れた、とろとろのショコラの甘みにうっとり。

素朴な見た目ながら、力強い風味『西久保ベーカリー』

2022年OPEN。
2022年OPEN。

「喫茶店にしようか迷ったんです」とは、店主の長友千絵子さん。「毎日の暮らしに直結するものを」と、ベーカリーを選んだ。自信作のアップルパイや自家製酵母の食パンなど、素材の風味を感じられる品が並ぶ。

・11:00~13:00・16:00~18:00、水・木・第2・4金休。☎0422-27-7509

おすすめはコレ

木の葉のアップルパイ280円。
紅玉リンゴを包むサクサクのパイ生地は、3日かけて作っている。

自家製酵母のフランス食パン390円。
噛めば噛むほど味の深みが増す。料理と合わせやすい風味のパン。

かもめシナモンロール200円。
カルダモン入りの生地がふわもち食感。シナモンの香りが抜ける。

香ばしい香りに包まれてひと休み『go café and coffee roastery』

2022年OPEN。
2022年OPEN。

店内に一歩入ると、自家焙煎の豆の香りが鼻を抜ける。「豆は週替わりで入れ替え。常に8~10種は用意しています」と、店主の山本剛さん。看板ブレンドのバロウズ600円にビスコッティ350円を合わせて、ひと休み。

・11:00~18:30、火・水休。☎050-8883-6614

カフェバーでのんびりする心地よさ『ANPU』

2022年OPEN。
2022年OPEN。

「夜カフェを楽しんでほしくて」とは、店主の吉田浩太郎さん。酒もあるが、コーヒーもおすすめなのだ。妻・さやかさんが「なぜか人気」と笑うのがウインナーコーヒー700円。レモンの酸味効いたクレープ750円と相性抜群。

・11:30~23:30(日は~21:00)、月休(祝の場合は営業し、翌火休)。☎0422-66-2002

見目麗しき総菜サンドの数々『Pineapple field』

2021年OPEN。
2021年OPEN。
どのサンドも具材たっぷり。シェアしても楽しい!
どのサンドも具材たっぷり。シェアしても楽しい!

専業主婦だった店主の加藤圭子さんは、「自分の一番得意な料理を活かして店をやりたい」と、サンドイッチ専門店を開業した。加藤さん大好物のパイナップルをソースに使った総菜サンドの数々は、食べ口軽やかながらしっかり腹にたまり、大満足。

・10:00~18:00、月・火休。☎070-3871-0817

おすすめはコレ

生パイン470円。
分厚いパインのフレッシュな味わいをクリームの甘さが包み込む。

ヒレカツカレー500円。
カレーにもパイナップルを使用。ヒレカツも柔らかく食べやすい。

嗚呼、抗えぬクラフトビールの誘惑『Beer shop Llama』

2019年OPEN。パンのおともに。
2019年OPEN。パンのおともに。
ドラフトも10タップ用意しているよ!
ドラフトも10タップ用意しているよ!

まず目に飛び込むのはズラリ並んだクラフトビール。国内外合わせて約200種類を取り揃えている。「鉄板ものより、ニッチなものを」とは、店主の宇野祐樹さん。奥へ進めば、洞窟のような角打ちスペースも。隠れ家的な風情が背徳感をチョイ増しする。

・15:00~23:00、月休。☎0422-24-7757

配合で異なる風味にチャレンジする『COLOR』

2022年OPEN。
2022年OPEN。

看板はハード系パン。よく見ると、ライ麦や全粒粉など、配合の違うものがたくさん並んでいる。「細かい風味の違いを色々試してほしくて」と、店主の山崎数正さん。その日の食卓に合うパンのアドバイスもしてくれる、ワンランク上の生活密着型ベーカリーだ。

・8:00~19:00、日・月休。☎なし

おすすめはコレ

シン・キノコ450円。
バゲットにたっぷりキノコとホワイトソース、チーズがのった、なんとも豪勢な一品。

クロワッサン250円。
「やっぱり、人気です」と、山崎さん。口にした瞬間に広がるバターの風味は至福。

ライ麦50%全粒粉50% 大850円、小450円。
切った瞬間、ライ麦の芳香ふわり。柔らかな食感で、噛めば噛むほど甘みが増す。

バゲット340円。
外はカリカリ中しっとり。小麦の香りがぐっと後を引き、食事ともよく合う。

地域住民の社交場的なアットホーム空間『Rowans coffee』

2021年OPEN。「カフェラテもいいけど、渾身のブレンドもぜひ召し上がれ」。
2021年OPEN。「カフェラテもいいけど、渾身のブレンドもぜひ召し上がれ」。
毎日通うというご近所の常連さんもホッ。
毎日通うというご近所の常連さんもホッ。

クラフト感強い店内は「知人からのもらい物で造りました」と、店主のYukoさん。ラテ610円と抹茶ホワイトチョコとゆずのパウンドケーキ500円でひと息つくと「ただいま~」と常連衆が集合し、ワイワイ。まるで実家のような居心地だ。

取材・文=高橋健太(teamまめ) 撮影=高野尚人
『散歩の達人』2023年2月号より