【1日目】ほのぼの童話の町から鉄の町へ
新花巻駅
盛岡から北上川に沿って南下して、まずは宮沢賢治のふるさと、花巻市の『宮沢賢治記念館』と『宮沢賢治童話村 賢治の学校』を訪ねた。
記念館は『雨ニモマケズ』と同じ手帳に書かれた『経埋(きょううず)ムベキ山』の一つ・胡四王山(こしおうざん)という里山にあり、童話村周辺も含めた一帯は、自然豊かな環境で、散策しても心地よい。
賢治が童話作家や詩人のほか、多くの肩書きをもっていたことを知る人も多いと思うが、記念館はマルチな賢治の生涯を科学、芸術など5つに分類した解説や資料で紹介している。童話の世界の、かわいい、やさしいだけではないどこか不思議な雰囲気は、幅広い知識によるものだったのか。そして賢治の学校では、作品にちなむアート作品などが展示され、イマジネーションに訴えかける。対照的な2つの手法で見てみると、賢治を今まで以上に近く感じられた。
宮沢賢治記念館
短くも多才だった賢治の生涯
童話作家、詩人としてだけでなく農業、科学ほか幅広い分野に長(た)けた宮沢賢治。
「心象」を軸に「科学」「芸術」「宙(そら)」「祈」「農」の5つの分野から賢治像に迫る常設展示のほか、期間限定で貴重な資料も登場する特別展示も見逃せない。
宮沢賢治童話村 賢治の学校
感覚でふれる賢治の世界
空間や音、光など、五感で賢治の世界を感じられる展示で、鏡を使った巨大な万華鏡のような空間や大きなぬいぐるみの昆虫がいる部屋ほか、言葉で紡がれる日常とは別世界。広大な敷地内には散歩コースや山野草園も。
釜石駅
再び列車に乗って三陸へ。釜石線の車窓は、のどかな風景、産業技術遺産の石積みの橋脚やレンガ造りの隧道(ずいどう)に、釜石線最大の難所、上有住(かみありす) 〜陸中大橋間の高低差、鉄鉱石の運搬に使われたホッパーなど飽きることがない。
釜石に降り立ち、釜石湾の奥から太平洋を見つめる釜石大観音(だいかんのん)に向かう。12階分の階段を上って、海抜120mの魚籃(ぎょらん)展望台からの景色も忘れずに。大観音のすぐ横にある仏舎利(ぶっしゃり) 塔には、スリランカから寄贈されたという貴重な釈迦の遺骨が眠る。現物を拝むことはできないが、お参りすれば三世の因縁が消えるという。
釜石大観音から鉄の歴史館へは坂道を歩いて行く。安政4年(1858)に日本初の洋式高炉による鉄の連続出銑(しゅっせん)に成功した歴史や、世界文化遺産に登録された橋野鉄鉱山のある釜石を中心に、鉄文化の発祥や伝来から、現代に至るまでを見ることができる。鉄になじみが薄いと尻込みしがちな人にも、そうでない人にもおすすめしたいのが解説。世界遺産登録にも関わった館長補佐・森一欽(かずよし)さんが「時間が合えば」ではあるが、予約でも当日でも対応してくれる。鉄の世界が面白くなること請け合いだ。
釜石大観音
海を見守る柔和な顔の白亜の観音像
幽界・明界の平和を祈り、明峰山石應禅寺(めいほうざんせきおうぜんじ)の発願で建造された、胸に魚を抱く高さ48.5mの観音像。内部には拝殿のほか、さまざまな観音像や七福神を祀り、魚籃(ぎょらん)展望台からは釜石湾の景色を望む。
鉄の歴史館
鉄の始まりから現代の産業まで
鉄の歴史、文化を映像、模型、資料で伝える資料館。近代製鉄の父といわれる大島高任(たかとう)ら、先人たちの偉業や、世界文化遺産「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」に登録の橋野鉄鉱山なども紹介。
浪板海岸駅
今宵の宿は『三陸花ホテル はまぎく』。駅近、海近、美味なる料理に大満足。毛ガニ一杯を独占し、ひとり旅の贅沢感が倍増する。夜に聞こえる潮騒(しおさい)、朝日が彩る浪板海岸の景色もごちそうだ。
三陸花ホテル はまぎく
三陸をたっぷり味わう潮騒の宿
浪板海岸の目の前に立ち、海側には青く美しい船越湾、山側にはかつて船が目印にしていたという鯨山や三陸鉄道の走行風景を望む。地元食材を丁寧に料理した食事が魅力的な滞在型リゾートホテルで、館内にはジムも備える。
【2日目】山田湾~浄土ヶ浜に震災復興のエネルギーと海の恵みを感じる
陸中山田駅
翌日は山田町へ。地形上、トンネルの多い三陸鉄道だが、大槌(おおつち)、山田周辺は海が見える。山田町の中心部が面する山田湾は、リアス海岸のなかでも沖が見えないほど湾口が狭いが、ここにも津波は襲来した。壊滅的な被害を受けても「震災前よりいい町にしよう」と、新生やまだ商店街協同組合が結成され、活動の一環として震災やかつての町並み、復興の様子を伝えるガイド活動も行っている。代表理事の昆(こん)尚人(なおと)さんも、自身の経験談を交えながら町を案内してくれる。10年経った今も復興途上にある被災地、新しい防潮堤の高さに人々が負った心の傷を思いつつも、立ち上がろうとする元気をこちらもいただいた。
山田町震災ガイド&まち歩き
復興するまちのエネルギーを体感
陸中山田駅を中心に、タブレットで震災や過去の画像も見ながら、現在の復興の様子や町の景色を体感する。ガイド内容は参加者の興味やスケジュールに合わせて構成。ガイドさん自身のリアルな体験談も聞くことができる。
☎0193-77-3732(新生やまだ商店街協同組合)/曜日・時間は要相談(1週間前までに要予約)/2時間まで5000円(延長1時間ごとに1000円追加)/岩手県下閉伊郡山田町内集合/三陸鉄道リアス線陸中山田駅下車すぐ
宮古駅
旅の最後は宮古へ。いきのいい海産物が並ぶ『宮古市魚菜(ぎょさい)市場』の、地元ファンも多い『丼(どんぶり)の店 おいかわ』で、参加飲食店が思い思いの具で作る体験型ご当地丼プロジェクト、「瓶ドン」の鮭宝(さけだから)を味わう。白飯の上に宮古産イクラの自家製醬油漬けや厳選した紅鮭のほぐし身が山盛りで、味も極上。至福!
絶景の浄土ヶ浜を拝んでから帰路に就く。秘境感たっぷりの山田線は、乗っている自分には見えないけれど、日没後の闇を移動する車両の明かりは、きっと『銀河鉄道の夜』のイメージと重なるだろう。ジョバンニのように「どこまでも」は行けないが、盛岡までの時間を、静かに繰り返す列車の音に身をゆだねた。
宮古市魚菜(ぎょさい)市場
地元の食がここに大集合
長く市民の台所として愛されてきたが、今や宮古を代表する観光地でもある。鮮魚、農作物、お菓子などを販売する店が並ぶ。食堂や、購入したものでバーベキューができるスペースもある。
丼の店 おいかわ
浄土ヶ浜
白い岩が造る波穏やかな美しい浜
緑の松をいただいた白い岩と、透きとおった青い海が美しい、三陸ジオパークを代表する景勝地。約4000万年前に一帯が隆起し、波で侵食されて今の形ができあがった。日本の渚100選などにもなっている。
Course
1日目
盛岡駅→(列車40分)→新花巻駅→(車3分)→宮沢賢治記念館→(車3分)→宮沢賢治童話村 賢治の学校→(車3分)→新花巻駅→(列車1時間35分)→釜石駅→(車5分)→釜石大観音→(徒歩15分)→鉄の歴史館→(車5分)→釜石駅→(列車26分)→浪板海岸駅→(徒歩5分)→三陸花ホテル はまぎく(泊)
2日目
三陸花ホテル はまぎく→(徒歩5分)→浪板海岸駅→(列車18分)→陸中山田駅→(徒歩すぐ)→山田町震災ガイド&まち歩き→(徒歩すぐ)→陸中山田駅→(列車38分)→宮古駅→(徒歩13分)→宮古市魚菜市場→(車20分)→浄土ヶ浜→(車20分)→宮古駅→(列車2時間20分)→盛岡駅
観光の問合わせ
岩手県観光協会☎019-651-0626/花巻観光協会☎0198-29-4522/釜石観光物産協会☎0193-22-5835/大槌町観光交流協会☎0193-42-5121/山田町観光協会☎0193-65-7901/宮古観光文化交流協会☎0193-62-3534/東北デスティネーションキャンペーン(2021年4~9月開催)公式サイト https://www.tohokukanko.jp/dc/
取材・文=平野智子 撮影=川代大輔