体にいいものを提供したい
JR日暮里駅から徒歩数分、「薬膳カレー」という赤いのぼりがはためいている。ドアを開けて中に入ると、木の壁が温かい雰囲気を醸す空間で、店長の田中和裕さんが笑顔で出迎えてくれた。
『薬膳カレー じねんじょ』がオープンしたのは1988年。店のオーナーであり社長の髙岡治美さんが食事療法や呼吸療法に詳しかったこともあり、「心身のバランスを取り戻せるもの」「体にいいもの」を提供したい、という思いでの開業だった。
「摂食障害やアレルギー体質の方も、カレーなら食べられるのではないか……と考えたそうです」と田中さん。社長・髙岡さんは当時飲食店経営は未経験だったが、スタッフと試行錯誤し、力を合わせてこの薬膳カレーを完成させた。
「基本のルーは、化学調味料やバター・ラードなどは一切使っていません。カキノハ、クワノハ、ビワノハ、スギナ、アシタバという5種の奥多摩産の薬草を乾燥し粉末にしたものを入れています」と田中さん。その他にもスパイス12種類、野菜も12種類! また、『じねんじょ』という店名の通り、山芋の粉末も入っている。茨城にある社長・髙岡さんの地元では民間療法でヤマイモをおかゆにして精をつけていたことからヒントを得たのだとか。
ルーの旨さ、具材の楽しさ
今回いただくのは、薬膳特製カレー。平日は夜のみ、土・日・祝日は昼と夜どちらも提供している看板メニューだ(平日の昼には、ご飯とカレーを一皿に盛ったランチメニューがある)。
まずはこの彩り豊かな見た目に驚く。ルーの上に乗っているのは、高麗人参、サンザシ、ナツメ、ハスノミ、ユリネ、そのほかニンジンやカボチャ、ブロッコリー、しめじ。さらに、疲労回復効果のあるヤマイモと黒ごまもトッピングされているのだ!
ルーはサラサラで、スパイスが効いているけれど辛すぎることもなく旨味がある。「体にいい」「薬膳」と聞くとあんまりおいしくなさそうなイメージを持つ方もいるかもしれないが、全くそんなことはなし。むしろ、スープカレー好きはもちろん、スパイスカレー好きにも、欧風カレー好きにもすすめたくなるような、不思議な味わいだ。
具材も先述の通りバラエティ豊富だから、口に運ぶたびに違った味と食感を楽しめて全く飽きない! 卓上にある自家製の大豆の酢漬けも相性抜群なのでぜひ試してみてほしい。
また、辛いものが得意ではない方でも十分食べられる辛さだが、心配であれば注文時に甘口希望と伝えればミルクを加えて煮込んでもらえる。いざ食べ始めてみたら「わ!辛い!」となった場合でも、追加でミルクをもらうこともできるというからありがたい。
正真正銘、“元気になる”カレー
「体にいいものを」という思いから生まれた、元気が沸く一皿。実は店長の田中さんも、この薬膳カレーに元気をもらった一人だ。
「体調を崩して前の職場を辞めた後、谷中に住んでいた友人に連れられたのがきっかけでした。ここのカレーを食べるようになってから、みるみる元気になったんです」
その頃ちょうどお店もスタッフ募集していたことからオーナーのもとで働き始め、2009年からは店長を務めている。店内には田中さんの明るい接客の声が響き、それだけでも元気をもらえそうなほどだ。
しかし、今でこそ薬膳カレーを銘打つ店を見かけるものの、オープン当初は全く一般的ではなかったはず。
「当時は、すっぽんか何か入っているのか?と思われたことも多かったみたいです」と田中さん。ゼロからスタートした“元気になるカレー”はその後じわじわと認知され、評価されてきたのだ。そして、この一皿のおかげでたくさんの人が元気になってきたからこそ、こうして今も続いているのだろう。
おいしいものを食べて元気になりたいときは、『薬膳カレー じねんじょ』のランチで決まり!
『薬膳カレー じねんじょ』店舗詳細
取材・文・撮影=中村こより