自園・自製・自販、これが狭山茶のキーワード。自分で栽培し、製造し、販売する。多くの狭山茶園がこのスタイルを取るが、多くを分業化した静岡茶との差はここに決定的なのである。高い知名度をよそにその生産量は思いのほか少なく、日本茶国内生産量のわずか2%のみ。しかしこだわりの強い農家が多く、訪ねた茶園の数だけ味があって人がいる。みなが、お茶を語る。淹れたてのコクのある緑茶をいただきつつ、その話に耳を傾けるのはとても愉しい。帰路、斜光に照らされる茶畑の夕景がまた滋味なのだ。
5代目のお茶トークに深くうなづく。『横田園』[新狭山]
“顔の見えるお茶作り”がモットーの『横田園』は、5代目横田泰宏さんと若き茶師である6代目貴弘さんの親子コンビで地元の評判が高い茶園だ。茶業一本に絞ってお茶を生産する典型的な自園農家で、居心地のいい店先の囲炉裏では「このお茶はこうして飲むとおいしくなりますよ」という日本茶のイロハをじつにていねいに教えてくれる。地元産の米粉と卵を使用したシフォンケーキも美味。
『横田園』店舗詳細
霞川のほとりに広がる老舗茶園。『中島園』[入間市]
やまきゅう『中島園』は入間市根岸地区の草分けで、寛永年間よりなんと約 400年の長い歴史を誇る老舗農家だ。現当主の中島敏雄さんで15代を数え、現在は16代目の克典さんを柱に狭山茶生産農家としては最大級の製茶工場で狭山茶を生産する。基本に忠実な「ひとがホッとできるお茶作り」を心がけている。要望があれば工場見学も可能とのことなので、その際はぜひ電話にて連絡を。
『中島園』店舗詳細
参加型農園で狭山茶を知ろう。『宮野園』[入曽]
人手や時間など農業体験の実施はどうしても個々の農家の負担が高いが、あえてそれを売りにする“攻めている”茶園がここ『宮野園』だ。日本茶インストラクターの資格を持つ宮野圭司さんは「お茶を楽しむことを提供する」茶園であるために、お茶摘み体験や淹れ方教室などのイベントを積極的に行うことで狭山茶を盛り上げている。気を使わずに気軽に日本茶を飲んでほしい、の言葉が頼もしい。
『宮野園』店舗詳細
狭山茶唯一の有機・無農薬栽培。『増岡園』[入間市]
まるしん『増岡園』は約400年続く茶農園だが、その取り組みは先取的だ。有機・無農薬栽培に取り組む埼玉県唯一のJAS認定茶園で、天然資材の肥料にこだわる一方、なるべくそれらを使わないことで健康な茶葉を作る努力を怠っていない。旨味よりも香りや甘みを大切にし、見た目も濃緑さより香りの持続を重視しているという。「自然の木に近い状態でこそ茶木も健康なのです」と話してくれた。
『増岡園』店舗詳細
/定休日:無/アクセス:西武鉄道池袋線入間市駅から西武バス「河辺駅北口」行き15分の「上谷ヶ貫」下車3分
取材・文=宮崎正行 撮影=小澤義人