毎朝、父が母のためにつくったチャイが原体験
チャイといえば、アッサムティーとミルク、複数のスパイスを合わせて煮出したインドのお茶。日本でも多くのカフェで提供され、体が温まる、リラックスできるなどの効能への期待もあって、メニューに見つけると頼みたくなる。
『モクシャチャイ』代表、大久保カプール玲夫奈(おおくぼ カプール れおな)さんは、毎朝、インド人の父が日本人の母にチャイを淹れる光景を見て育った。それが自分の原体験だという。
「母は朝5時に職場に向かうこともあるのですが、父は必ず毎朝チャイを作っていました。しかもスパイスは母の体調に合わせてブレンドします」
子供のころは、両親がチャイを手に話す姿を、当たり前のように見ていた。バタバタと忙しい朝にチャイを淹れて飲む時間を確保することが、いかに難しいことか理解できたのは大人になってからのこと。
「両親が朝にチャイを飲む習慣で作りだしていたような時間があれば、忙しくても家族がうまくいくのではないかと考えました」
もうひとつ、お茶を飲む習慣について考えることになったのは、イタリアでの経験だ。大久保さんは社会人になってから、イタリアで約7年を過ごした。イタリアといえばエスプレッソ文化。1日に何度もエスプレッソを飲みにバールを訪れては隣り合った人と会話する姿を目にした。それは、何度も訪れた父の故郷、インドの街で人々がチャイを飲む姿と共通していた。
「エスプレッソとチャイは、コミュニケーションのお供みたいなところが共通しています。インドでは主に男性ですが、1日に何度もチャイ屋さんでチャイを飲みながら世間話をするんですよ」
日本に戻ってみると、ペットボトルなどでお茶を飲む習慣はあるけれど、コミュニケーションが伴っていないことに気がついた。特にコロナ禍前の日本では、仕事が何より優先。残業や会社の付き合いも多く、家族や友達との時間は後回しという風潮があった。
「僕が提供したいのは時間です。家族や友人とのコミュニケーションの時間を、もっと日本でも作ってもらいたい。それがチャイの販売につながりました」
飲みながら感じたい! スパイスの香りと効果
『モクシャチャイ』のロイヤルマサラチャイには、インドから輸入したシナモン、カルダモン、ジンジャー、ブラックペッパー、クローブの5つがブレンドされている。茶葉は、アッサムティーを、クラッシュ・ティアーズ・アンド・カール(CTC)に加工したものを使う。ミルクと一緒に煮出してもお茶のエキスが抽出されやすい茶葉だ。出来上がったチャイには砂糖も入っている。
ロイヤルマサラチャイは、スパイスの香りはもちろん、身体がポカポカする効能も感じながらゆっくり飲みたい。大久保さんによれば、最初はカルダモンの香り、それからシナモンの甘い香り、そしてクローブの深みのある香りが感じられる。徐々に身体が温まってくるのは、ジンジャーとブラックペッパーのおかげとのこと。ジンジャーのピリッとした辛さも心地よい。
人気NO.1は、チャイづくしなセットメニュー
ドリンク以外のメニューも充実している。チャイの味わいを欲張りに試したいなら人気No.1のジェラート&焼きドーナツ ドリンクセットがおすすめ。ジェラートはチャイ味とチョコミント味から選べる。焼きドーナツはチャイのほかレモンなどがあり、その日によって種類が変わる。
さくらんぼがアクセントになっているチャイのジェラートは、ジェラート専門店にチャイの茶葉を提供して、職人に作ってもらったもの。さっぱりした味で、爽やかなチャイの香りが感じられる。
焼きドーナツも、専門店にチャイを卸して専用に作ってもらっている。温め直して提供される焼きドーナツは外側がさっくり、中身はふんわりした絶妙な食感のコンビネーション。手土産にも良さそうだ。
『モクシャチャイ』は、カフェより先に、茶葉とスパイスをミックスした状態のリーフティーや、電子レンジでも簡単にチャイを作れるティーバッグの販売からスタートした。現在も自宅やオフィスで手軽にチャイが淹れられる茶葉から、チャイ用のホールスパイスを詰め合わせたキットなどが販売されている。ふた月に1度程度、店内でチャイを作るワークショップも行っているので、自宅でチャイを作ってみたくなったら参加してみるのもいいだろう。
モクシャとはインドの公用語のひとつ、サンスクリット語で、解脱や開放を意味する言葉。チャイをきっかけにストレスから開放されて、リラックスして欲しいという気持ちで名付けられた。
「スパイスは元々生薬。薬のような要素もあります。体がぽかぽかしたり、元気になったりすしますよ」と大久保さん。一杯のチャイを飲んでほっとする時間は、家族との暮らしや健康について改めて考えるきっかけをくれそうだ。
取材・撮影・文=野崎さおり