使っていた水が温泉だと発覚!
『中野寿湯温泉』の創業は昭和26年。現在、お店を守っているのは店主の小林昭夫さんだ。
「親父が銭湯を初めて、私が2代目なんだけど、今の所跡取りはいなくてね。だから、年を取ってきたけど、私の体が持つ限り一生懸命頑張りたいですよ」と語る。
貴重な温泉銭湯。少しでも長く続いて欲しいと勝手ながら願ってしまう。
広くはない館内だが、清掃が行き届いている。
「特別な設備があるわけじゃないから、掃除だけは気持ちを込めてマメにやってますよ」と小林さん。
銭湯は、体を全て預ける場所なので、古くとも綺麗なのは嬉しい。
こちらの特徴であるお湯は「メタケイ酸」という成分が含まれた温泉。
無色透明で、匂いや味もないので、万人が安心して入れる泉質だ。
メタケイ酸は、潤い肌用の化粧水や、しっとり感を売りにする入浴剤にも含まれている成分で、肌の新陳代謝を促す働きがある。
「開業当時から温泉を謳っていたわけではないんですよ。地下水を使っているんですが、十数年前にその水質を調べたら温泉だということがわかったんです」と小林さん。
常連客からも「体がよく温まるお湯だね」と好評の声も多いという。
完成後に浴槽を取り壊すこだわり
立って入れるほどの深い浴槽に、座湯と寝湯など。こぢんまりしていながらも浴槽のバリエーションは豊富だ。
小林さんによれば「狭い敷地ですが、家では体験できない入浴を体験してもらいたくて、浴槽にはこだわりました。一度完成したんですが、洗い場の通路が広く取られていて浴槽が狭く感じたので、一度壊して作り直してもらったんですよ」とのこと。
それぞれの入浴スタイルでゆっくり入るもよし、全てを試してみるのも楽しいだろう。
座湯や寝湯に体をあずけ、天井を見上げると心地よい開放感が得られる。
「最近はビル型銭湯も増えてきました。そうした銭湯はどうしても天井が低くなってしまうんですが、うちは上の階がないので、昔ながらの銭湯のように天井を高く作っています。最新の設備はありませんが、この開放感は売りだと思っています」と小林さん。
天井が高い銭湯でも、その高さゆえに掃除が行き届かず、天井に汚れが目立つこともあるが、こちらは綺麗にされているので気分も良い。
湯温は41~42度。江戸っ子気質の残る、古い銭湯文化では熱い湯が好まれるためかつては44度ほどにしていたというが時代に合わせて変化してきた。
「温度を下げた頃は、昔からの常連さんが浴室から『ぬるいぞ~!』なんて大声で呼ばれることもありました(笑)」と小林さんは笑いながら回顧する。
店主の人柄が伝わるサウナとロビー
『中野寿湯温泉』には、小さいながらもサウナがついている。近隣にもサウナ付き銭湯はあるが、500円程度の別料金がかかる。しかしこちらのサウナは、最近まで入浴料にプラス200円という安さで提供されていた。
※昨今の燃料費高騰を受けて、現在は250円。
「サウナは30年前くらいに作って、最初は350円だったんですけど、お客様からの要望があって200円にしたんです。広くはないけど、安いので気軽にたくさん来てくれます」と話す小林さんに、サウナブームの到来で変化があったのかについても聞いてみた。
「若いお客様が増えましたね。早めの時間に地元の常連さんが来て、遅い時間は若い方がおおくなりました」
ロビーには漫画だけでなく、DVDがずらりと揃っている。小林さんは「お客様に楽しんでもらうためですよ」と話すが、サウナの値下げといい、利用者の要望を受け止め誠実に応えていることが伺える。
そんな小林さんの優しさは、取材後にも。
筆者が片付けをしていると、「甘いもの食べない?」と美味しいシュークリームを出してくださった。
『中野寿湯温泉』へ、お風呂やサウナだけでなく、人柄と温もりを感じにいってみるのもいいかもしれない。
取材・文・撮影=Mr.tsubaking