一橋学園にある永福町発祥の「一ツ橋大勝軒」の1.5玉のラーメン。
あそこのラーメンが食べたいと妻を誘いチャリを走らせる息子のいない土曜日。少し上り坂の青梅街道を腰を浮かせ汗ばみながらペダルを漕ぎ辿り着く一橋学園南口商店会の国土交通大学校の方へ渡る踏切の袂。
その角地にたたずむ小さなお店をぐるりと囲う大きく迫り出す黄色のテントに「和風だしラーメン 大勝軒」。1969年からこの場所にある「一ツ橋大勝軒」。
40年以上この場所で和風だしのラーメンを作り続けた創業者は数年前に引退し、店を引き継ぐお弟子さんが切り盛りする永福町系と言われる「大勝軒」。
建物に沿う狭いスペースになんとか自転車を停めて覗く店内は満席。そのままテントの下で待つとぽつぽつと自転車で来店する後客。手慣れた客は駐輪できないと線路の向こうに消え自転車をどこかに停めて戻ってくる。
しばらく待ち席が空きどうぞと手招きを受け反対側の出入り口から引き戸を開けてこんにちは。狭小の厨房と囲うLの8席ほどのカウンターの余白のない店内。もぞもぞと上着を脱ぎ、荷物を足元に押し込み席に着く。
いただく大ぶりなグラスのお冷の重みに永福町を実感し眺めるメニュー。書かれる「急な発熱などで氷が必要な場合はいつでもあります。お気軽にどうぞ。」のまだ製氷機が珍しい時代に導入した店に夜間子供が発熱したお母さんが氷を分けてもらえないかと駆け込んだ時から始まったという永福町の伝統。
普通扱いの麺1.5玉のラーメンをお願いする。薫る煮干を嗅ぎ眺める厨房。たぶんご夫婦。物腰柔らかな接客と阿吽な調理。ふたりで具を盛りお盆にのせておまちどうさまと配膳されカウンター越しに受け取るラーメン。
ずっしりと重い。
すこし緊張しながらテーブルにおろし対峙するそれ。ピカピカの銀のお盆に洗面器のようなと言われる丼と視力検査で使うような大きなレンゲ。なみなみのラードが覆う茶のスープにげんこつの様な塊の麵が沈み、どでかいチャーシューとメンマとナルトが添えられる永福町な面構え。
重いレンゲを握りいただきます。啜るスープは見た目のボリュームの凶暴さとは裏腹な円やかなやさしい醤油。熱々の旨みを纏うラードに包まれるバランスよく丁寧に混じる煮干の風味と動物のコクに止まらないレンゲ。おいしい。
啜る細く縮れる柔めながらぷつんとした心地よい歯応えの麺は最初その塊るボリュームに怯むけれどもするするとスープを纏い喉を滑り、気づくとあれ、もうないのと物足りなさを感じる不思議。
むっちりとした豚の旨みが詰まる肩ロースの肉厚のチャーシューを大切に頬張り、カリコリと幅広の薄っすらと味が染むメンマ然とした繊維を噛み締める。スープに泳ぎ散る葱のシャキとした食感と風味が良いねと妻と話し進む箸。
ラードに包まれ最後まで熱を持つスープ。息を吹きかけすこし冷ましズと啜りじわりアツツと喉を通るしあわせに浸り、絡みつく麺をズババと平らげて満足する。
店主と奥さまの丁寧な心地よい所作を眺め食べるその人柄が滲む万人に受け入れられるだろうやさしいラーメン。物語る13時半を過ぎてもなお続く外待ち。
ごちそうさまとお会計をし気持ちよく見送られ満たされてお店を出る。