創業30年になる蒲田の名物定食屋
黒い筆文字で「昔懐かし定食や 壱番隊」の白いのれん、厨房をぐるりと囲む木のカウンター、壁にはお品書きの木札と立派な神棚。どれもいい感じに年季が入っていて、えもいわれぬ昭和感が漂う。でも、『壱番隊』の歴史は平成から。
「開業した年ですか? この間、親父に聞いたら30年にはなるそうです。でも、どうなんですかね。自分は初台で育って、長いこと親父とは疎遠になっていたんですよ。この店に入ったのは15年前なので、開業当時のことは正直よくわからないんです」と、堀内範臣(のりたか)さんは言う。店主、堀内孝雄さんの息子さんだ。
30歳の頃に、それまで身を置いていた音楽業界から離れ、お父さんが営む定食屋で働くようになった。当初は夜の担当だったが、現在、お父さんの孝雄さんは体調を崩してお休み中。範臣さんが一人で店を切り盛りしている。
ベテランパートに叩き込まれた料理のラインナップ
カウンターの上には、大きな丼に盛られたひじきの煮付けや、しいたけの煮物、ナスの味噌炒めなど総菜がずらり。大将の孝雄さんは、その昔、在ドイツ領事館の料理人として働いていた腕の立つ料理人。その後も割烹料理店や高級和食店で腕を振るっていたという。
それゆえ料理はお父さん直伝と思いきや、「料理は、主に親父と一緒に20年以上働いていたパート従業員のみねさんから教わりました。みねさんはずっと親父と一緒に働いていて、よく女将さんと間違われていたんですが、大ベテランのパート従業員なんですよ」と範臣さん。
そのみねさんも、高齢ということもありコロナがまん延した時期に引退。ビール好きでおしゃべり好きな名物大将とおばちゃんの店から、ファンキーな大将が腕を振るう店へと雰囲気は少しだけ変わった。
塩焼きに西京焼き、自慢は旬の魚料理
『壱番隊』のメインは旬の魚料理。入店して席に着くと、範臣さんがカウンターに並ぶその日のおかずを説明してくれる。訪れた12月中旬は、さんまの塩焼き、鯛の西京焼き、サバの塩焼きから選べるようになっていた。以前訪れた時は、脂が乗ったマグロの尾の輪切りが並んでおり、魚料理に力を入れていることがよくわかる。
選んだ魚料理は、注文を受けてから焼いてくれる。今回は鯛の西京焼きをチョイス。魚が焼き上がる前にパックの納豆と、ご飯、お漬物、レンコンのきんぴらが次々と出される。魚が焼き上がる直前に熱々の味噌汁も渡された。
西京焼きは、表面はパリッと、身は中までふっくら。香ばしい西京味噌の風味と甘めの味つけにご飯が進む。納豆を食べようとするとご飯が足りなくなるくらいのボリュームだ。ご飯はお代わり自由なので、お代わりるすのもいいだろう。
鯛の西京焼き定食は1100円。さんまの塩焼き定食は同じセットがついて1300円。定食の予算は1000円〜1500円で、メインによって違うので聞いてみてほしい。
蒲田の風を感じながら昼飲みしてもOK
「親父は岩手県の出身。東北だからちょっと味が濃いのかも」と範臣さん。ついつい酒も欲しくなるような味だ。そのまま昼飲みに突入したい誘惑に駆られる人も多いはず。もちろん時間が許すならビールもあるのでもう一品追加して、そのまま昼飲みしてもO K。
店先にはテーブルもあるので、蒲田の風を感じながらゆっくり楽しむのもいい。ワンオペなので、用事がある時は店を閉めることもあるそう。営業時間や休みの日は、公式インスタグラムで事前に確認してから足を運ぼう。
取材・⽂・撮影=新井鏡子 構成=アド・グリーン