「しあわせになれるパン」は、最高のロケーションから生まれる
愛媛県の県庁所在地、松山市の隣にある東温市。都市へのアクセスの良さと自然の豊かさが融合したエリアに、この町で大人気のパン屋さんがあります。海外を彷彿とさせる真っ白な建物が目を引く『Boulangerie Maison 辻』は、2015年にオープンしました。
「毎日の食卓で愛される、体に優しいパンを作りたい」と話すオーナーシェフの辻さん。元々医師になりたかった辻さんですが、志半ばで挫折。紆余曲折ありながらも、一般企業に就職します。ある日、上司に連れて行ってもらったパン屋さんで焼き立てのくるみパンを食べたとき、「こんなにおいしいパンがあるんだ」と感動したそう。健康な体をつくるためには食も欠かせないと気づいたことが、パン屋さん開業の後押しとなりました。
決め手は、石鎚山(いしづちさん)から風が吹き抜ける気持ちのいいテラス。お店の下には大麦畑が広がります。緑の麦が風に揺られている風景が理想どおりだったと話す辻さん。最高の場所で生まれるパンは、多くの人にしあわせを届けることでしょう。
店内はアンティーク調の家具やインテリア、観葉植物でおしゃれにまとめられています。すべてオーナーシェフである辻さんのセンスです。「今日はこっちの絵を飾ろう」「今はこのインテリアでいこう」と直感で決めているとか。「もっと変えていきたい部分もあるけど、お客さんにもセンスが良いねと言っていただけるので、すごくうれしいです」。
「どこか懐かしさを感じる、あたたかいお店にしたい」という辻さん。その言葉通り、『Boulangerie Maison 辻』はただパンを提供するお店というより、人々がほっと一息つけるような空間である印象を受けます。
「体に優しいパン作り」の鍵は製法、材料、そして心
店内には、多い日で1600個ものパンが並びます。“体に優しいパン”を作るため、辻さんはさまざまな工夫を凝らしているそう。「うちのパンは食感や味わい、季節に合わせて約20種類の粉を使い分けています。国産やフランス産、北米産やカナダ産などさまざまです」。
48~63時間ゆっくり発酵させたこだわりのパンは、噛めば噛むほど口の中に甘みが広がります。学生の頃に医師を目指していた辻さんだからこそ、「食は健康な体をつくる」という考え方が根本にあるのかもしれません。
しかし、パン作りにおいて辻さんがもっともこだわっているのは、「食べた人に笑顔になってもらえるよう、思いを込めること」だそう。「職人である以上、製法や材料にこだわるのは当たり前。お客様と話していると、多くの人に支えられて“パンを作らせてもらっている”と気付かされます。これからもお客様の声に真摯に向き合い、しあわせになってもらえるパンを作っていきたいです」。
支えてくれるお客様の「ほっとひと息つく時間」に寄り添いたい
辻さんは元々、“形の綺麗なパンを焼くこと”に強いこだわりがあったそう。しかし、お客様が求めているパンはどんなものかを考えたとき、必ずしも形や見た目がすべてではないことに気づいたといいます。
「職人の魂的に、形が崩れたものや失敗したものは出したくないという思いがありました。でも、お客様はもっと身近で、日常の食卓になじむようなパンを求めていることが分かったんです。そんな等身大のうちのパンを食べて喜んでくれるお客様を見ると、私もうれしくなります」。
「お店を出すまではいろいろあったけれど、周りの人に支えられてここまで来た」と話す辻さん。お客様に恩返しするために、今日も心を込めてパン作りに励みます。辻さんの優しい人柄に、多くのお客様が集まってきているんだと感じました。
『Boulangerie Maison 辻』のパンは素材、製法、そして心にこだわり、丁寧に焼き上げたものばかり。最近は愛媛在住の外国人のお客様も増えてきていることから、海外展開も考えているといいます。「日本人が作る日本らしいパンを、海外でも展開できたらおもしろいですよね。うちのパンが国境を超えて、たくさんの人の“ほっと一息つく時間”に寄り添えれば最高です!」
取材・文・撮影=パンスク編集部